第18話 不死よりも不死らしく 2

「ジャギー……待っていたぞ」


 クレストンの声だ。


「クレストン。あんた人間辞めたんだってな」


 と言った直後、カサンドラが俺を押しのけて前に出る。

 あん♪

 強引ね!


「この裏切者が! 殺してやる!」


 裏切者……つまりカサンドラは裏切られた。

 カサンドラは獣人族の子どもたちを救い出す救出部隊のはずだ。

 それがなぜ騎士団に捕まったのか。

 おそらく騎士団に話がついていて逃がす手はずだった。

 確かにそうだわ。

 どの街にも獣人でも不死族でも、どこかの勢力のスパイの一人二人紛れてるよな。

 俺がいた会社だってお役所情報流してくれる優しい役人とお友達だったし。

 これは前提条件。


 さらにネクロマンサーが一人でいたこと……それが鍵だ。

 おそらく獣人は仲間に売られた。

 この場合、不死族が獣人の仲間だったと推測できる。

 騙し討ちでもなければカサンドラを捕まえられるはずがない。

 俺が殺したネクロマンサーも不自然だ。

 事件そのものがだ。

 だってゾンビのパンデミック起こすなら、大都市でいきなりが一番効果が高いのだ。

 つまり村でも出来事は論理的におかしい。

 なんだろうか。これ日本でもあったな。

 優秀なはずの人材が突然バカやらかすパターン。


 不死族ノスフェラトゥと獣人族、それに元人間……

 内部抗争の末の仲間割れ。

 考えろ、会社で上司がバカやらかしたときはなにをした?

 キャバクラのお姉ちゃんに会社の金1000万突っ込んで、北海道で逮捕されたウルトラバカ部長を思い出すんだ!

 そうだ。会社都合じゃなくて自己都合で動いたときだ。

 面倒だとか、謝りたくないとか、気に入らないとかの自己都合で動いたときに現場に被害が出るのだ。

 そうか……目的は個人の利益追求か!

 あ、おじさん、なんとなくわかっちゃった。

 そうか。そういうことか。

 俺はクレストンを指さすと言った。


「あんたは魔王になる方法を知っていた。

領主の殺害を企てたのも、冒険者ギルドの討伐依頼を止めたのも、邪魔な連中を始末したのも……すべては時間稼ぎだろ?

……あんたが魔王になるための。

魔王になっちまえば怖いものなしだからな」


 憶測が半分入っていたいい線は行っているだろう。

 すると鎧の中から笑い声がした。

 なんというか特撮ものの悪役にしか見えない。

 なんかムカつくのでラ●ダーキックやってみていいですか?

 ロケットランチャーで加速したやつ。


「がははははは! そうだ。我が8人目の魔王になれば、この街など一瞬で滅ぼしてくれる!」


 クレストンは誇らしげだった。

 もう気分だけは魔王だ。

 わー、ぱちぱち。かっこいー。

 だが残念。

 オラが揚げ足取って冷や水を浴びせてやるぜ!


「入れ知恵したのは誰だ?」


 カサンドラが俺を見る。

 驚きすぎて目が丸くなっている。


「お、おい、旦那。なにを……」


 カサンドラは声が震えていたが、俺は構わず続ける。


「わかってるんだよ。

お前さんじゃこんな計画は立てられない。

コストが無駄に高いからな。

そうだな……入れ知恵したのは今7人いる魔王の一人ってところかな?」


 だって貴重な戦力無駄死にだぜ。

 日本だったら左遷どころか会社に席がなくなる。

 つまりそれくらいは許容される後ろ盾があるはずだ。

 他の部署の足を引っ張りながら、役員会に自分の派閥を一人ねじ込む。

 こう考えればわかりやすいだろう。

 ペーペーがそれを為し得るには、派閥のトップの関与が不可欠だ。

 つまり手を貸したのは魔王。

『8人目の魔王』なんていうのだから、7人いる魔王の誰か。

 おそらく不死族の王なんだろうけど。

 同じ派閥だし。


「あはははは!

そうだ魔王のうち二人が不死族になれば、我ら不死族が魔王軍の覇権を握ることになるだろう!

さすれば人間など明日にも滅ぼしてくれよう! 人間よ、震えて眠るがよい」


 クレストンは誇らしげだった。

 あくまで魔王軍内の派閥の覇権が目的って見せかけた自己利益ですね。

 会社の外を向いていない上司にありがちなパターンですね。よくわかります。

 重役になってみたかったんですね。ものすごくよくわかります。

 あっはっはー。

 つまり魔王軍の内情は内部抗争に明け暮れる老舗企業って所か。

 ある日ひた隠しにしてた巨額の負債が発覚して会社が潰れるパターンだわ。

 魔王軍ってのもたいしたことねえのな。

 どこでも組織ってのは同じなのね。

 そう考えると切り崩すことはいくらでもできそうだ。


「それで、魔王になる条件ってのはなんだ?

シュシュの村の近辺を通りかかった人に、獣人族にネクロマンサーに……それとネクロマンサーの護衛任務の兵士たち。

それにお前の配下の騎士に作業員……犠牲にするには、ずいぶんコストが高いよな?

つまり考えられるのは生け贄かな?」


 よく考えれば、クレストンのやっていることはメチャクチャだ。まさに不合理の極みだ。

 つまり、このクレストンがとんでもない無能か、不合理に至った理由があるかのどちらかだろう。

 いくら自己利益の追求と言えども、とんでもない無能の線はないだろう。

 ……たぶん。

 底の抜けた無能だから押された可能性も少しだけ。

 そう、利用するのに便利な程度にほどよく無能なはずだ。

 つまり不合理に至った理由。つまり一見すると不合理に見えるが合理性が存在したと言うことになる。

 そこから考えればすぐにわかる。

 そもそもの行動の目的。

 人を殺しまくっていた理由だ。

 それはおそらく生け贄だ。

 魔王になるには生け贄が必要なのだ。

 そしてもう一つわかるのは、普通に人間の領土に攻め込んで皆殺しができない理由もあるのだろう。


「くくく。『強者』の生け贄だ。

ジャギー、貴様の出現は大いに助かったぞ。

貴様を生け贄にすればすぐにでも儀式は完了するだろう」


 うん?

 ちょっと待て……ちょっと待てよ!


「もしかして無茶な作戦をしたのって俺が現れたから?」


「そのとおりだ。お前のおかげで、あと数年はかかったであろう儀式が今終わるのだ!」


 神様……今度サシで話し合いましょう。

 リングの上で。肉体言語で。

 てんめえ神様、大事なことは言え! わかるかボケ!


「ロケットランチャー」


 もういいや。

 お前は死んでおけ。

 魔王になるだのなんだのと、そんなくだらない理由でロリッ娘を苦しめていいはずがない。

 俺は問答無用で攻撃した。

 ロケットランチャーはいつものように獲物に直進する。

 だが爆発はしなかった。

 クレストンに当たった直後、ロケットランチャーの弾は最初から存在しなかったかのように消滅してしまった。


「くくく、貴様の魔法がデタラメな威力だということは知っている。

だがこの鎧に魔法は効かぬ!

貴様など恐るるにたらん!」


 この世界にも魔法対策ってあるのね。

 あー、わかっちゃった!

 ちょっと俺に喧嘩売るのが怖かったから、ばっちり対策したんだね。

 本当のクレストンは石橋を叩いて渡るタイプなんだね。

 あれだね、受験の一発勝負よりも定期テストが得意なタイプ。

 真面目なんだねえ……


「ふう……」


 俺はため息をついた。


「ふはははは! 絶望のあまり声も出ぬか!」


 俺は一気に間合いを詰めた。

 そして両手を天に掲げる。


「きええええええええええええぇいッ!」


 そのまま怪鳥の如き奇声を上げながら、両手を一気に振り下ろした。


 モンゴリアンチョップ。


 俺のチョップはクレストンを鎧ごと切り裂く。

 俺のチョップはクレストンの心臓までめり込んでいた。

 クレストンは一瞬の間を置き、何が起こったかわからないという顔をした。


「な、なん……だと……貴様……」


 ダメ押しに逆水平チョップ!

 クレストンの上半身が吹き飛んだ。

 だがクレストンは必死な形相ながらも瞬時に体を再生する。

 ダンゴムシ鎧破壊&ぽろり。

 退○忍だったら触手が出てくるところだ。


「き、貴様ぁッ! なにをした!?」


「ぶん殴った」


 やっぱり物理攻撃は効くじゃん。

 そんな俺に対して、『わけがわからない』という間抜け面をクレストンは晒した。

 だが残念だったな。

 口にした俺にもわからない!

 なんで物理攻撃が某三兄弟レベルになってるのかまったくわからない!

 だから俺は名言風の台詞をひねり出した。


「お前に王の器はない。ここが貴様の旅の終わりだ」


 お前はロリを傷つけた。黙って死ね。

 クレストンの顔色が変わった。

 激怒したのだ。


「じゃ、ジャギイイイイイイッ!」


 クレストンは再生した箇所を霧に変化させた。

 なるほど。不死族ってのは吸血鬼か。

 俺は完全に霧に変わる前にクレストンへ目がけて左腕をぶつけた。

 ショートレンジからのウエスタンラリアット。


「ウィイイイイイイイイイッ!」


 クレストンの霧と化した部分ごと消し飛ばす。


「小細工は無駄だ」


 俺は指をさした。

 クレストンはまたもや体を再生する。

 その顔は驚きに染まっていた。

 そりゃ、悪役にしか見えない例の鉄仮面被った中年オヤジにここまで圧倒されれば驚くだろう。

 俺もびっくりだ。


「かかってこい」


 俺は手の平を上にし、手招きした。

 クレストンは俺に殴りかかる。


「だ、旦那!」


 カサンドラが叫んだ。

 なにせクレストンの拳は俺の胸を貫いていたからだ。

 ……ここだけの話だ。……超痛い。


「無駄ァッ!」


 俺は逆水平チョップをクレストンの胸にぶつける。

 クレストンはふっ飛び、壁にぶち当たった。

 そのままクレストンは壁を突き破り、詰め所の外に放り出された。

 俺は悠然と壁の穴から外に出る。

 クレストンが叫んだ。


「お、お前ら! 出番だ! コイツらを殺せ!」


 時代劇のお約束。

 手下と用心棒の先生だ。

 と言っても、ゾンビ化した騎士団員だ。

 俺の襲撃にそなえて内職したんだね。

 しみじみとした俺はカサンドラに言った。


「カサンドラ、雑魚どもを始末しろ」


 興奮していたせいかいつもの丁寧口調はどこかに飛んでいた。

 カサンドラはそれをおかしいと思ったみたいだが、それでも承諾する。


「了解! 旦那死ぬなよ!」


 俺は背後でカサンドラが戦う音を聞きながら、俺はクレストンににじり寄る。


「さあ、かかってこい」


 またもや俺はクレストンに要求した。

 いやね、なんとなくチートである『プオタ』の仕様がわかってきたのよ。

 この能力はまさにプロレスだ。

 攻撃を受ける。受けて受けて受けまくることによって、どんどん強くなるのだ。

 ヒールをかけまくって痛みに耐える。

 それでどんどん強くなる。

 あと声援も強さに影響するような気がする。

 神様……ただの嫌がらせですよね?

 ねえ、なんで俺を担当する神様って最近のトレンドを無視するの?

 わかる! 最近は、メシ食うだけとか、息吸ってるだけで強くなるのが流行りなのよ!

 痛いのとかいらないの!

 ノー努力! ノーダメージ!

 神様に抗議しまくっている俺をクレストンは殴りつけた。

 俺は今度は腹を貫かれ、腸を引き抜かれる。

 ねえ、ほらね! こういうのがダメなの!

 あふん! 痛い! ら、らめええええええええええ!

 なんかもうやってられねえ。

 心の中でだけ愚痴を吐かせてね……


「かゆいわ!」


 痛えだろボケ!

 俺はヒールをかけてから普通にグーパンチをした。

 クレストンはゴミのように転がった。

 クレストンが手放さなかったので、俺の臓物ちゃんが地面に散乱する。

 ヒール! ヒール!

 外には街の人たちが集まっているのが見えた。

 俺の知略を見せてくれる。


「みなさん! ジャギーです。騎士団長のクレストンは人間を裏切りました。やつは魔王の一人、不死族の配下になったのです!」


 いってやろーいってやろー。

 みーなーさーん! きいてーくーだーさーいー!

 俺がそう言うと街の人たちが声援を上げた。


「ジャギーの旦那!」


「おっさん!」


「ジャギーさん、ぶっ殺せ!」


 ここで俺が市場で大立ち回りをし、無償で治療をした成果が実を結んだ。

 街の人たちは俺が『いい人間』だと思ってくれたのだ。

 善人補正の効果はせいぜい一週間といったところだろう。

 だがそれでもその効果はてきめんだった。

 そして日頃から嫌われていた騎士団は無条件で悪のグループになったわけだ。

 それに今のクレストンはどう見ても人間には見えない。

 クレストン、これが信用というものだよ!

 貴様は汚いおっさんの人間力の前に砕け散るのだよ!


「愚かな人間どもよ! この男を血祭りにあげたら、次は貴様らだ!」


 そう言うとクレストンは背中から羽を生やす。

 そして空高く飛んだ。


「ジャギーよ! 不死族をなめるな」


 クレストンは手を前に出した。

 あ、この展開知ってる。

 なんとかボールだったら、このあとすげえ気功波が飛んでくる展開だ。

 卑怯者ー!

 もっとプロレスしようぜー!

 と言ってるわけにもいかない。

 俺は手を地面につける。


「喰らえ、デスバウンド!」


 クレストンの手からいくつもの黒い弾が発射される。

 バウンドっていうくらいだから跳ね返るのだろう。

 よしやんべ。

 俺は土属性で地面の土を集めながら同時に街のゴミを集める。

 ゴミ掃除完了。

 そしてゴミや汚物と土を混ぜる。

 さらに俺は作った土を隆起させ俺の周りに筒状に壁を作った。

 内部の構造は分子レベルでミツバチの巣、いわゆるハニカム構造と。

 それを魔力で補強する。

 中は堅く表面はわざとやわらかく。

 攻撃が当たってもバウンドしないようにする。

 間に合った!

 クレストンの弾がやってくるギリギリで筒状の壁は完成した。

 弾が壁にぶち当たる。

 俺の自信作が攻撃を受け止める。

 だが徐々に表面が崩れる音がしてきた。


「無駄だ! そんな土壁など破壊してくれる! あははははは! 死ねッ!」


 ようやく勝てそうだからハイになっちゃったんですね。

 よくわかります。

 でもね違うのよ。クレストン。

 こりゃ発射台・・・だ。

 俺は魔法の撃ち合いなんかする気はねえんだよ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る