第17話 不死よりも不死らしく 1

 街のゴミ掃除の開始だ。

 俺は騎士団詰め所のドアに問答無用でロケットランチャーを撃ち込む。

 吹っ飛んだ入り口を見てカサンドラは呆れ声を出した。


「旦那ぁ……普通さあ、真正面から殴り込むかぁ?」


「真正面からやるから意味があるんですよ。

街の人に見せて私たちの正当性を主張するんです。

危ない橋を渡るときこそ堂々と。これが秘訣です」


「そういうもんかね……」


 カサンドラはそう言うと槍を構えた。

 そうなのよ。法律ギリギリを攻めるときは堂々と。

 それが氷河期世代のサバイバルテクニック。

 言ったとおり複数の足音が聞こえてくる。

 やはり戦士ってのは凄いもんだ。


「なんだ貴様ぁッ!」


 騎士たちが出てくる。

 俺は赤外線モードで見る。

 ほとんどは普通の体温。

 だがその中に数人体温が異常に低いものがいる。

 なるほどね。

 いやー思いつきだったのに……ヒットしたわ。

 俺はつかつかと普通に歩いて行く。


「あ、おい! 旦那!」


 カサンドラが間抜けな声を出した。


「カサンドラは指示があるまで待機」


 俺はそれだけ言って騎士たちに近づいた。

 俺は久しぶりに大声を出す。


「騎士団長クレストン、それに騎士団の諸君!

貴公らには領主への反逆と魔王軍との密通の容疑がかけられている!」


 すると騎士たちの顔色が変わった。

 つぎの瞬間には剣を抜くものと、様子を見るものに二分された。

 まだ容疑者とは決まっていない。

 だけど一緒にされたら詰んじゃうもんね。

 あとはクレストンくんがどれだけ慕われてるかだよね。

 闇の神の使徒に逆らってまで、どれだけの部下がついて来てくれるかな?

 わかるかねクレストン。

 就職氷河期世代が動くとき。

 それはすでに勝負がついたときなのだよ!

 体温の低い騎士が叫んだ。


「こ、こいつを殺せ!」


 騎士たちが一斉に剣を抜く。

 俺は次の計画を実行に移す。

 実は超必殺技が撃てそうだったのだ。

 このなんとも言えない感覚は説明が難しい。

 とにかく『たまった』としか言えない。

 条件は暴力の回数だろう。

 俺は容赦なく超必殺技を発動する。

 次に発動する病気は決まっていた。

 俺が病気をイメージすると、騎士たちが俺を斬ろうと剣を振りかざした。

 俺の体からカラスが飛び出していく。

 カラスは騎士の体を貫いた。

 だが糖尿病とは違い、騎士は誰一人死んでいなかった。

 その代わり、騎士たちはプルプルと震えていた。

 中には剣を落とすものもいた。


「な、なにをした!」


 騎士が怒鳴った。

 俺は笑いを堪えられなかった。


「あはははは! 動けないでしょう。腕が肩より上にあがらない? これが50肩だ!」


 50肩。

 30代でもかかる恐ろしい症状だ。

 かかると数ヶ月から一年間は苦しみ、肩が動かせなくなる。

 マジで力が入らないのよ!

 ビーンってするの! ビーンって!

 若く運動をしている彼らにとっては、初めて経験する痛みだろう。

 最初からこの魔法を使わせろ!

 もうね!

 カッコワルイ!


 俺はブツブツ文句を言いながら、体温の低い騎士に近づくと片手で首をつかみ持ち上げた。

 騎士は俺の腕を叩く。

 人の腕力ではない。

 なんで俺、そんなのつかめてるんだろうね。

 よく見ると俺の手や腕からブチブチと筋肉の切れる音がしている。

 あー、なるほど。リミッターが外れているのか。

 リミッター外せば理論上300キログラムとか持てるもんな。

 そのかわり壊れるけど。

 ヒールで治せって事ですね。よくわかります。


「今から証拠を見せましょう」


 俺は電撃を放つ。

 お久しぶりのヒューマンミートの焼けるにおいだ。

 ついでに自分も感電するからヒールも。


「ぎゃ、ぎゃあああああああああああああッ!」


 黒焦げになっても目から火が出ても騎士は暴れた。

 この抵抗力……やはり人間ではなかったか。

 さらに電撃で焼くと背中からコウモリのような羽を出し、俺から逃げようと必死に羽をバタバタと動かした。


「カサンドラ、こいつは不死族ですか?」


「いや違う、そいつは生成りだ。

不死族になるには魔力が足りなかったんだ。

生成りに意思はねえ。不死族の人形だ!

気をつけてくれ! 不死族よりもずっと脆弱だが殺すのは難しい!」


 なるほどね。

 要するにゾンビね。

 俺は納得する。

 俺はそのまま電撃を強くする。

 眼球が破裂した。……グロい。

 そこで俺はようやく生成りになった騎士を投げ捨てる。

 単にグロかったからだ。

 だが脳まで焼けていたらしく、生成りは動かなかった。

 そして俺はもう一人の騎士を指さした。

 間髪入れずカサンドラが槍を投げた。

 槍はもう一人の生成りの頭に突き刺さった。

 やはり俺とカサンドラの相性はいいらしい。

 ……エロイ意味じゃないぞ。


「つまりこういうことですよ。

君たちも、死にたくなければ大人しく見てなさい」


 大部分の騎士たちは剣を捨てた。

 俺は生成りに突き刺さったカサンドラの槍をつかむと、電撃をお見舞いする。

 生成りと一緒に槍が燃えてしまった。おー……やっちまった。


「ごめんカサンドラ」


「いいってことよ」


 カサンドラは剣を抜いた。


「旦那。剣を構えているやつはどうする?」


「まだ投降してないのはクレストンの手下でしょうね。

君たちはどうなりたい?」


 俺がそう言うと二人の騎士が俺に斬りかかった。

 はい、こいつら犯人一味。

 温度は高いから人間だろうけど。

 一人の肩口から斜めに切断された胴体が転がるのが見えた。

 カサンドラが斬ったのだ。

 うっそ……直刀で一刀両断よ。

 元の世界でも達人クラスよ!

 今度はもう一人の騎士が俺に斬りつけた。

 俺は頭に迫ってきた切っ先を人差し指と中指で挟む。


「な、なにいい!」


 演出効果は抜群だ。

 だが正直言って、これ……キツい。

 指が吊りそうだ。

 これ内緒ね。

 指が限界なので俺は攻撃に移る。

 指を伸ばして手刀を作ると騎士の喉に突き刺す。


 地獄突き!


 本当に手刀が突き刺さり、血しぶきが上がった。

 残念だが人間であろうともクレストン派には死んでもらう。


「旦那、殺しちまうのか?」


 カサンドラは興奮した口調で言った。

 なにか少しハイになっているような……。


「後で裁判にでもなったら厄介ですから」


 俺は投降した騎士の武器を取り上げ没収、いらない武器は遠くに投げる。

 すると詰め所から騎士がさらに出てくる。

 いや、正確に言おう。

 かつて騎士だったものがいた。

 俺の目はごまかせない。体温が低い。


「ぐあああああああああああッ!」


 目が赤く光る二対のゾンビは、俺たちを見つけると真っ直ぐに走ってくる。

 まだ死後硬直は起こってない……と。

 殺したてホヤホヤ。

 あーあ、クレストン。

 ゾンビを作るためだけに騎士を殺しやがったな。

 カサンドラはゾンビに容赦なく剣を振りおろす。

 騎士ゾンビの肩口から心臓まで鎧ごと切り裂いた。

 すっげー! やっぱりカサンドラって達人じゃん!

 感心しっぱなしの俺にカサンドラは俺に言う。


「旦那。ゾンビは心臓か頭を潰せば感染力がなくなる!」


「なるほど。そうか!」


 俺はヤクザキックをもう一体のゾンビに繰り出す。

 手加減なしの一撃が頭を潰す。

 壁が苺ジャムまみれに!

 それを見たカサンドラが呆れた声を出す。


「……あんた魔道士だよな?」


「魔道士ですよ?」


 キックで苺ジャムを生産する魔道士以外のなにに見えるというのかね?

 まったく、もう!

 俺がプンスカしてるとカサンドラは笑う。


「旦那! あんた最高だぜ!」


 それは人生の中ではじめて女性に褒めてもらった瞬間かもしれない。

 だって日本じゃ汚いおっさんには人権ないもの。

 俺たちがゾンビを片付けると手を叩く音が聞こえた。

 パチパチという音……拍手だ。

 拍手の音が段々と近づいていてくる。

 姿が見えてきた。

 それは全身鎧に身を包んだ男だった。

 うっわダサッ!

 俺は自分のヘルメットを完全に棚にあげて思った。

 だってさあ、あの鎧……ダンゴムシだぜ。

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