第40話 ジャギーボンバイエ
一万の軍が編成された。
当然のように、そんな大規模な軍事作戦は俺たちの方にも情報が入る。
だってこの世界にはステルス爆撃機もミサイルもない。
一万人の軍に従軍する娼婦とか商人とか、作業員を入れたら数倍の数である。
現代社会ならコ○ケに57万人が来ても驚かない。
でもこの世界では3万人が移動したらトップニュースレベルの出来事である。
だってこんな大移動ないもん。
かつての日本だって同じだよね。
レジェンドクラスの大合戦。
かの有名な関が原の戦いだって20万もいかないのだ。
壇ノ浦は1万くらい。
一万しょぼい。
埼玉県深谷市の人口より少ないじゃん。
と思うかもしれない。
でも実際は大魔王の討伐軍としては十分現実的な数である。
だが……甘い。
さいたまスーパーアリーナの動員数は3万7000人。
東京ドームは5万7000人。
そんなイベントが毎月どこかで行われている世界の住民なのだ。
5万人でもさばいてくれる!
討伐軍が魔王領に到達した。
なんの武装もせず、ごく普通に門が開放されている都市。
彼らを出迎えるのは、突貫工事で作った闇の神の像。
芸人の江○に似せたのは一点の曇もない純粋な嫌がらせである。
「お前に一言物申す!」のポーズも取らせてやった。
ざまぁッ!
なおレミリアの希望で光の神の像も作った。
こちらは美形の男性。
……なんか悔しいので夜中に落書きしてやろう。
そんな像を見て彼らは略奪もせずに面食らっていた。
すると突然音楽の演奏が始まる。
騎士が楽団を見るとそこにはマイクを持ったレミリアの姿があった。
マイク作ったよ! 頑張って作ったよ!
「本日は【ジャギーボンバイエ】にご来場ありがとうございます。
当コロシアムでジャギー・アミーバ様に見事勝利をされますと豪華賞品が……」
くくく……討伐軍の連中の度肝を抜いてやった。
そのまま討伐軍はダークエルフの係員にコロシアムに連れて行かれる。
もうすでに罠にハマったと思ったのか討伐軍は大人しかった。
討伐軍がコロシアムの中に入り、説明が終わるとレミリアがコールした。
「ジャギー様の入場です」
ちゅどーん!
次の瞬間、花火が上がった。
花火の煙の中から俺が現れる。
「男の中の男たち、出てこいやーっ!」
ちゅどーん!
なお、ふんどし一丁での暴れ大太鼓は部下たち全員一致で却下された。
悲しい!
もうなんとなくわかったと思うが、俺の計画は単純。
俺の討伐、それ自体をイベント化してしまったのだ。
ヴァレンティーノには思いつくことすらできないだろう。
俺は手を挙げる。
さらなる罠が発動する。
ギュイーンっと獣人さんが人力エレベーターを動かす。
絵面は奴隷を働かせる悪の帝王だけど、ちゃんと給料払ってるから!
払ってるからね!
すると貴賓席近くのエレベーター入り口から人間国の王様が出てくる。
「ではゲストの人間国国王様」
「な、なんだと!
なにをやった魔王ッ!」
おいおい。
ヴァレンティーノと同じでわかっていねえ。
戦う前には、もう終わらせてるんだよ。俺は。
就職氷河期の不景気を生き抜いた汚いおっさんのその人間力。
小さな組織で自分のポストを守る知略。
バカにされながらも中年フリーターや派遣で食いつないだ生命力。
家族にバカにされ、社会の敵扱いされながら、それでも強く生きるしぶとさを舐めるなよ!
コンクリートジャングルでの究極のサバイバル術を味わいやがれ!
俺がゴゴゴゴと闘気を発している気分になってると、レミリアが続ける。
「次に竜族魔王様」
次にシャイアがエレベーターから出てくる。
さらにコロシアムの周りを空から飛来したドラゴンが囲む。
ブッと何人かがむせ、その場にいた多くが言葉を失う。
さらにゲストが現れる。
レミリアが呼んだスペシャルゲスト。
豪華なガウンを着た爺様。
「次に神光教団教主猊下」
ぺたんっと何人もがその場に座り込んだ。
……完全に心を折ったぜ。
戦わずして勝つ。
1280円の本にしては効果があったな。
キャバクラで勝つ孫子の兵法と出会い系のための五輪書。
「次にアレックス辺境伯様……」
すると偉そうなヒゲが顔を赤くした。
「き、貴様!
我らを裏切ったか!」
アレックスさんはふふっと笑う。
「裏切り?
闇の使徒を敵に回そうとする売国奴どもが偉そうに。
いいか、ジャギー殿と私は兄弟の契を結んだ仲!
ジャギー殿に敵対するもの、それはすべて敵だ!」
義兄弟は口からでまかせだろう。
だがダメージは大きかった。
国王、光の教主、竜までをも俺は味方につけていたのだ。
もしかすると戦国時代くらいの力かもしれない。
それでもやはり権威は強いのだ!
「……ぬ、ぬう。
我らをここで皆殺しにするつもりか?」
それをやったらヴァレンティーノと同じコース確定だ。
だから俺はレミリアからマイクを受け取って答える。
「いいえ。私は言ったはずですよ。
男の中の男に出てこいと。
俺と戦う権利をあげましょう。
かかって来なさい!
ただし責任を取るべき人間以外は殺してやらない」
俺は討伐軍に死という名誉はやらない。
遺恨も残してやらない。
俺に一夜の伝説が残るだけ。
恨まれるのは間抜けな公爵。
死ぬのも公爵。
後の世に間抜けとして名を残すのも公爵。
「ええい!
では我らが参る!」
完全に腰が引けた傭兵勢。
対して三人の騎士が剣を抜く。
俺はコロシアムに飛び降りる。
ボキリ。……うん。調子に乗ったら腰骨と足が折れた。
ヒールヒール!
「かかって来なさい!」
剣を持った騎士に対して、俺は素手。
騎士は俺よりも近接戦闘の技術は上。
だけど俺の心は平穏そのものだった。
一瞬の間。
俺は二人の騎士に貫かれ、一人の騎士に袈裟斬りにされた。
だがそれは俺の狙っていた通りだった。
「自爆!」
ボンッと俺は自爆する。
次の瞬間、俺は俺を袈裟斬りにした騎士の背後に復活する。
「な!」
そのまま腕を首に回し締め上げる。
もちろんリミッターは外してある。
万力よりも強く頸動脈を締め上げる。
「がッ!」
だが他の騎士もバカじゃない。
俺を剣で突き刺す。
無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァッ!
俺に物理攻撃は効かぬぅッ!
……すみません。嘘つきました。
普通に痛いっす。だが根性!
俺の絞り出した根性で20秒もかからず一人を締め落とす。
死んでない。無事だ。
「はい一人」
「ふざけるな!
そんな戦い方があるかー!」
おいおい!
ヴァレンティーノと戦うよりはマシだろうが!
騎士が剣で首を狙う。
俺は避けもせず食らうが、騎士の首をつかんだ。
そのまま片手で持ち上げ声帯を締めたまま持ち上げる。
「無駄だ。
あなたは私と戦う資格がない。
降参しなさい」
もう一人の騎士が俺を滅多切りにするが相手にしない。
しばらく待っていたが答えがない。
と思ったら白目を剥いていた。
俺は騎士を捨てる。
「さあ、次は君だ」
「く、来るな!
来るなああああああああああッ!」
なんか態度が悪い。
ちょっとおじさんムカついた。
俺は下に潜り込む。
もちろん切られるが気にしない。自爆!
そしてヒールホールドを極めた状態で体を再生する。
ブチブチブチ!
俺の下手くそ関節技はリミッター外した腕力でカバー。
足の腱を引き千切ってやる。
「ぎゃああああああああああッ!」
俺は手を挙げる。
すると部下の獣人が騎士を運んでいく。
もちろん救護のためだ。
殺してなんかやらない。
魔王に戦いを挑んであしらわれた間抜けという記録が残るのだ。
「さあ、かかって来なさい」
さーて、俺と戦おうって連中はどれだけ残るかな?
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