第14話 つかない神社

餅をつくと神社にお供えに行く。

我が家に代々伝わるしきたりだ。

神社の狛犬を我が家のご先祖様が奉納したためである。

神社は石段を上がってすぐだ。

その日も夕方、餅をつき終わり丸めたものを神社にお供えしてくるように母から頼まれた。

風呂敷にお餅を包んで階段を上がる。

たん、たん、たん、たん……おかしい、一向につかない。

今度は走る。

だだだだだ……おかしい、一向につかない。

というより全然進まない。

ひたすら登ってもつかないものだから、心細くなり、今度は階段を降りる。

たん、たん、たん、たん……おかしい、一向につかない。

今度は走る。

だだだだだ……おかしい、一向につかない。

まったく出口につかないのだ。

鳥居は見えているのに一向に近付かない。


そのうち持っていた風呂敷がどんどん重くなってきた。まるで漬物石を包んでいるかのようにずっしりと重く。


恐ろしくなって餅を階段において家の方に駆けおりると今度はすぐに家についた。

母に「神社、つかなくて、餅置いてきちゃった……。」というと母は笑って

「私もあったわ。大丈夫、もう一度行ってごらん。」と言った。


母に言われた通りもう一度階段を登ると今度はすぐに神社の境内についた。しかも階段においたはずの風呂敷がなかった。不思議に思って境内を見渡すと、狛狐の首に風呂敷がかけてあった。風呂敷を広げて餅を供え、狛狐にも一個ずつ餅を置くと風呂敷の中に一つ、松ぼっくりが入っていた。


それはとても大きな松ぼっくりだった。


◇◇◇◇


「その松ぼっくりはどうしたんですか?」

「さあ、忘れちゃったな。子供のことだから、宝箱みたいなものに入れて、しまって、いつの間にかその宝箱すら忘れちゃった。」

「宝ごと忘れちゃったんですね。」

「あんなに大切だったのにね。」

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