秘密のエルフさん(5)

 春から夏。季節というものは一瞬で流れ流れ流れていく。


 しかし、ここまでなんにもない。悲しさすら憶える。ゴールデンウィークは既に過ぎてしまった。


「というわけで色香さん相談があるんだけど」


 文芸部の部室。ドアの前。隣り合って座る僕と色香さん。6人分の机を挟んで対面にエルフさんが座っている。


「急にどうしたのかしら?いやらしいことでも考えついた?」


 え、この人は僕を思いつきでいやらしいことを考えるキャラだと思ってたの?


 いや、確かにいやらしくなくもないのか。仲良くなりたいという下心があるわけだし。


 僕がいやらしいかいやらしくないかでいえば圧倒的にいやらしいわけだが。何せ、初めて付き合う彼女=嫁なのだから一切の妥協はない。ルックス、家事スキル、スペック。


 ハセガワ由来の低スペックも理解しているのであわよくばくらいの欲望ではあるが、周りには巨乳で才女の色香さんに、現役【エルフ】のエルフさん。欲が出ないなんてやつは嘘である。玉なしに違いない。


「いやいや、そうではなくて。部活っぽいことしたいなーって思ってたんだけど何かないかな?」


 文庫本を閉じて色香さんを見やると、彼女もんーっと唇に指を立てて考えている。


 その仕草いいね。かわいいっす。


「それなら、お互いのおススメの本を交換して感想を言い合うのはどうかしら?」


 名案だわっ!と顔が言っている。ドヤ顔だ。


 違う、違うんです。色香さん。貴方お色気担当じゃありませんか。なぜ健全なんですか。チキってるんですか。


 言いたいけど言えない。複雑な男心である。


「わ、わあいいね。僕も2人がどんなの読んでるか気になるし」


 僕の答えを聞いて、向かいの席のエルフさんからジト目を頂いた。なぜだ。


「私は参加しません。するなら2人でどうぞ」


 おぉい、マジか。もう何のために文芸部入ったのエルフさん。


 ああ、魔法を解いてリラックスするためか。マジ無表情エンジェル。これもまた乙。


 めちゃくちゃ可愛くて目の保養だけども、最近、僕に対する視線が絶対零度の氷河期すぎてだんだん良くなってきてしまっている。これはいけない。融解してあげねば。


「でも、エルフさんせっかくの部活ですし、それに僕はもっとエルフさんと仲良くなりたいです」


「ふんっ」


 これは紛れもなく本心だ。不機嫌な表情も絵になるのだからこの人はほんとにズルい。


 僕とエルフさんの顔を交互に見比べた色香さんが手を合わせて微笑む。


「それじゃあ、まずはわたくしから左回りに本を渡して下さいな」


 色香さんからエルフさんへ。エルフさんから僕へ。僕から色香さんへ。それぞれのおススメの本が手に渡る。


「きちんと全部読んで、感想を原稿用紙1枚にまとめて頂きますわっ」


 未だ不服そうなエルフさんを気にも留めない荒業である。流石色香さん。空気の掌握はお手の物らしい。

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