第26話 不死族はこうして詰んだ 1
俺たちの進撃は止まらない。
なにせ俺が開発したポーションは希釈しまくってもアンデッドや不死族に有効だった。
ミントと俺の肉の相互作用……かどうかは科学的に分析せねばわからないだろう。
1万倍希釈のポーションを受けたゾンビは破裂寸前のあ●し状態で活動を停止。
不死族の方は殺虫剤を受けた夏のゴキブリのように動けなくなる。
そりゃちょっと頭に垂らしただけであのザマだんもんね。
子供のおもちゃの水鉄砲を大量に作り、背中にはポーションの入った壺を背負う。
水鉄砲と壺は森で獲った獲物の腸で作ったホースで繋がれている。
これを装備した我が軍団の兵士たちが、『汚物は消●だー!』とゾンビや不死族を退治していく。
死者どころか負傷者ゼロ。まさに一方的虐殺である。
なんだろうね、この作業感満載の害虫駆除。
プロレスの出番はない。
おじさんつまんない。
さらに街を丸ごと破壊する必要もないので、俺の出番は全く……ない。
……どうしよう。
ジャギーさん存在のピンチ。
勇者レミリアも暇そうだ。
というか「私達の苦労はなんだったの!」って顔だ。
わかる。
自社でコケたプロジェクトを他社が鼻ほじりながらやりだしたときの屈辱感。
自分の会社がアホの集団だったことの証明。
死人が出る騒ぎになるよね。
一方的な蹂躙が終わると、井戸職人が井戸を清掃しフタをする。
これでセーブポイント解放だ。
敗走したらここまで戻ってくればいい。
清掃が終わったら、アンデッドの死体を燃やせばすぐに使える村の完成だ。
面倒なのですぐに元の住民に引き渡してしまう。
畑とかはダメになってるけどそれでも喜んでくれる。
それだけだと良心がチクチク痛むので途中の街で仕入れた種を配っておく。
するとさらに大喜びで俺をたたえてくれる。
普通やらないの?
本当に?
この世界ハードコアすぎねえ?
俺たちはどこまでも順調だった。
殺虫剤に、足りない武器の代わりに作ったフレイル。
長い木の棒の先に縄でヌンチャクみたいに木をくくりつける。
何本もくっつけるとヌンチャクお化けができる。
こっちにはない兵器のようだ。
鈍器なのでゾンビとかには効果抜群。
サクサク足止めしてゾンビコロリ噴射。勝利。
一方、不死族側は、俺たちを止めることができない。
本当にワンサイドゲームなのだ。
……そうか。
不死族は獣人たちを敵に回した時点で詰んでいたのか。
不死族は力は強いし、死者を雑兵にする能力がある。
だがゾンビに細かい指令は出せないため、戦略の幅は極端に狭い。
ごり押し以外の手段がないのだ。
つまりコマンダーとそれを守る獣人やオークなどの随伴兵がいなければ烏合の衆未満なのである。
それでもなお、元の住民は数で負けているので不死族に勝つのは難しい。
たぶん俺なら一人でも勝てるだろう。
でも俺一人だと移動の足がなかったりとか、物資の補給やらのせいで、不死王の所に辿り着くまでに何年かかっていたかわからない。
だがマップ兵器の俺と反旗を翻した元の住民が手を組めば、行軍は迅速に、不死族は害虫レベルに。ヌルゲーになってしまうのだ。
なんというパワーバランスの崩壊!
それだけじゃない。
それ以前にたとえ俺のポーションがなくても、不死族の敗北は決定していたのだ。
だって「不死族滅ぼす人ー!」で軍勢できちゃうんだもの。
不死族ヘイトためすぎ!
もはや王朝の末期だったに違いない。
そこから考えると、レミリアが不死族討伐に失敗したのは、彼女が人間側だったからだ。
地元民である獣人を仲間にできないからだ。
どうやったって家を奪われた地元民のモチベーションには敵わない。
でも住民は人間が奴隷として売り買いしてる獣人。
人間は仲間にする気などない。
これはレミリアが仲間にしようとと言ってもひっくり返らない。
そういう文化なのだ。
ところがジャギー軍は獣人族たち優遇。
彼らががんばったのだ。
でもジャギーさんよお。
お前も人間じゃん。
獣人裏切るんじゃねえの?
って思うでしょ。
なぜ彼らが寝返らなかったのか?
それは、いくら不死族の奴隷であろうとも人間側につくのは覚悟がいる。
その点で俺はカサンドラの
家族なら人間や不死族よりは信用できるだろう。
つまり俺は外形上獣人族の魔王として君臨したわけだ。
そして獣人族の魔王降臨のニュースは駆け巡りオークやゴブリン、それに他の種族も不死族に反旗を翻した。
しかも自分の領地とかいらん俺は、土地を開放したらすぐに明け渡す。
つまり俺側につけば恩賞は必ずもらえる。
取りこぼしなし。
面倒なことも言わない。
どう考えてもお得である。
結局、不死族側の獣人もあっさり俺たちの軍門に下った。
少なくとも俺たちの側だったら奴隷扱いされないもん。
ブラック企業は人手不足になれば滅びるのだ。
かくして随伴兵を失った不死族側に残された戦略は、死体のある都市にこもって俺たちが来たらごり押し、それしかなくなったのである。
はい汚物は消毒〜!
圧倒的に有利な立場にいるとそれが当たり前になって、下請けさんが不満を抱えているのが見えなくなっちゃう。
日本でも数多の企業がコケたパターンだわ、これ。
『乱にして之を取り』、敵が不和を抱えてたら裏切らせちゃえか……孫子の兵法パネエ……やはり異世界でも通用するぜ。
ありがとう孫氏先生! 兵法まじでLOVE!
出展は斜め読みした『キャバクラでモテる孫子の兵法より』のからのあやふやな知識からだけどね。
しかも結果論でなんも考えてなかったけど。
それに俺は軍師キャラを名乗ることはできない。
なにせ転生者や転移者の間では、十倍以上の戦力差でも相手を囲んでフルぼっこにして覆すのが、軍師キャラとして求められる最低限の能力なのだ。
他の転生者や転移者って凄くね? おじさん素直に尊敬するわ。
と馬車に乗っている俺が目を細めていると、馬に乗ったレミリアが不思議そうな顔をした。
「ジャギー様。どうかなされましたか?」
「いやー、みんながんばってるなあって。おじさんも、もっとがんばらなきゃ」
レミリアはさらに不思議そうな顔をする。
そしてクスクスと笑った。
「ジャギー様は不思議な方ですね。だから亜人たちも貴方様の旗下に加わったのですね」
いや、それはたぶん親戚になったからだよ。……とは言わない。
俺は知っている。ハイティーンのプライドは山よりも高いのだ。
「そうかな。ありがとう。あははははは……」
誰か助けてください。
普通の女の子と会話を続けるのが難しいです。
女子校の男性教師ってチート能力者じゃね?
確実に一度は転生してるわ。
「ジャギー様……不死族討伐後はどうなされますか?」
どういう意味だろう?
文脈的に取りようはいくらでもある。
一緒に旅を続けようって線は……ないな……俺は汚いおっさんだもの。
「部下を食わせなければなりません。それには人間側と交易をすべきですね」
戻ったら亜人に産業があるか調べねばならない。
とにかく売れるものがないか調べねばならない。
今度こそ冒険者ギルドに入ってもいい。
手段は選ばない。傭兵でもなんでもしよう。
「いえそういう意味では……なんでもありません!」
……怒られた。
エロゲの選択肢なら楽勝なのに!
この娘、委員長タイプだ。
「……では人間側とは敵対するつもりはないんですね!」
なぜかレミリアはごまかすように言った。
「人間側が侵略してこなければ……ですが」
「そうですか……それはちゃんと報告しなければなりませんね」
そう言うとレミリアは先に行ってしまう。
……女子高生は難しい。
すると、これまた馬に乗ったカサンドラが近づいてきて俺に言う。
「ダーリン、モテモテだねー♪」
ニヤニヤしている。
「モテないからこの年まで独身だったわけでね」
カサンドラは嫁カウントしておこう。
心臓えぐり出されるから。
カサンドラはずっとニヤニヤしている。
だから俺は言う。
「そんなことを言ってられるのもあと数日ですがね」
「あー……首都が近いんだっけ?」
「そう、ネクロパレス。不死族の都だ」
今度はさすがの不死族もガッチガチに防衛を固めているだろう。
さーてと、事前に俺のやった小細工が効いてくれればいいんだけどねー。
そう、俺は不死族に計略をしかけていた。
ライバル企業を潰すときの常套手段だ。
俺の思惑通りなら、不死族はこれで完全に詰むはずなのだ。
ぐははははは!
社畜の気持ちは社畜にしかわからんのよ。
不死族よ!
度肝を抜かれるがいい!
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