第36話 新しい商売

 一応言い訳しとくね。

 俺が大司教を殺したのは単にムカついたからじゃない。

 もうね、このおっさん一人が生きてるだけで大勢が死ぬの。

 初手から魔王を悪だと決めつけてるの。

 おっさんね、和平しに来たの。

 もう殺し合いはやめようって提案しに来たの。

 なのにいきなり「殺せ」よ。

 確かにアポなし不法侵入だけど、おっさんそれをする武力を持ってるの。

 いきなり押しかけたのだって戦術の一つ。

 できちゃうんだからやるでしょ、アポなし電撃訪問。礼儀なんて無視して。

 和平という名のカツアゲだって、相互利益になるし。

 俺の突撃食らった王だって同じ穴のムジナってやつよ。

 できるもんならやる。

 手段は選ばない。

 そこにあるのは結果だけ。

 それが汚いおっさんの世界。

 次の転生は時止め用務員さんか催眠体育教師でお願いします。

 

 なのに大司教は全部壊そうとしたのだ。

 戦争で利益を得ていたとか。

 単に狂信者とか。

 魔族と刺し違えてもいいって考えてるレベルの差別主義者とか……。

 ヴァレンティーノは死んだのに戦争を継続しようとしたのだ。

 俺を殺そうとするのはそういう意味よ。

 とにかく大司教がいるだけで別の国になったのに、後継国家と戦争状態継続。

 人がたくさん死ぬところだったのだ。

 それにちゃんと殺すタイミングは考えた。

 もし大司教が背後関係をべらべら喋ったら、王は俺と戦争するか派閥の粛清をする決断を迫られた。

 だけど大司教になにも語らせず始末したから、真相は闇に。

 悪いのはすべて大司教で終了。

 真相ってのは暴けばいいわけじゃないのよ。

 新卒時代、学生結婚してそのまま幸せそうに暮らしてた先輩がいた。

 子どもができて、よーしパパがんばっちゃうぞーと幸せそうだった。本当に。本当に。

 ……DNA鑑定するまでは。

 つまりそういうこと。

 実利を優先すれば、わざわざ真実を暴く必要はない。

 トップを殺したのでしばらくは大人しいんじゃないかな?

 逆にこの事件をきっかけに、大司教への忠誠心とか友情を表に出して俺の討伐を主張してくるやつは逆に信用できる。

 そういう有望なのは王様が味方に取り込むと思う。

 宗教とか政治的理由で俺の討伐を強行する無能は粛清っと。

 それができなきゃ王様失格ね。


 実際、おっさんの作戦は成功。

 サクサクと和平は締結。

 書面にしたって国際連合もないから意味はないけどね。

 でもしばらくは殺し合いもなし。

 獣人も返還される予定。

 手付として、まずは王都で奴隷にされていた奴隷が故郷に帰ってくる。

 一件落着である。

 帰り道でシャイアもほくほくしていた。

 そういや忘れてた……シャイアは自分の利益をあまり主張しなかったな。

 希望を言うのが苦手なタイプかも。

 ちょっと怖いので今のうちに聞いておこう。


「竜族はなにか希望はありませんか?

こう商売したいとか」


「うむ……特にないな。

我ら竜からすれば人間は巣穴に湧く虫みたいなものだ。

気持ちよく寝ていると剣で刺してくるのだ。

痛いわ、たまに死ぬわ、言葉は通じるのに会話ができないわ。

巣の人間を駆除するとさらに外からやってくるわ。

滅ぼそうにも繁殖力が強すぎるわ。

巣を壊すのがとても面倒だわ。

とにかく困っていたのだ。

巣の襲撃をやめてくれさえすればあとは不満はない」


 なんだろうか……。この説得力。

 ドラゴンにとっては人間は南京虫相当の害虫なのである。

 そりゃ害虫は駆除しますわ。

 俺は納得したので話を変える。

 次は獣人と竜の和平だ。


「他にはなにか困ってることとかありませんか?」


「そうだな。

巣を掃除してほしいくらいかの。

人間の死骸に剣に鎧に……。

あと我らの抜けた鱗とか」


 うわーお。

 真相わかっちゃった。


 片付けられないドラゴンの汚部屋。

 鱗目当てで人間潜入。

 汚部屋の主が寝てるのを見て攻撃からの返り討ち。

 人間の装備が転がる汚部屋に。

 人間の装備と鱗目当てに人間が侵入。

 以降ループ。


 この世界の人間、やりたい放題だな!


「……シャイアさん。

部屋の掃除しましょうか?

うちの獣人たちを派遣して巣を掃除ってのはどうです?

もちろん攻撃しません」


 シャイアがぱあっと明るい顔をした。

 本当に悩みだったんだな。

 ゴミ屋敷と害虫にんげん問題……。


「……おお! ぜひ頼む!」


 竜の巣での汚部屋掃除がタスクに加わったぞ!

 よっしゃ!

 産業が一つ生まれた!


「竜は金というものを使わんが、代わりに巣のゴミならなんでも持ち帰っていいぞ!」


 おっとそいつは後から問題化する提案だ。

 竜にはゴミでも俺たちには宝なのだ。


「いいえ、ちゃんと査定して買い取ります。

こういうのは公平でないと」


 稼ぐのはいいことだがケチだけはだめだ。

 ケチが稼げば世界が衰退する。

 儲けてもいいけどちゃんと還元する。

 それが重要なのだ。

 そもそも銀行ないから貯金できないしな。この世界。

 それにアフリカとかに進出した商社でもうまくいってるところはケチじゃない。

 ちゃんと適正な取引をしている。

 そもそも紛争の原因の9割は金。

 異世界も同じだと思うんだよね。


「そうか。でも金はいらぬ。

できれば物の方が良い」


「わかりました。

うちのものに物品を持たせます」


 よーし、おじさん商売がんばっちゃうぞー。

 今度こそ洋ゲーじゃない、ラノベ展開で行くんだ!

 世紀末救世○伝説でも○塾でもない、猫耳や徳の高いケツのドラゴンとの爛れた生活を送るんだ!

 ……と、思ってたのよ。

 帰り道もシャイアに送ってもらう現実に直面するまでは。


 ベロロロロロロロ!


「ふ、ふぎゃああああああああッ!

風が! 風が! 肉が風圧でベロベロいってるー!」


「お、気に入ったか!

じゃあ音よりも速く飛んでやろう!」


 まさかの音速!

 ら、らめ!

 肉が剥がれちゃう!

 はがれちゃうー!

 どばっしゅ!

 ぎゃああああああああああああああ!

 音速の衝撃波で尻肉がー!

 背中と腹の肉もー!

 ウル○ラマンどうやって耐えてるの!

 ねえどうやって!

 どうやってー!


 ……到着したらマントすらなくなってた。

 鉄仮面のみ無事。

 酒も飲んでないのにフルチンで帰宅。

 しかも痩せた。

 腹の肉と尻の贅肉がほぼなくなっちゃった……。

 まさかの異世界ダイエット成功。

 ……ふて寝していいですか?

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