第32話 盗賊

 はい、筋袋玉三郎改めジャギー・アミーバです。

 いま俺は……俺は……。

 ヤンデレに脇腹刺されてます。


「おっさん……獅子族のハーレムまでは我慢したけど、ちょっと出かけた間に人間の愛人作るとかなんだコラ!

私のケツも触らないのに!

しかも200人の子どもってざっけんなーッ!」


 げふり!

 さすが元盗賊のティア。

 ナイフの刃を上にして下からストライク。

 そのまま刃を持ち上げて俺の体重で深々刺さるようにしやがった!

 しかも根本まで刺さったらグリンとえぐる。

 ふふ、本気で殺しに来やがった。

 獅子族以外で俺からタップをとるやつがいたか。

 ふふ、ヤンデレに刺されるという夢が叶ったな。

 すんません。嘘つきました!

 本気で痛いんでギブアップしていいですか!?

 血反吐を吐く俺。

 本来なら大騒ぎのはずだ。

 だけど我が配下たちは空気を読むことにかけては天下一。

 血まみれの状態なのに微笑んでいる。

 止めろー! 止めるんだー!

 特に嫁! 指さして笑ってるそこのカサンドラーッ!

 と、ささいなトラブルを経て200人の子どもたちがネクロパレスに到着した。


「ネクロパレスってのはなんだか嫌な名前ですね」


「たしかになあ。じゃあおっさん、名前つければ?」


「じゃあ、さいたまで」


 こうしてネクロパスレスはさいたまの都になった。

 さて、それでは熱望していた街づくりである。

 まずは害虫とかネズミの駆除。

 それに掃除。

 建物はそのまま使用。

 聞くところによると、ネクロパレスことさいたまは300年くらい前に獣人族の都を不死族が奪った場所らしい。

 なので住処を失った獣人たちはそのままさいたまの住民になった。

 オークやダークエルフ、触手の人とかわけのわからん生き物も住民になる。

 俺は差別をしない。

 この世界のことをまるで知らんからな。

 だから結構な人数がさいたまに残った。

 例外なく貧民である。

 とりあえず黒にゃんこ便をやるには用意が必要である。

 つまり金が必要。

 行きてく金は充分だが、民を食わせるとなると難しい。

 しばらく野生動物というかモンスターと野草でしのいでいた。

 そんなタイミングで商人が来たのである。

 お気に入りの兜を持って。

 とりあえず玉座の間に通す。


「……旦那。金を貸せって……そもそも黒にゃんこ便ってどこの言葉ですかい。

本当に不思議なお方だ。

旦那ねえ。そういう商売は傭兵っていうんですよ」


 なるほど。

 自分の中では運送会社のつもりだったが、街道の安全を確保するってなると傭兵か。


「つうかね、旦那。

魔王はね金なんていらんのですよ!

魔王が呼びかけりゃ人足なんていくらでも手に入るでしょが!」


「えー、やだー。

人件費ゼロにしようとする汚物は消毒だー!」


 給料払わないダメ。

 就職氷河期悲しイ。


「旦那ねえ!

あんたは本当にやるでしょが!

そういう冗談笑えないですからね!」


 こうして我々がウィットに富んだ会話を繰り広げていると、獣人族が部屋に飛び込んでくる。


「ジャギー様!

盗賊が現れました!」


「盗賊……?

盗るものないのに?」


 だって不死族の領地よ。

 リスクが高すぎる!


「なので獣人族は奴隷として……」


「ちょっと抹殺してくるわ」


 正直言うとね、カサンドラみたいに人間に捕まったら奴隷ってのも嫌なんだよね。

 でもね、密入国だからしかたないよね。

 って納得はしてないけど妥協してたのよ。

 子ども売ってたから無理したけど、人様の国に介入したくないんだよね。

 だからうまくなるようにしたわけ。

 だけどここはおじさんの国。

 好き放題させてもらう。

 例の馬車で現場に向かう。

 カサンドラはもめそうなので待機。

 レミリアを連れて行く。

 もう逃げてるかなあっと思ってたけど、ガッツリ戦闘中だった。

 盗賊と戦ってるのは開放した村の住民。

 するとレミリアが青い顔をしていた。


「ジャギー様……あの……言いにくいのですが」


「もしかしてさ、あいつらレミリアの部下?」


「私の部下ではなく、傭兵……です」


 あー、パーティ全滅じゃん。

 落ち武者状態なうえに支払いしてくれる人も死んじゃったじゃん。

 元取らなきゃーと思ってたところに住民帰還。

 おいおい、商品がいるじゃねえか! いっちょこれで損害を補填するかー!

 不死族いねえしヒャッハーするぜー! パーリナイ!

 ですね。

 行動の推測はできるけど、価値観は理解できません。

 ふう、簡単にまとめよう。

 ワシの領地でなにしてんじゃ!

 ぶち殺すぞワレェッ!


「レミリア。やつら殺してもいいですか?」


「え、ええ。他国への勝手な宣戦布告は一族郎党死罪です」


「ありがとう」


 礼を言うと俺は傭兵たちの方に堂々と歩いていく。

 もちろん傭兵だってバカじゃない。

 ものすごい勢いで矢を射る。

 あっという間に矢ジャギー状態に。

 おっさん痛いけど我慢する。

 歩いていくと猫の人の死体が目に入る。

 それと同時に傭兵が戦斧を俺に振りかざす。


「な、なんだてめえは! 死ね!」


 さくっと俺の胴体に戦斧がめり込む。痛い。

 でも避ける技術があるわけじゃない。

 刺さったまま拳を握る。

 そのままぶん殴る。

 もちろんリミッターを外した人間の筋力の最大パワーで。


「ふんッ!」


 放たれた拳は男の体にめり込む。

 ボキボキと骨が砕ける音を奏でながら男は吹っ飛んでいく。

 放物線を描きながら男は飛んでいき、木にぶち当たって頭から地面に落下する。


「お、おいお前無事か……し、死んでる!

この野郎、パンチ一発で殺しやがった!」


「そこなる獣人は我が領民である。

なぜ我が領民を殺害したか教えてもらおう!」


 完全に北斗世界の生き物である。

 俺……こんなキャラだったっけ?


「なにが領民だ!

ここはヴァレンティーノの領地だ!

そんなの誰でも知ってるぜ!」


 あー……新聞とかラジオとかテレビ、ネットもないもんね。

 ヴァレンティーノ死んだの知らないんだね。

 レミリアはずっと青い顔をしていた。

 どうすんのこれ?

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