第38話 討伐軍

 お部屋で一番厄介なゴミは金銀財宝だった。

 なにを言ってるかわからねえし、価値観がひっくり返りそうだ。

 はあ、はあ、お金のプールで圧死してみたい。

 違う!


「遥か昔、ドラゴンの間で光る物を集めるのが流行っての。

100年でみんな飽きたが、そのせいで人間がわくわ。

人間が死んでゾンビになるわ。

部屋は片付かないわで数千年経ってしまったのだ。

こんなものいらんのじゃ!」


 うわーお。

 うっかり生ゴミ放置したらコバエとゴキブリがわいた的な発言!

 たしかにコバエやゴキブリは残飯に命賭けてる。

 人間もいらない財宝に命を賭ける。

 ドラゴンから見たらどちらも大差ないと。

 うわーお、なんたる皮肉。

 この世界に来ると人間の立ち位置が客観的に理解できるわ。


「旦那。

輸送第二弾が来ました……って、なんじゃこりゃー!」


 俺が呆れてると商人がやってきた。


「うん、ゴミ」


「無理無理無理無理無理無理無理無理無理!

俺じゃ扱いきれない。死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!」


 商人がバグった。

 軽く国が傾く量だもんね。

 ここは浪費するのが仕事の政治家の出番か。

 俺は手を叩く。


「はい、みんなー注目。

これからのプランを発表します!

商人さんはゴミを買い取って差額で食料とか種とか道具とか手に入れてきて。

かなり大きなロットになるから。

本気で開墾するよ!」


「旦那。こいつはどうするんで?」


 商人さんが財宝を指差す。


「今は片付けるだけ。

私が新しく倉庫作るので木箱に入れていったん保管。

シャイアさんもそれでいいですね?」


「床が見えるならなんでもいいぞ!」


「食料生産と同時に道路を整備。

さいたまの街を中心に竜族の里と獣人国、それに人間の王国を街道でつなぎますよ。

商人さんは人足と物資の手配。

収益は通行料と重量税。

獣人の皆さんは街道の警備をしてもらいます。

安全な交易を約束できるようにしましょう。

要するに、みなさんが得意な傭兵家業です。

半農、半傭兵。我が国はこれでいきますよ!

シャイアさん、お金貸してください」


「うむ。いくらでも持っていくが良い。

できれば食料や本とか娯楽で返してくれるとありがたい」


 なるほど、金には頓着しないが物資不足なんだな。

 だって商人は誰もドラゴンに近づかないもん。


「承知しました。

じゃあ商人さん、物資お願いします。

私は人間の王国に手紙か書きますんで」


 と、ふと目線を部下にやるともじもじしてる。

 あ、おっさんわかっちゃった。


「はい、銅貨をくすねるくらいだったら私が補填するので不問にしますが、金貨銀貨、宝石に手を付けた人はすぐに返しなさい。

ちゃんと給料払うから!

……なお、あとで発覚したら獅子族の子を嫁にしてもらいます」


 ざざあっと、手癖の悪い子たちが青い顔をしてその場に捨てていく。

 もちろん罪は不問。

 俺だってちょっとくらっときたもん。

 罪の話は置くとして……確かに獅子族嫁にもらったら死亡確定なんだろうけどさ、そこまで怖がらなくてもいいじゃん。

 浮気には寛容だし、怒らないし、甘やかしてくれるし。

 ハーレム全肯定。

 すげえスペック高いよ。

 素手で体を引き裂かれるけど。

 女道楽の極北を試してみればいいのに。死ぬけど。


「旦那……それ実質死刑ですから。

命知らずが挑戦して結局死ぬからこそ旦那は神扱いなんですからね!」


「でも娘のナイフのほうがピンポイントで急所に刺してくるから痛いですよ」


 ティアのナイフ痛い。

 獅子族の求愛は即死攻撃だから痛いのは一瞬だけど、ティアのナイフは苦しむ系なのよ。

 肝臓刺してぐりぐりとか超痛い。

 ほら、獅子族の内蔵ぐりぐりってたいてい背骨まで損傷してるから痛みが脳までこないのよ。


「旦那の私生活はどうなってやがるんですかい!」


 商人さんが叫ぶ。

 ポクわかんにゃい。

 はいはい。こうして俺たちは商売を手に入れたのだ。

 ちゃんと通販業もやるもんね。

 目指せ異世界のアマ○ン!

 ようやくラノベ展開よ!

 やったー!

 世界をなめプしながら適当に生きよう!

 って思うじゃん。

 ……ところがね、この世界って命より金だったのね。

 いやー、おっさん完全に忘れてたわ。


 そう……忘れて数カ月。

 カサンドラが子猫を産んだころ……って妊娠期間短いな!

 ジャギーさんの子どもの誕生である。

 産まれた5人は全員女の子。

 男はいないのだろうか?

 多少気になるが、そんな暇もない。

 だっておっさん、実子の誕生前にすでに200人の子持ち。

 豊富な経験から男親にしかできないことがあるはず……。

 って思うじゃん。

 ところがないのね。

 だって獅子族って子育てする頃には男親死んでるし。……肉片だし。

 残りの獅子族で猫っ可愛がりの体制ができていた。

 母親たちで育てるのだ。

 少し大きくなったら「男の人を引き裂いちゃいけません」って教えようっと。

 このままじゃ絶滅してしまう。

 とにかく赤ちゃんができた。

 ドラゴンの里は道路やら井戸を掘って急速に近代化。

 もちろんさいたまは世界一の先端科学都市にしたわけだ。

 近代くらいの基準で……。

 要するに道路と井戸を設置しただけ。

 異世界人としてはフェノール樹脂くらいは作りたい。

 おっさん、理系じゃないのが悔しい!

 他の街への道路はまだ建設中。収益はゼロ。壮絶な赤字祭り。

 金が入ってくるのは三年後くらいかなあ。

 とりあえず収入が欲しいので日本に昔からある陀羅尼助丸、つまり腹痛の薬を作って販売している。

 ジャギー印で。

 これ売れまくり。

 だって本当に効くから。

 木炭の製造がもうちょっと多くなったら正露丸も作ろうっと。

 銀行などはまだである。

 銀行作る前に破産法作らないとね。

 破産できない社会って怖いのよ。

 人間の王国なんて借金返せないと奴隷として売られちゃう。

 怖い!

 破産超大事。債権者集会もう出たくない!

 と一人で悶ているとレミリアと商人さんが俺の部屋になだれ込んでくる。


「じゃ、じゃ、じゃ、じゃ、ジャギーの旦那!

たいへんだ!

人間のなんとかっていう公爵家が中心になって旦那の討伐軍の編成を呼びかけてる!」


 そっか、この世界の貴族って中央集権じゃなくて戦国大名制なのか。

 交戦権がそれぞれにあるやつ。

 そっかあ、そうか……。


「ちょっと待って、なんで俺殺されるの?

ちょっと意味わからない。

大司教の件?」


 レミリアが手をブンブン振った。


「ジャギー様、違います!

目的は略奪です!

この国を根こそぎ奪うつもりなんです!」


 十字軍降臨!

 面倒なことになったな。

 おっさんラブ&ピースでやってきたのに!

 ここ数ヶ月誰も殺してないのに!

 なんで俺の周囲は殺戮と破壊ばかりがつきまとうんじゃー!

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