第9話 雉の告げるもの

雉の鳴き声を聞いたことがあるだろうか。

それは耳をつんざくような、女の悲鳴のような、酷く不気味な声なのである。私はこの不気味な雉の声をはっきりと間近で聞いたことが二回だけある。


最初の鳴き声が聞こえた日、祖母が死んだ。


夜、机に向かっていると突然窓の近くで雉が鳴いた。すぐに雉とわかった。

祖母から以前不気味な声だと聞いていたのだ。つんざくような、女の断末魔のようなその声を聞いて恐ろしくなり私はすぐに寝た。

しかしその日入院中の祖母が悪化し亡くなったのだった。


二回目は東京に出てからであった。夜、バイト終わりに町を歩いていると突然あの鳴き声が聞こえた。

住宅街の、マンションの隙間からである。

こんな街中に雉がいるはずはない。恐ろしくなり急いで逃げ帰るとそのまますぐ布団に潜り込んで寝てしまった。

朝目覚めると母から連絡がきていた。

「ひいおばあちゃんが亡くなったから帰ってきて。」


はたして私が見たのは本当に雉だったのだろうか。二回ともその姿を見てはいないのだ。あるいは、雉のような何かを。


3.11の前日、友人が雉が鳴くのを聞いた、という話を後に聞いた。よくないものを告げる。雉あるいは。


◇◇◇◇


「……鵺?」

そう呟いたあきちゃんに無言で頷く。

姿を見せずに鳴く鳥をかつての人々は恐れ、イメージを膨らませ、そして鵺は生まれた。

あくまでイメージ上の存在なのだ、実体を持ってはいない。けれど。

「いると信じて仕舞えば、きっといるのよ。鵺は私たちが生んでしまうの。私たちの心が。」


次に鳴くのはいつか。

少しだけ恐ろしい。

私の心はその時何を生み出すのか、が。

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