第四章 時間跳躍の果てで③
俺は走っていた。息が切れるのも構わない。兎に角、只ひたすらに高瀬神社へと向かって走った。
神事が前に跳んだ時と同じように進行しているのなら、瑞葉が頂上の湖の建物に入るまでにまだ猶予はあるだろう。急げば十分に間に合う筈だ。
「やばっ」
神社の前まで来た時、氏子と思しき人に姿を見られそうになったので、俺は咄嗟に近くにあったコンクリート
神経質過ぎるか? いや、念には念をだ。万が一邪魔されたら終わりなのだから。
ちょっと迂回してから中に入ろう。俺は入口から離れ、神社沿いを放物線を描くように移動した。そうして人気のすっかりなくなった場所まで来たのを確かめてから、俺は神社へと近付き、そして中に入った。
「ん?」
ふと、さっきまでなかった筈の人の気配を背後に感じ振り返ったが、そこには誰もいなかった。
気のせいか。多分、人型の飛び出し標識を人がいる気配と勘違いしてしまったのだろう。善は急げだ。俺はさっさと柵を超えて山の中へと入っていった。
前と同じように山を登っていく。途中で薄い霧に襲われたが、幸い周辺の視界は把握出来る程度だったので、俺はそのまま進み続けた。
百回殴られたって構わない。さっき別れを告げたばっかりなのに、もう会いに来て妙な気まずさになったって構わない。
何が何でも瑞葉、お前を守る。
そうだ約束したんだ、お前を守るって。だから俺はその約束を守らないと。
体に
「はっ」
出てきた所に湖は無かった。いや、それは正確ではない。視界の下に湖が広がっていたのだ。
俺はどうやら頂上にあるミニチュアな山の上にいるようだった。ひょっとするとさっきの霧のせいで方向感覚が狂ったのかもしれない。
空を見上げれば嘘のように満点の星空が輝きを放っている。そのお陰なのか、視界は夜の都会のように極めて良好だった。山の上の星空というのはこんなにも力強く煌びやかで、そして美しいものなのかと、俺は一瞬目を、心を奪われてしまった。
ああそういえばと、俺は思い出した。これはいつぞや日司が見せてくれたあの星空と同じ景色だ。あの時程ではないが、流星が流れている。その流れ星はまるで、自分達は生きているのだとでも主張しているかのような、儚げながらも力強い輝きを放っていた。
いや。今は悪魔的な魅惑で惹きつけてくるこの景色に見惚れている場合ではない。俺はこの景色に打ち負かされないように頬を叩いて己を鼓舞させた。
「瑞葉」
湖の方を見下ろして、瑞葉の姿を探す。
いた。
薄っすらとだが、遠くから確かにその姿を確認する事が出来た。
今行く、待ってろ。
「吉屋」
呼び止める声がして、俺は一瞬自分の耳を疑った。何故、ここでその声を聞くのだ。有り得ない。
何故ならばお前は、この時間は山の麓にいる筈なのだから。
俺はその正体を確かめるためにゆっくりと振り返り、自分の予想が当たってしまった事に
何故なら、そこに立っていたのは岡辺だったからだ。
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