第37話 竜の巣

 はい、ハウスクリーニング業界に進出したジャギーです。

 今ドラゴンの汚部屋ダンジョンに来ています!

 初任務なので魔王自らやって来てます。

 なお獅子族とカサンドラ、それにレミリアは待機。

 理由はシャイアがいると目線がケツに行ってしまうから。

 エロい顔をしたら最後、その場で肉片にされる。

 嫉妬とかじゃなくて、おじさんの発情を察知して……。ATMよりはましだもん。

 まずは竜王シャイアのおうち。

 はい、本当にそこら中に鱗が散乱してます!

 片付けられない竜の末期状態です!


「本当にそこら中に落ちてるな……」


 鱗を拾う。

 元の世界のどの魚よりも大きな鱗だ。

 透き通っていて指で弾くと高い音がする。

 俺は一番後ろに控えていた商人のおっさんに鱗を渡す。


「ジャギーの旦那!

本当に私だけじゃ無理ですからね!

竜の鱗の独占取引なんてしたら同業者に抹殺されますからね!」


 おっさん涙目。

 同業者は本当にやばい連中らしい。


「だから今回は査定だけですって。

竜の鱗の値段がわかる人が誰もいないんですから仕方ないでしょ」


「だからってね!

竜と掃除の約束って……もうね! もうね!

こんなのバレたら私の命がない……」


「だから言ってるでしょ!

組合作っちゃえばいいって。

知り合いの商人集めて私の前に連れてきてください。

そしたら私の名で組合作りますんで!」


「あー! もうね、世慣れしてる魔王はこれだからたちが悪いんですよ!

魔王だったら魔王らしく戦争のことだけ考えてればいいんですよ!

あんたね、ゴッリゴリの武闘派魔王の呼び出しに答える商人がどれだけいやがると思ってるんですか!」


 まあひどい。

 俺はハト派だよ。

 ロリを虐待する連中は発見次第抹殺するだけで。

 シャイアとも王国ともちゃんと話し合いしたじゃん。


「もうね!

竜族ってのは極端な弱肉強食。

強い相手しか認めない種族なんですよ!

強者は認めるが、それ以外は虫扱いなんですからね!

俺……生きて帰れるかな……」


「そんなこと言って、商人さんはいつも無事に帰ってきてるでしょ。

大丈夫、大丈夫。他の商人さんもいつかはわかってくれますって」


「行く先々で破壊と殺戮繰り広げてる旦那が言うな!

旦那ね、話題になってるんですよ。

王国に乗り込んで大司教殺してきたって!」


「だって邪魔なんだもん! ぷんぷん!」


「ほらね、これですよ!

獣人の皆さーん!

これが魔王ジャギーですよー!」


 我が国民、獣人のみんなは俺たちのやり取りを見てゲラゲラ笑ってる。

 商人とのやりとりは、ある程度の信頼関係ができているからこそなのである。

 とりあえず俺たちは最深部を目指す。

 最深部から入り口に向かって箒ではいて行けば楽に違いない……。

 ゴミの量が多すぎるのは気にしない方向性で。

 あ、剣が落ちてる。


「お、剣だ危ないな」


「旦那……それ……相当な業物の魔法剣です。しかもミスリル製」


 もうね、ぱっと見でわかるんだから商人さんも大概である。


「それじゃあ、これは剣の査定のボックスに入れといて」


 俺は獣人に剣を渡す。

 すると商人は不満そうな声を漏らす。


「ドラゴンにゃ、剣なんて必要ないでしょ。

もらっちまったらどうです?」


「だめ。

たとえ依頼人にはゴミでもちゃんとオープンな査定をする。

それが信用ってやつですよ。

これから長い付き合いになるんだからケチケチしない!」


「あー、もー!

なんでこの殿様!

商人みたいなこと言ってるんですかね!」


「だって元商人だもん」


「嘘付け!

旦那みたいな動くたびに死人が出る商人がいてたまるかーッ!」


 ひどい。

 俺はバッリバリの商人よ。

 とギャアギャア騒ぎながら奥に行く。

 シャイアは奥で寝床の片付けをしているらしい。

 無理だと思うのよ。

 ドラゴンはそういう生き物に違いない。

 先に進むとにゅうっと骸骨が出てきた。

 兜に鎧。レガースまで。完全装備だ。

 さいたまの街の住民にもスケルトンはいる。

 元不死族の奴隷だ。

 でもなんだろうか。微妙に違う。


「旦那! それは死霊が取り付いた遺体だ!」


 え、違いがわからない。

 ゾンビはゾンビ。

 でもスケルトンと死霊が取り付いた遺体は別。


「あー!

もう、要するにゾンビだ!」


「おっし!

殺るぞー!」


 おじさんは本気を出した。


「ウィイイイイイイイ!」


 エスタンラリアットでゾンビの首を飛ばす。


「はい、装備回収」


 ドロップアイテムがたくさんあるのだ。

 ちょっとダンジョンものみたいで楽しい。


「相変わらずデタラメっすね……」


「俺なんてまだまだッス」


「いやいや、光の使徒もいないのにゾンビを一撃で葬るとか化物ですかい」


「んー、でもこれでも手加減してるんですよ。

ゾンビだったら自爆して血をまき散らせば全滅させられますよ。

痛いし掃除たいへんだからしませんけど」


 あれは別次元の痛みなのでやらない。

 なんだか納得してない商人をよそに俺はダンジョンを突き進む。

 だけど進軍が途中で止まる。

 大八車に剣や鎧でいっぱいになってしまったのだ。


「うーん、予想以上に物でいっぱいですね。

危険なモンスターも少なかったので、商人さんたちは入り口まで戻ってください。

私はシャイアのところに進みます」


「つか、ゾンビってそんなに弱い化物じゃないですからね!

普通ゾンビが出たら軍を編成して決死の覚悟で倒すんですからね!

気にしないのドラゴンとあんたらのとこだけだっつーの!

なんでそんなに楽に倒すんだよ!

どんだけ武闘派なんだよ!」


 なんか商人が騒いでいるが聞こえないふり。

 さて徳の高いケツを見に行くか。

 とゴミ屋敷ダンジョンを進んでいく。

 しばらく進むと広い空間にたどり着く。

 シャイアの寝床だろう。


「なぜだ……なぜ片付かないのだ……なぜゴミが減らないのだ!」


 シャイアが呆然としている。


「上の方だけ混ぜっ返しているからかと。

掃除下手な人はたいていそうなんですよね」


「ぬお! ジャギー来たのか!」


「はいはい。それじゃあ片付けしますんで……ってなんじゃこりゃああああああッ!」


 もうね、そりゃ人間が殺しに来るわ。

 だってドラゴンが言うゴミって……金銀財宝だもの。

 宝石まであってピカピカ光ってるの!

 そうかドラゴンって金銀財宝の上で寝てたのね。

 金貨や銀貨の上に藁敷いて寝てるの。

 そりゃ命賭けようって気になりますわ!

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