秘密のエルフさん(2)

 ドアノブを回した先。夕陽に染まる部室。


 少しだけ本と埃の臭い。なんだか安心する。それはいつもと何も変わらない日常の一コマ。


 本棚と6つの机を突き合わせたテーブルに2つの椅子が仲良さげに並んでいる。


 いつもと変わらないはずなのに、やはりいるはずのない人がいるというのは部室というこの空間自体がまるで別物に変わってしまったかのようだ。


 目を開けるとドアノブを回す前に感じた気配の主。だけどこれまで見ていた彼女のイメージとは少し違った。


 彼女はテーブルに腰を下ろして後ろを向いていた。髪型はお団子が2つ。チャイナ風お団子ヘアーである。うなじからピョンピョンと何本か髪がはねていて可愛らしい。


 そしてなんといってもいつもは見えていない可愛らしい耳が。そう尖った耳が見える。


 ん?尖った耳だ。そして長い。


 ん?長く尖った耳だ。きっと世界最高記録。ギネスホルダーに違いない。


 長く......尖った耳だ......


「えっ?」


 振り返った金髪碧眼美少女の視線の先には昨日、自らの横を全力で走り去ったフツメン。


「ほあああ......」


 目があった。


 先に声を上げたのは彼女の方だった。間抜けな声は僕だ。


 お互いがお互いを確認して硬直する。


 ハセガワは見てしまった。


 森野エルフは見られてしまった。


 どうする?どうする?どうする?どうする?


「勘違いしないんでほしいんですが、これは作り物です。そう......これは演劇部の助っ人です!!」


 くわっと目を見開く森野エルフ。熱心な彼女の訴えとは裏腹に耳はピクピクと動いて自己主張している。


「あ、あの動いてますよね?」


「はえっ?!」


 ひかえめなツッコミに過剰に反応して、さらに耳がピクピク。


「演劇部うちの学園はないんですよ......」


「......」


 口をパクパクさせながらも続けて出てくる言葉はないようで、真っ青になったり赤くなったり、昨日の無表情が嘘のように見える。


「ま、まあ本物のわけがないですよね!まるで物語の中の【エルフ】みたいですね!」


「うぇっ?!」


 特に何か弁明するわけでもなくワタワタと忙しなく手を動かしている。


 めっちゃ可愛いです。ギャップ萌えです。


「じ、冗談です。冗談です。あの昨日は失礼な態度をとってしまってすいませんでした。それをまず伝えたくて。それにこれから同じ部員になるので話ししたいなって......」


「こほんっ。そ、そうでしたね。昨日はこちらもまともに挨拶できずにすみませんでした。でも、会話は最低限でお願いします。私あまり人と馴れ合うつもりはありませんので」


 ぴょんと腰掛けたテーブルから降りて咳払いをするとまくし立てるように彼女は言った。


 素晴らしい精神力。さっきまでワタワタしていたのが嘘のようだ。落ち着き払って無表情になっている。まるで別の人と話しているかのようだ。


「ところでさっきからフワフワしてる緑の光はなんですか?」


「ぎゃぁああああああああああああああっ?!」

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