第5話 とまるエレベーター

夜の講義が終わった。

一番遅い時間の講義は受ける人も少なく、大学に人影はほとんどない。

昼の喧騒がまるでなかったかのように校舎は静まり返っている。人のいない大学はなんだか別の生き物のようだ。


そう思いながら階段を降りているとたどり着いた階でポーンと音がしてエレベーターの扉が開いた。

中にも外にも誰もいない。

不思議に思いながらまた階段を降りる。ポーン、エレベーターが開く。

誰のいたずらだろう?

階段を降りる。

ポーン、エレベーターが開く。

まるで私に合わせるかのように開くエレベーターを不気味に感じてスピードを早めて階段わ降りる。

ポーン。

結局一階につくまで各階でエレベーターは開き続けた。


◇◇◇◇


「誰かが一番上の階から全部の階のボタンを押しただけ、って考えたらそれでおしまいなんだけどね。」


わずかに残ったコーヒーを飲む。氷が溶けて薄くなった、苦い水。


「でも、スピードを上げたのに同じように開いたのはなんででしょうね?」

「都合よく壊れたのかもよ。」


説明しようとすれば、なんでも説明できる。けれど違和感は後味のように残るのだ。うすく、うすく。

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