第3話 江戸の湿地帯

誰もいないはずの教室で突然水の音がした。


朝の一限目はギリギリに来る学生が多い。その日私は早起きをして、一時間前の教室で一人提出予定の課題に追われていた。


そんな中での突然の水音。

誰か来たのかな?と思いつつ辺りを見渡すが、果たして誰もいない。

目線を課題に戻しまたペンを握ると、何処からともなく水音。ちゃぷん。それは池にカエルが飛び込むような、そんな音だった。


ふと、江戸はかつて湿地帯だったと思い出す。葦の沼地を思う。そこで跳ねる一匹のカエル。


これはおそらく土地の記憶。かつてここにいた、命たちの記憶。


◇◇◇◇


「で、課題は終わったんですか?」


あきちゃんの問いかけにふふふ、とただ笑って窓の外を見る。


「時間の流れって結構早いから、取り残されちゃうこともあるのよね。」


今日は晴れている。遠くに見えるお堀には蓮の葉が徐々に増えてきていた。見えはしないが、きっと亀やカエルが日向ぼこしているだろう。

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