第35話 シュ○ちゃん映画は異世界でも役に立つ

 全裸なんだろ?

 ぐーずぐずす(検閲)

 鉄仮面にマント、中は全裸、心は宇宙刑事のおっさんです。

 劇画補正で股間が影になってほしい。

 もしくは昭和の少女漫画みたいに薔薇が舞ってほしい。

 そんな俺は落下中。

 ついテンションが上がりすぎてドラゴンのシャイアから飛び降りてしまったのだ。

 ここは華麗にアメコミ着地を決めねばならない。

 できればバックに爆発エフェクトが欲しいがそれは無理だろう。

 宮殿の屋根が見える。

 さあ着地だ。


 どむッ!


 ズボッと俺の体が天井を破る。

 そのままマントをはためかせながら、俺は着地した。

 理想とは違うがアメコミヒーローっぽかったぞ。

 俺偉い。

 なおマントの中は全裸。

 俺の宇宙刑事魂が社会的にデスってしまいそうだ。

 俺が舞い降りたのは広い部屋。

 おそらくホールだろう。

 紋章が描かれた大きなタペストリーが壁に飾ってある。

 その奥に大きな椅子に座った金髪のおっさんがいた。

 王冠をつけた男だ。

 まさかの玉座の間?

 え……ちょっと待って。

 王様って普段から王冠つけてるの?

 嘘、クソ重くね?

 すると王様が動揺を抑えながら口を開く。


「天よりの訪問者か……なに用であるか?」


 うーん。

 いつもなら主導権の取り合いを仕掛けるところだが、今回は向こうも王様。

 飛び込み営業と考えて一応下出に出ておくか。


「私はジャギー・アミーバ。

獣人族の王にして暗黒神の眷属です。

このたびは和平交渉のため、竜王シャイアとともにうかがいました」


 シャイアの肩書は適当だけど、たぶん間違ってないだろう。


「あ……あのヴァレンティーノを滅した魔王。

し、しかも、もう一人の魔王とな……」


 王が驚いていると玉座の魔の扉が勢いよく開いた。

 ガラガラがっしゃん。


「へ、陛下! ご無事ですか!」


 なんか王様より宝石ジャラジャラつけたおっさん登場。

 なんだろう……この圧倒的横領感。

 頭に長い帽子被っている。

 たぶん宗教の偉い人かな?

 さらに、ごっつい鎧の騎士たちがゾロゾロと入ってくる。

 うっわ護衛の前に高官が部屋に入るって……バカなの?


「大司教よ。紹介しよう。

獣人族の魔王にして暗黒神の眷属ジャギー殿だ」


「大司教殿、お見知りおきを」


 と、上流階級とは言えない育ちからすれば及第点の挨拶をした。

 なのに……大司教のおっさん……マジギレ。


「暗黒神様を裏切ったジャギーだと!

え、ええい! 殺せ! 今すぐこやつを殺すのだ!」


 あんれー?

 国王の目の前で、しかも国王の頭飛び越えて殺害命令出しちゃったよこの人。

 指揮系統が迷子になってね?

 おじさんとこみたいに、まだ建国して日が浅いとかじゃないのに。

 大丈夫なのこの国?

 多少ムカついたけど押しかけたの俺だし、一応コミュニケーション取っておくか。


「暗黒神を裏切ったおぼえはありませんが。

依頼も完了しましたし、まだ使徒のはずですよ」


「うるさい!

薄汚い獣人などと手を組みおって!

暗黒神様が人間への反逆をお認めになるはずがない!」


 あっそ、そういう態度。

 汚いおっさんへのディスは許すよ。そりゃね。マントの下は全裸だし。

 でもね、家族へのディスは殺し合いになるって親に教わらなかったかな?

 大司教の後ろに控えていた兵が剣を抜く。

 うーん、なんか気の利いたこと言わないとな……。よし。


「大司教とやら、実に面白いやつだ。気に入った。

お前を殺すのは最後にしてやる」


 コマ○ドーのウィットに富んだ会話はなんにでも応用できるよね。

 特に宮殿に不法侵入したときとか。


「ぐ、こ、殺せ!」


 あんれー?

 そこは笑うとこじゃん。ぐさり。

 俺の首に剣がめり込む。

 あぶねえ、胴体じゃなくてよかった……全裸がバレるとこだったぜ……。

 やったのは決死の覚悟の騎士。

 まー。死なないんですけどねー。

 さーて、政治はパフォーマンスが命っと。


「あたぁーッ!」


 剣に裏拳。ばきりんこ。

 そしてここで演出。


「ふんッ!」


 首に刺さった刀身が筋肉の力だけでスポーンッと抜ける。

 漫画では筋肉キャラがやりがちだが、実際やったら度肝を抜くだろう。

 しかも贅肉キャラ。まさに拳法殺し!

 ついでに回復。


「み、ミスリル銀の剣を……お、折っただと……」


 俺が首をコキコキしてると王が立つ。


「バカものが!

ジャギー殿はあのヴァレンティーノを葬った男ぞ!

騎士が何人いようが無駄である!

下がれ! 下がるのだ!」


 だが大司教ほかは下がらない。

 完全に腰が引けているのに。


「下がりませぬ!

このような危険人物と二人にさせはしませぬ!」


 この国の王様は案外権力がないみたいだな。

 困ったな。立法と行政くらいは支配してると思ったのに。

 俺が困ってると声が響く。


「二人ではないぞ」


 俺がぶち抜いた屋根からシャイアがすっと降りてくる。

 徳の高いケツだ。


「竜王シャイアである!

このジャギーが話し合ってみろと言うから来てやった!」


 シャイアがやって来ると、今度こそ大司教は腰を抜かしてへたりこんだ。

 俺の完全勝利である!

 でもね、孫子先生は言ってたね。

「完全勝利って恨み買うし変な癖つくから負けと同じじゃね?」って。

 でも今は大司教をどうするかよりも重要なことがあった。


「それで……ジャギー殿。

我々になにを要求する?」



「我々と和平を結んで交易しましょう。

まだできたばかりの国なんでいろいろ入り用ですので。

食料に木材に鉱石に……


そして戦時のどさくさに拉致した獣人奴隷を我が国に輸出しませんか?」


 にっこり。

 王様はゴクリとつばを飲む。

 無償で返せなんて言わない。

 売れと言っている。

 なお和平も交易も拒否権はない。


「そ、それを口実に我が国を滅ぼすおつもりか?」


「まさか。言葉通り奴隷を輸出してくださいって言ってるんです。

商品ですから傷物にせず大切に運んでいただけますよね?

あ、できれば大量購入なので割引きしてくださいね」


 なお当方に金はない。

 だがそれは後からなんとかする。

 カツアゲ?

 完全にカツアゲですがなにか?

 いいもん。

 それをやるだけの暴力持ってるもん!

 ちゃんとお金もできたら払うもん。

 不平等条約じゃないもん!


「シャイアさんは要求ありますか?」


「うむ、我々に商人のマネはできぬ。

我々との交易窓口をジャギー殿にしてもらおう」


「人間の国の王よ。

こう考えてはいかがでしょう?

ちょっと交易するだけで竜族と獣人族と和平ができると。

安全がはした金で買えると」


 そこまで言うとザクッと後頭部に痛みが走った。

 ヘルメットの隙間から突き刺さったのはミスリル銀の剣。

 剣を握っているのは大司教。


「わ、私は認めませぬぞ!

私がいる限り、そのような密約を結んだ王は背教者として断罪してやる!

魔王など私は認めない!」


 私がいる限りね。

 あっそ。そういう態度。

 そういう態度ならこっちも暴力に訴えるもん!


「お、おい、ジャギー殿無事か!

小刻みに痙攣してるぞ!」


 ちょとゾンビみたいにカクカク動いてる。


「あー、シャイアさん。平気平気。へーき。

脳を攻撃されると神経の動きでこうなるんですよー。あはは」


 俺はピラピラと手を振ってから壁に向かって手をかざす。


「ロケットランチャー!」


 壁が爆発し大きな穴ができる。

 壁をぶち抜いた俺は大司教の手を握る。


「お、おい! 離せ化け物!」


 そのまま大司教をずるずると引きずって穴の方に行く。


「人間の国の王よ。

私は一度も暴力を振るわなかった。

騎士の攻撃にも反撃せず我慢した。

それなのに大司教は私を加害した。

違いないな?」


「え、ええ、しかと見た。

神の名に誓って証言もしよう」


 よっし言質取った。


「大司教。お前は最後に殺すと約束したな」


「ひ、ひいいいいい!」


 大司教は逃げ出そうとジタバタする。

 はい、高さよし。


「あれは嘘だ」


 ぽいっと穴から大司教を捨てた。


「ぎゃああああああああああああああッ!」


 悲鳴が響き、遅れて湿った音が聞こえた。

 ほらね、○ュワちゃん映画は異世界でも役に立つ。

 俺はついでに剣を引っこ抜きその場に捨てた。

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