第8話 お冷
地元の県境にとあるトンネルがある。そこはそこそこ有名な心霊スポットになっているのだが、かつてそこの峠を掘る際に落盤事故があり多くの人が亡くなった。そのため霊が漂い、さらに多く集まってくる。そんな話が地元では噂されていた。
小学校の友人の家はその山のトンネルの前でラーメン屋を営んでいた。
これはその友人から聞いた話である。
ある時友人がバイトをしていると大きな荷物を背負った老人が歩いていく。その先には車道しかないトンネルがあるのみである。危険だと注意するために追いかけたが、老人は消えてしまっていた。一本しかない道の上で忽然と。
ラーメン屋はガラス張りになっており、そのガラスを通して見えるはずの無いものが見える。
山中にあるトンネルの目の前の駐車場はそのラーメン屋以外に利用客はないため、車から降りてきた人数を見てすぐにお冷を用意しておく。
しかしまれにその用意するお冷が一つ多いことがある。
一度だけならまだしも、それが複数回ある。それも決まって同じ女が客と一緒に降りてきて店に入る頃には消えてしまう。
その話をそのラーメン屋で友人から聞いていると駐車場に車が停まった。中から男二人と女二人が降りてくる。
友人がお冷を四つ用意すると、ラーメン屋の入り口の鈴がチャリンとなった。
「四名様でよろしかったですか?」
「え?いや……」
◇◇◇◇
「ガラスを通してこの世には無いものを見る、ですか。」
あきちゃんは、喫茶店の窓をじっと見ていた。地下から地上を眺めるように。
「そもそも、何が本当なのか。私たちがガラスの中で夢を見ているだけかもしれない。」
「胡蝶の夢、ですか。」
「あるいは胎児の、ね。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます