秘密のエルフさん(1)
放課後。
夕暮れの教室で机を挟んで向かい合うは、フツメン代表の僕とイケメンクールキャラ(自称)のコバヤシだ。
普段であれば部活動に勤しむところだが今日は休みだ。とことん頼れるコバヤシくんに話を聞いてもらおうではないか、ということだ。
椅子の背もたれに体を預けて、昨日のあらましをコバヤシに話して聞かせると、「はははっ...」と引き笑いをしている。
「うーん、普通はお近付きになれるチャンスなワケだけど、何をそんなに悩むワケ?ぐいっと行こうぜぐいっと」
またこの男は簡単に......
昨日は結局、写真集も見る余裕がなかったというのに。
「つまりさ、どうしたら森野エルフと話せるようになるかってことなんだけど」
「ああ、普通に話せば話せるんじゃね?」
コバヤシ全然頼りにならないんですけど。こっちの納得いってない表情を見てか、困ったように笑いながら続ける。
「はせやんは意識しすぎなんだよ。森野エルフは同じ人間なんだしよぉ、神様でもなければ妖精でもないんだぜ?」
【神様】【妖精】それはネットやニュースで彼女を表現した言葉だ。
だが、コバヤシの言うことは尤もだ。彼女は1人の人間であって崇拝される何かではないのだから、こちらも1人の人間として接すれば良い。自分でハードルを上げることで拒否されたあとも安心が欲しいのかもしれない。
相手は【神様】【妖精】なのだから仕方ないのだと。
けれど、僕は話したいと思う。
––––––憧れの人。
「よ、よーし!そうだよね!彼女は人間!僕も人間!人間皆、兄弟!ワンフォーオールオールフォーワン!僕行ってくるよ!!」
これからは同じ部員で仲間でもあるのだから仲良くなるに越したことはない。
お近付きになんてそんな贅沢は言わない。長い人生の中で森野エルフと話したことがあるって、いずれ結婚した奥さんや生まれた子供に自慢してやるんだ。
教室から勢いよく飛び出す。
「お、おぉ?!今日部活休みだろ?!」
背中からコバヤシが何か言ってるが聞き取れなかった。
廊下を走り抜け、階段を一段飛ばしで駆け上がる。
目的の文芸部室前まで到着すると人の気配がする。ドアノブに手をかけてゆっくり押しながら、ふと思い出した。
あれ?今日部活休みじゃね?と。
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