第11話 キープボトル


店に来ていた常連さんの訃報が届いたのは夏も盛りの頃だった。

階段から落ち、頭を打って即死。

「そうか、苦しまないでいけたのがせめてもだよね。」

バイト先の店長がそう呟いた。


それから数日後。

裏口で空の瓶を捨てていた時のことだ。毎日のようにきてビール瓶を一本開けていたその常連さんが来なくなり、捨てる瓶の量も極端に減ってしまったと思った。


するとカランと店の鐘がなり

「もちこさん」

と呼ばれた。

「はーい!」

急いで店に戻るが誰もいないのだ。

ふと気づく、その声は亡くなったはずの常連さんの声だったと。

いつも私の名を呼んで店に来てくれていた常連さんの……。


はっと気付いてキープボトルの棚を覗く。

常連さんが最後に入れたキープボトル。

店長が気付いたら捨ててしまうかもしれないからと奥に隠す。


「キープボトル、まだここにありますから。」

誰もいない店内に呟いた。


◇◇◇◇


カラン、と喫茶養蜂箱の扉が鳴る。少し驚きつつ振り向くと女性が一人中に入ってくる。


「あの人だって生きているかわからないですよ。」

あきちゃんが悪戯に笑う。

すっかり冷めてしまった焼きたてのスコーンを半分に割ってたっぷりのクリームと共に食べる。

「じゃあ、あきちゃんも死んだらここにくるの?」

「もちこ先輩がいるなら来るかもしれません。」

その返答に満足げに頷くとスコーンの残り半分を口に放り込む。

甘ったるい生クリームの甘さが口の中に広がっていった。

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