第33話 訪問者

「あの、ジャギー様……申し上げたいことが」


 レミリアが震える声で俺に言う。

 俺は猛烈に後悔していた。

 だってカサンドラ連れてくれば「ヒャッハー! バカはブチ殺ース!」って考える前に皆殺しにしてるもん。

 そしたら焼却してそのへんに埋めちゃえば証拠隠滅完了なのに。

 レミリアは理論の人なのでそういうのが苦手なのだ。


「ジャギー様……これは……立派な宣戦布告……です」


 レミリアは真っ青だ。


「だって彼ら民間人でしょ? 交戦権ないんじゃないかな?」


 秘技! 彼ら民間人ですから!


「正規軍ではありませんが……王国の軍……です」


 はい詰んだ。

 知らない間に戦争フラグ。

 ぽく知らない。


「てめえら! なにゴチャゴチャ言ってやがんだ!」


 盗賊がキレる。


「うーん、どうしましょうか?」


 命が水より安い世界。

 とりあえず適当に殺すなり捕まえるなりするか……。

 でも生かしておくの面倒だなあ。

 こいつらうちの領民殺したし。

 だとしたら首か耳か……もぐの汚れるし面倒くさいわー。あーやだやだ。


「おいこらてめえ! ぶっ殺……」


 チュドーン!

 ロケットランチャー発射。

 とりあえず殺さないように手前の地面をえぐる。


「ちょっと黙っててくれませんかね。

いまね、王国にあなたがたの首を送るか耳を送るか考えてるんですから!」


 耳は身元わからないし埋葬のとき面倒か。

 おっし首だな。


「はい、一列に並んでくださーい。

足飛ばして戦闘不能にしたら、のこぎりで首落としますんでー」


 ところが俺が前を見ると男たちはすでに武装解除。

 うつ伏せになって手を頭の後ろに回していた。


「こ、殺さないでくれ……」


 なんでビビってるの?

 ねえなんで?

 漏らしてるのまでいるよ。

 おっさんのそういうのは誰も喜ばないから。


「ジャギー様流石です。

恐怖を煽って最小限の犠牲ですませるとは……このレミリア、感服いたしました」


 ……え?

 そんなことしてないよ。

 のこぎりで切るか、斧で切るか迷ってただけだよ。

 ギロチンとかないと斬首って時間かかるのよ。

 たしか十字軍がどこかの街を皆殺しにしたとき、三百人斬首するのに数日かかったらしい。

 なので斧はだめ。

 誰でも使えるのこぎりだね。うん。

 って、ちげえよ!

 そんな残酷なこと考えてないよ!

 だけど乗ってしまおう。


「う、うん。ソウダネ。

では縄で縛って連行。

そしたら王様にこいつら引き渡してください。

ついでに手紙と請求書を出しましょう」


「請求書?」


 レミリアが青い顔をしている。


「だって殺された領民には家族がいるでしょ。

生活を立て直すまでの補填と賠償はしなきゃ。

私が建て替えておきますが、連絡ミスで殺したんだから払えますよね?」


「そ、それは……傭兵を口実に戦争するということでしょうか?」


 俺は戦闘民族じゃないんだけどな。

 本当にこの世界って命が使い捨てだよね。

 殺しまくってる俺が言うことじゃねえけどさ。


「違うっつーの。

水に流してやるから金払えって言ってるんです。

断られても今すぐなにかするってことはありませんよ。

もし賠償金断られても抗議した事実が重要なんです。

私たちはちゃんとした国ですって宣言して対等の態度取らないと他国が増長するんです。

払ってくれたら交易でいくらでも儲けさせてあげますよ」


 商売でも同じだからね!

 クソみたいな顧客はサクサク切らないとリソースだけ取られるからね!

 レミリアはようやく笑顔になる。


「な、なるほど!

早速手紙を出します」


 うん。いまわかった。

 コネクション持ってるレミリアは外交担当だわ。

 殺しとか殺しとか殺しは俺とカサンドラの担当にしよう。

 うん。

 ……と珍しく最小限の犠牲で華麗な勝利を決めた直後だった。


 ぐちゃり。


 突如として空から大きな生き物が飛来。

 寝っ転がってる盗賊の皆さんを踏み潰した。


「あ……」


 飛来したのは巨大怪獣。

 大きくてコウモリっぽい羽がついてる爬虫類。

 つまりドラゴンである。

 さて、ドラゴンと言うと和ゲーなら中の人は美少女。

 洋ゲーなら髭面のおっさんである。

 髭面のおっさんなら即攻撃しよう。

 でもクレイ○スに似てたら速攻で逃げよう。

 ぼくは、君が死ぬまで殴るのをやめない!

 でもク○イトスだけはかんべんな。

 するとドラゴンは俺の方を向く。


「きしゃああああああああッ!」


 あ、そういう態度。

 じゃあこちらも大声出しちゃう。


「ほあっちゃああああああああッ! あちょおおおおおおおッ!」


 ドラゴンだけに。

 もうね、肺とか横隔膜とか筋力の限界を超えて声を出した。

 骨が何本も折れたが気にしない。

 相手は獣。とにかくビビらすのだ。

 俺の怪鳥音でドラゴンは口を開けたまま固まっていた。


「……お、おう」


 どうやら言葉が通じるらしい。

 やーい、やーい! 俺の勝ち!


「新しき魔王よ……どうやら噂通りの豪胆さよ」


 いえ、この世界のだった一つのルール。

 弱肉強食に慣れてきただけッス。

 だから貴様のペースには乗らん!

 俺は無言で地面を指差す。


「お?」


 ドラゴンは下を見る。

 足を上げる。


「うっわ汚ぁッ! なんか踏んだ!」


「ちょっとぉッ! ドラゴンさん、うちの組員になにしてくれるんですかねえ!?」


 ポケットに手を突っ込み、ウ○ジマくんみたいな表情で歩み寄る。

 文系の就職口がサラ金しかなかった時代を生き抜いた就職氷河期世代をなめるなよ!

 なお潰れたのはうちの組員でもなんでもない盗賊。


「し、知らなかったのじゃ!」


 おっし主導権取った。


「で、オタク、なんの用ですかね!?」


「う、うむ……魔王ジャギー・アミーバよ。

我は竜王シャイア、暴力の権化よ!

我と共に人間に戦いを挑もう!」


 え……やだ。

 するとシャイアは光に包まれる。


「ふはははは!

貴様に合わせた姿になってやろう!」


 すると出てきたのはおっさん……ではなく美女だった。

 コ○ラに出てきそうな美女。

 中途半端なところついてきた!

 だが俺は負けぬ!

 裸の姉ちゃんが目の前にいたとしてもだ!

 あえて裏をかいてくれる!


「だが断る! バカが!」


 俺ははっきりと言った。

 ほんと、どいつもこいつも戦争戦争ってうるせえな!

 おじさんはダラダラ過ごして、ちょこっとお小遣いが入ればいいの!

 わかる!

 寝て、飲んで、エロいことできればそれでいいの!

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