秘密のエルフさん(4)

「あの、なんか凄い思い詰めてるっぽいですけど、大丈夫ですか?」


 崩れ落ちた森野エルフに視線を合わせるように片膝をついて訊ねる。


 ぱっと顔を上げてこちらを見た後、何かを決心したかのように口を開いた。


「確か、ハセガワくんといいましたね。その......不躾なお願いだと重々承知しているんですが、できれば私のことは内緒にしてほしいんです」


 そうか。さっき言ってたように彼女の体質は、先祖返りは門外不出なのだ。罰が下されると言っていたので当然の口止めだ。


「それは勿論大丈夫ですよ。誰にも言いません。安心してください」


「安心......そうですか。今は貴方の言葉を信じます。」


 彼女は探るように視線を彷徨わせた後立ち上がってスカートの埃を払った。


「森野エルフです。嫌いなものはや肉です。家名で呼ばれるのは好きではないので名前で呼んで下さい。どうぞよろしくお願いします」


 なんか人間と肉を纏められたような、人間の部分に彼女の悪意が集中しているような気がしたが、気のせいということにしておこう。好きなものは教えてくれないらしい。


 せっかくあの森野エルフが自己紹介してくれたんだ。ここは僕も。


「僕はハセガワ––––––」


「名前だけで結構です。私は帰ります。それでは」


 続きを聞くこともなく、サッと身を翻して部室から出ていってしまうエルフさん。


もしかしなくても嫌われているぅー!なぜに?!


 彼女は帰ってしまった。一人取り残され呆然と夕陽を眺めていたらなんだか目がしゅわっとした。



 ***



「お兄ちゃん、カレー、もう、すぐ、できます」


 鍋がコトコトと音を立てている。ハセガワ家のリビングにはカレーのいい香りが部屋に広がっていく。


魅夜ミヤ。冷蔵庫にプリン入れてあるからカレー食べ終わったら食べていいからな」


 そう言うとニコリと笑って頷く。雪に似た白銀の髪がふわりと揺れる。


 我が妹ながらエンジェル。クソオヤジの唯一の功績だと思う。


 魅夜がカレーをよそって一緒にいただきます。


 魅夜のカレーはいつも美味しい。隠し味とかハーブとかも使ってるらしく、しばらくすると僕は全部綺麗に平らげた。


「お兄ちゃん、何か、あった?」


「え?」


 魅夜は鋭い。僕が落ち込んだり悩んだりしているといの一番に気づく。この流れでエスパーとか言われたら信じてしまいそうだ。


「お兄ちゃんは、悩み事、あると、甘いもの、買って、くる」


 あっはん。脇が甘いとはこのことね。恥ずかしくて顔が火照る。


「大したことじゃないから大丈夫だよ。強いて言うなら理由もよく分からず嫌われた」


 ほんとダメなお兄ちゃんである。大したことないと言いながらの本音丸出し。


「よし、よしです。お兄ちゃんは、いいとこ、いっぱい、ある。だから、だいじょぶっ」


 向かい側から必死に手を伸ばして頭を撫でようとしてくるが届いてない。ぷるぷるしてるラブい。


「ありがとう。充分癒されたよ。ありがとうな魅夜」


 そう言って撫でると首を伸ばしてんーっと頭を手のひらに擦りつけてくる。


 何この生き物。魅夜ちゃんマジ天使。


「えへーっ」


 多分ずっと撫でていられるぞこれ。


 ふと視界の端に魅夜が手をつけていたカレーが目に入る。いつも食べるのが遅いと思っていたけど、量が全然減ってない...?


 ダイエットなのだろうか。少し心配だ。


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