第7話 時々ある岩

気づいたのはいつだったか。


駅へ向かうとあるバスを降りると向かいのビルの前に大きな岩があるときがある。

大きさは三歳時児くらいだろうか。そこは駅前。そこそこ賑やかな通りで歩道のど真ん中にそのような岩があるのはとても不自然で気にするようになった。

道祖神と考えれば説明がつくのだが、しかしその岩はアスファルトに突然現れる。

そう、岩はあるときもあり、ないときもあるのだ。

まさか誰かが動かしているとでも言うのだろうか。

同じ曜日の同じ時間のバスに乗っておりても、岩はある時とない時があるのだ。

道路を挟んで向こう側に、こちらを見るようにその岩はじっと佇んでいる。

一度帰りにその向こう側に行って岩を探したことがあった。けれどもすでにそこに岩はなく、岩があった場所は住宅情報が貼ってある窓ガラスがあるだけであった。それから何回か向こう側の通りを通ったが、岩があったことは一度もなかった。


けれども、まだ向こう側のバスを降りると、時折岩があるのだ。

今日も岩は行き交う人々を見ている。


◇◇◇◇


「看板かなぁって思うんだけどね。」

「岩を看板に?」

「目立つかなって。」


そう言いつつも疑問は残るのだ。

なぜなら、向こう側を歩く人々は、誰も岩に足を止めたりしないのだ。

まるで岩などないかのように脇目も振らずに歩いて行くのだ。


「人間は意外と見えてないからね。」


喫茶養蜂箱は入り口に大量の木馬が並ぶ。なかなか奇抜だが、街にすっかり馴染んでおり足を止める人も少ない。サラリーマンが腕の時計をチラチラ見ながら足早に去って行った。


此方が見ていることを気づきもせずに。

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