第27話 不死族はこうして詰んだ 2

 俺たちはネクロパレスの城門を見ていた。

 それを見て俺は確信していた。

 またもや孫子の兵法である。

 かの有名な宮本武蔵の『五輪の書』とともに、今ではキャバクラでモテる方法やブラック企業の社長が自分を正当化するために曲解される名著である。

 交尾をすればするほど偉くなるアイランド●作も納得の理論なのだ。

 ブラック企業に都合のよいソルジャーを作るためのセミナーなども活発に開かれている。

 使えねえのはソルジャーじゃなくて経営者のコマンダーだと思うんだけど、人は他人のせいにする魅力にはあらがえない。

 俺だって腸をほじられるの獅子族のせいにしてるけど、逃げ出さなかったんだからいくらか俺に責任がある。

 

 さて、またもやワンパターンに仲間にしちゃえ作戦である。

 ただし今回のはちゃんと考えた切り崩し工作だ。

 それは素朴な疑問だった。

 不死族の吸血鬼タイプ以外はなにをしているのだろう?

 そこで何日も前にカサンドラに質問をぶつけた。


「不死族ってのは他の種類もいるんですか?」


「他の種類って……あー、デュラハンとかのこと?」


 おー、RPGっぽいの来た。

 洋ゲーだと逆にレアなやつ来た。


「たぶんそれですね。魔法使い系とか幽霊っぽいのもいませんか?」


 リッチとかレイスとか。


「骨とかもいるよ。それがどうしたの?」


 スケルトンもいるのか……。


「いえ、どんな扱いかなと」


「奴隷だよ」


 うーん?

 よくわからなかったので首をかしげた。


「だから奴隷だよ。不死族……吸血鬼の奴隷だよ。

ネクロマンサーは戦略上不可欠だから名誉不死族らしいけどね」


 俺は納得した。

 そりゃ、チートまみれの俺と張り合うくらい接近戦が強くて魔法も使える戦闘民族が、他の連中のことなんて考えるわけありませんよねー。

 兵はネクロマンサーで増やせばいいし。

 普通なら戦略とか意味ないですし。

 そりゃいきがりますよねー。

『他の連中は殺さないでやってるだけで喜べ』ってなりますよねえ。

 人間だって大型の肉食恐竜くらい強ければ戦略を考えることもなかったかもしれない。

 あまりにも恵まれた立場というのは逆に不幸なのかもね。

 あ、そうか。

 元の世界でも程々に寒い地域のほうが文明が進んでるもんな。

 食うに困らなきゃ文化の進歩がなくてもいいもんね。


「そうですか。それでデュラハンとかは……生き物なんですか?

ゾンビと違って」


「難しいこと聞くねえ。

アレだろ、ダーリンは『話し合いになるか』って聞いてるんでしょ?

なるよ」


 よし、ちょっと個性的な見た目の知的生命体だった。

 それなら仲間に引き込める。


「でもさー、ダーリン。

犠牲は気にしないで突っ込んでいけばー?」


 まあアグレッシブ!

 だから獅子族は絶滅寸前なんですよ!

 そういう焼き畑路線ダメ!

 そういうのを繰り返したから家電もスマホもダメになったんですよ!


「自分の命は自己責任ですが、部下の命には責任が伴うんですよ」


 よし格好いいこと言えたぜ!

 ぐふふふふ。

 するとカサンドラはきゅーんと耳を下げた。

 なにその不安になる表情。


「……難しくてよくわからない。

ダーリンってわりと容赦なく殺すよね。獅子族基準で。

それなのに敵と部下の命は違うものなの?」


 暴力の強さがオスの魅力な世界と同じにしないでー!

 あ、でも冷静に考えたら俺のほうが殺しまくってる……。

 なん、だと。

 俺完全に洋ゲーの悪役。


「部下は家族。守る対象です。

敵対者は私に捧げられた命です。自由に扱ってもいいんですよ」


 これはこれ、それはそれ!

 殺しに来た以上、殺されても文句は言えないのだ!

 俺は先制攻撃含む正当防衛と自己保身でしか人を殺してないのだ。

 決して洋ゲーのラスボスではないのだー!


「そっかー、やっぱりダーリンって魔王様向きだよねえ」


 ……おう、とうとう洋ゲー世界の生き物に魔王認定。

 ひどい風評被害である。

 おじさん負けないもん!

 今度は死人少なくするもん!

 というわけで俺は使者を送ることにした。

 不死族に奴隷にされているすべての種族にだ。

 俺には勝算があった。

 だってさ、今まで攻撃してきてないもの。

 これって敵対したくないって意思表示だよね。

 あとは俺が頭を下げてくるのを待っているのよ。

 だって不死族裏切った報酬が俺による粛正だったら困るじゃん。

 だから言質を取っておくわけよ。

 ひどいことしません。平等に扱いますって。


「んじゃ獣人族を集めて……」


「だめ」


 カサンドラの言葉を俺は遮った。


「使者はオークやゴブリン、それに少数民族の人たちにしてくれ」


「獣人族は捕らえられて処刑されるのを恐れはしない!」


「そうじゃなくてさ、『不死族が軽く扱っていた種族も平等に扱ってます』ってとこを見せなきゃならんのよ」


 獣人族は親戚だが、オークやゴブリンは言うなれば俺という親分を買い求めた顧客である。

 使者にしてお客様目線で俺を売り込んでもらうのだ。

 なんだかネズミ講の無限連鎖を増やす方法みたいで胸が熱くなるぜ!

 幸いにも俺は魔王軍の序列には疎い。

 つかね、ほぼ身分制のない国の人が理解できるわけねえだろ。

 だから彼らを軽く扱ったことは一度もない。

 フランチャイズの店長より高待遇なのだ!

 そう、最近合流したダークエルフさんにセクハラの一つもしたいのをぐっと堪えているのだ!

 わかるか! わが苦悩を! 持て余す残り少ない性欲を!

 痛い妄想、つまりファンタジーを!

 洋ゲーじゃないやつ!

 俺が血走った目で拳を握ると声がした。


「邪悪の波動を感じましたが……」


 レミリアがやって来る。

 く、くう! この風紀委員長さんめ!

 おっさんの死ぬまで続く思春期男子の残り香を嗅ぎつけやがって!


「ナンデモナイヨ」


 俺はごまかした。

 エロフさん……エロフさんを寄こせ……たのむ、う、右手が……右手が暴走する前に!


「そうですか……」


 レミリア委員長はなんだか残念そうだ。

 ちなみに俺もカサンドラもレミリアには下ネタを振らないようにしている。

 本当に純真な子には下ネタ振っちゃらめ。

 だって性知識皆無なんですもの。

 ティアの方がませている。

 レミリアは首をかしげながらその場を後にする。

 よし、大人の下ネタタイム到来だ。


「ダーリン♪ しよ♪」


「絶対い……えぶろば!」


 レミリアがこっちをのぞいていた。

 目が合ってしまった。あべし!

 俺はわざとらしく手を振る。

 するとレミリアは残念そうな表情で今度こそどこかに行ってしまった。


「……ふう」


 なんだろうねこの緊張感。

 さて話は戻り、ネクロパレスに到着直後の話に戻る。

 俺は自信を持って言った。


「そろそろ開くんじゃないですかねえ」


 すると予想通り、防壁に囲まれたネクロパレスが門を開いた。


「はい、無血開門」


 俺が言うとレミリアが目を丸くした。


「ジャギー様は神の力をお持ちですか」


「ないない。当り前の手を使っただけですよ」


 俺たちはモヒカンヒャッハーするまでもなくネクロパレスに入っていく。

 中には俺たちに頭を下げる、兵たちがいた。

 スケルトン、レイス、デュラハン……。

 まーねー。細かい仕事してくれる人がいないと回らないよねえ。

 不死族が生ゴミとか下水の掃除してくれると思えないもん。

 必ず内部に奴隷いますよねー。

 すると代表と思われるスケルトンが俺に話しかけてくる。


「奥の区画で反乱軍と不死族が戦闘を開始、現在こうちゃく状態にあります」


 はい、優秀。

 要するに彼らは待っていたのだ。

 自分たちの背中を押してくれるリーダーが現れるのを。


「それじゃあ、行きますか!」


 俺の覇道の最終地点が見えてきた。

 俺たちはネクロパレスの中心、宮殿のある場所に到着する。

 レミリアは少数精鋭でここまで来たらしい。


「お気をつけください」


 レミリアは言った。

 眉がピクピクしてる。

 そりゃ死にかけたもんね。

 それがこんなしょうもない手で中まで潜入しちゃったもんね。

 ごめんね。これが汚いおっさんなの。

 俺は気を引き締める。

 すると宮殿の上から威厳のある声が聞こえてきた。


「なぜだ……」


 はい?


「なぜ……我がこんな目に……ぐすっ……ひっく」


 泣いている。

 はいいいぃッ?


「8番目の魔王よ。我に何の恨みがある! なぜ我らが王国を滅ぼしたー!」


 ……え?

 なにこの被害者感情全開のおっさん。

 いや、お前らの日頃の行いが悪いからこうなったわけでな。

 なんなのお前ら!

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