第6話 山のお祭り
生まれ育った東北の山奥の村での話である。
それは小学校に上がる少し前のことであった。庭で蜻蛉を捕まえようとしながら遊んでいると裏の畑から祖母がきて「祭にいかねが」と言うのだ。街はすっかり夕焼けに染まっており、祖母の顔は曖昧でよく見えなかった。
私は喜んで「いく」と答えた。祖母は「んだらば、おぶされ」と背中を差し出してきたので素直にそこにおぶさると、祖母は裏山に向かい、軽々と神社の階段を登り祭に連れて行ってくれた。
境内にはいくつも屋台が並び、赤と白の提灯が交互に並んでいた。
「ばあちゃん、チョコバナナ食べたい。」
「だめだだめだ、食っちゃあだめだ。」
夕餉が近いからだろうか、祖母は屋台のものを何も買ってはくれなかった。
祖母に手を引かれて境内の中央に行くと何人かの子供がお囃子を吹いていた。
「ほら、あの右端の子、おめーの従姉妹のゆきちゃんだべ?」
「え、だってばあちゃん、ゆきちゃんは悪い子だったから連れてかれたって言ってねっけ?」
そう言って祖母を見上げるとなぜだか悲しげな顔をして
「んだにゃあ、悪い子だ。みんなば悲しませて。」
そう言ってただそのお囃子をふく少女を見上げていた。
帰りもまた祖母の背におぶさったのたが、私はつい眠ってしまった。
起きると祖母は洗濯物を畳んでいた。「ばあちゃん、祭楽しかったね。」と言うと祖母はぽかんとして「祭あてまだまだ先だべ?」と言った。不思議に思ってことの顛末を話すと、「さてはお前狐に騙されたな。」と祖母は大口を開けて笑った。それから少し寂しそうに笑って
「んだが、ゆきさ会ったが。」
と言った。
未だにそれが私には夢ではないことのように思えるのだ。
◇◇◇◇
「ゆきちゃんって……。」
「うん、従姉妹。同じ歳の。小さい時小児癌で亡くなったの。教えてもらったのだいぶあとだったけどね。」
いまだに仏間には赤いランドセルが一つ、供えられている。私が入学するときに祖母がお揃いで買ったもう一つのランドセルが。
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