第15話 奴隷市場

 えー、皆様。いま私は奴隷市場にいます!

 ケモ耳メイドっていうか、お嫁さんを探しに来ました!

 若くてきれいで俺に優しい奴隷との出会いが俺を待っている。ひゃっほー!

 俺はハイテンションになっていた。

 そもそもなんでこんなことになったのかと言うと、例の奉仕活動の事がアレックスさんの耳に入ったのだ。

 そこで俺の補助をしてもらう人材が必要だろうという話になったわけである。

 今でもティアはいるが、あまりあてにするのはよくない。

 そもそもティアは世話をされるべき年齢なのだ。

 というわけで奴隷を買いに来た。

『奴隷を買いに行く』と言ったところ、アレックスさんは可哀想な生き物を見るような眼差しを向けてきた。

 どういう意味だろうか?

 奴隷市場は街の隅っこにあった。

 あまり上品な施設ではないので、不便なところに追いやられたそうだ。

 コンビニのエロ本コーナーと同じだろう。これは期待できる。

 奴隷市場はゲートに囲まれていた。

 逃走防止や犯罪者を閉じ込めるためだろう。

 昔で言う江戸の吉原と同じだろう。

 だが、さすがに堀まではない。

 俺は期待をこめて中に入る。中は汚かった。

 いきなり俺の心を折りに来ている。

 い、いや違う。

 初対面で好感度MAXのケモ耳娘が俺を待っているはずなのだ!

 少し進むと頭に入れ墨を入れた屈強な男がいた。

 両手両足に鎖をつけられている。

 値段は銀貨十枚。

 奴隷は銀貨払いか……。

 銀貨四枚で金貨一枚だから結構な額である。超高級品だ。

 日本円でいくらかはわからんがね。

 俺は男を見る。

 そちらの気があるわけじゃない。

 値段以外の情報があるか見たかったのだ。

 値札の下に説明文がある。


 奴隷 体力あり、虫歯なし、病気なし、戦場可、坑内労働可

 罪  知人を撲殺


 ……イラネ。

 使いこなす自信がない。

 俺はさらに奥へ行く。

 すると女性が檻に入れられているのが見えた。

 よっし、可愛いエルフとかケモ耳が俺を待っている!

 俺は小走りで駆け寄った。

 最初はウサミミー!

 ……30歳くらいの。

 銀貨2枚。安ッ!


 奴隷 女、虫歯なし、病気なし、坑内労働可

 罪  結婚詐欺をとがめられ男を刺殺


 心が折れそうになった。

 そうりゃそうっスよね。

 殺人でもしなきゃ奴隷になんかならないですよねえ……。

 他の女性も20代後半から30代後半までが多く、罪状は殺人ばかり。

 使い捨ての労働用ばかりだ。完全に刑罰ですよね。

 つまり生き残ってるのがその年代……と。

 とりあえず俺はその場を後にした。

 他にいるかもしれない。

 俺は妄想を捨てきれなかったのだ。

 すると他の檻が見えてくる。

 俺はその檻の前で固まった。

 そこにいたのはケモ耳の幼女たち。

 薄汚れ、栄養状態が悪いのは一目瞭然だった。

 俺は説明文を見る。


 獣人 金貨10枚 坑内労働用

 罪  魔王領住民 20名


「お、おう……」


 俺は困った。

 救ってやりたい。

 おっさんが爆発したり、ハラワタぶちまけたりするのにはなれた。

 だが文明人である俺には、ガキの販売は耐えられない光景だったのだ。

 ダメだ。これだけはダメだ!

 ロリ死ぬダメ。絶対。

 だが現実問題がのしかかる。

 まず買う金がない。

 次にうちにはすでにティアがいる。

 何人も養うことはできない。

 金も子育ての経験もないのだ。

 ティアとだってコミュニケーションに戸惑っているのに!


「旦那、奴隷をお捜しですか?」


 露骨なまでに下卑た笑顔を作ったどじょう髭の奴隷商がやって来た。

 俺は何をすべきか考えろ。

 値引き。足下を見られるだけだ。違う。

 説得。人道の概念がこの世界にあるはずねえだろ! 違う。

 アレックスさん……ダメだ。相手は完全に合法なのだ。

 ムチャしたらクレストンの野郎に有利になるだけだ。

 考えろ。ガキどもを解放する手を考えろ。

 俺がガキどもを見ていると、男は不愉快な声色で言った。


「あー、そのガキどもですかい? 北の魔王領から連れて来た獣人のガキですぜ。

やめとけやめとけ。鉱山用の使い潰しですぜ」


 ぶっちん。

 と、本当に頭の中で鳴った。

 脳出血起こしそうなほどのストレスが俺に降りかかった。

 人間、本当にキレると逆に冷静になるのな。

 冷静になったおかげで勝利への方程式が見えてきたぜ。

 俺はなるべく愛想よく言った。


「すいません。獣人の戦士は扱っていますか?」


「へ、へ? 戦士」


「ええ。私は魔道士ですので」


「は、はあ、護衛ですか。でも獣人なんていいんですかい?」


「無論です。私は暗黒神の使徒ですから」


 暗黒神の使徒ってのがなにかは知らん。

 適当な台詞である。

 相手もよくわからないのか特にツッコまれることもなかった。

 その代わりに困惑した声が返ってきた。


「は、はあ。わかりました。こちらへ」


 俺はさらに奥へ行く。

 すると大きな檻があった。

 俺は説明書きを見る。


 獣人 戦士、反抗的なため全て不可

 罪  魔王討伐遠征軍の騎士50人を殺害


 かなり迫力のある説明文だ。

 だがビビっている余裕はない。


「おい、カサンドラ! 起きろ!」


 男は檻を蹴飛ばした。


「なんだ?」


 それは低い女性の声だった。

 大人の女の声だ。

 海外だったらセクシーボイスに分類されるタイプの声だ。


「この旦那がお前を買いたいとさ」


 俺は檻の近くに寄った。

 檻の中には思ったよりケモノ分が高めの女性がいた。

 顔は人間、毛は獣毛。

 ケモ耳としっぽアリ。

 毛の色は黄色系。金とも言える。ライオンかな?

 肉食獣っぽく気が強そうな表情。

 パッと見た目は20代前半から半ば。

 もしかすると20代後半から30代前半かもしれない。

 美少女ではない。美女である。

 ちなみに俺的には言うまでもなくストライクゾーンである。

 ちなみに俺のストライクゾーンの端っこは『クラスで下から2番目くらいの女子の水着グラビアって生々しくてマジ興奮するよね』である。

 なお異論は認めない。

 カサンドラは俺を見るなりうなった。


【汚えオヤジだな。この好き物が。

さあ買えよ! 指一本でも触れたらテメエの喉笛噛み切ってやる】


 明らかに人間の言語ではない言葉で罵倒された。


【元気だな。まあ聞け。お前と取引がしたい】


 喋ってみたら口からカサンドラと同じ言葉が出た。

 結構口調が荒い。

 この現象、頭が混乱するな。


【……言葉がわかるのか。ちッ、さっさと言えよ。だが私は騙されねえぞ!】


 話にならん。

 なので俺は直で話を切り出す。


【鉱山に売られる前にそこにいる獣人の子どもたちを解放したい。

金も力もないから手を貸せ】


【なに言ってんだテメエ。そんな人間いるはずねえだろ!】


【ロリ死ぬだめ絶対】


【なに言ってんだテメエ?】


 冗談の通じないヤツめ。


【……気にするな。成人した獣人の戦士が一人に、多数の子ども。

思うに貴様はあの子どもたちを救出するために来て捕まったんじゃないか?

一人でってことはないだろ? 仲間はどうした?】


【騎士団に捕まって皆殺しだ。お前らヒューマンだけは許さねえ。

ぶっ殺してやる!】


 カサンドラは牙をむく。

 可愛い顔をしているのにかなりの迫力だ。


【まあいいから聞けよ。俺はヒューマンの味方とは限らねえ。

少なくともガキを助けたいと思ってる。

そこでだ、ガキを助けるために金を稼ぐ必要がある。

冒険者ギルドで稼ぐにはどうすればいい?】


【……討伐だ。うまくやれば国だって買える。ほとんどはその前に死ぬがな】


【今は高額な討伐依頼などなかったが……日雇いの労働ばかりだったぞ?】


 掲示板は確認済みだ。

 あったのは日雇い労働ばかりだ。


【はあ? なに言ってやがる。

お前らの方にも、この地に新たな魔王が現れるって神託が下ったはずだ。

討伐指令があるに決まってるだろ?】


 あ、なるほど。

 俺の中で事実の糸が繋がった。

 俺は新たな魔王を倒すために呼ばれたのか。

 なるほど。

 倒せばあこがれのハーレムライフが待っているわけか。


【なるほどな……わかった。手を貸してくれ。子どもたちを救うぞ】


「私を騙すのか?」


 急に人間の言葉になってカサンドラは怒鳴った。

 俺も人間の言葉できっぱりと言い返す。


「君を騙すメリットがどこにあるんですか?」


 カサンドラは俺を見た。

 するとカサンドラはため息をつく。


「わかったよ旦那。どうにでもしてくれ」


 俺は奴隷商の方を見る。


「だ、旦那。魔族語もできたんですかい?」


「少しですが。お幾らですか?」


「ぎ、銀貨十六枚です」


 安ッ!

 50人斬りの英雄よ!

 あー、そうか……

 殺した人数が多すぎるし、反抗的すぎて使い道がないのか。

 これはお買い得かも。


「金貨払いは可能ですか?」


「へ、へい、もちろんでございます!」


 よかった。

 俺は金貨三枚と銀貨四枚を男に払う。


「へ、へい。たしかに」


 男はカサンドラを檻から出すと首輪をはめようとした。


「それはなんですか?」


 俺は奴隷商に聞いた。


「へ、へい。これは旦那を殺そうとしたら爆発する首輪です」


 怖いわ!

 もうね、なんでこの世界って服従魔法とかの男の子のバカなドリームを徹底的に排除しようとするの!


「いらない。カサンドラ。私を殺す気はないよね?」


 俺はカサンドラに確認した。

 たべないでー!


「今のところはな。ただし、約束を違えたらその場でくびり殺してやる!」


「それでいいよ。じゃあ鎖を取ってくれるかな」


 奴隷商はカサンドラを解放する。

 するとなにか言いたげに俺を見た。


「なにか?」


「あの……これは忠告ですが……くれぐれも抱こうとは思わないことです。命が惜しければ……」


 どういう意味だ?

 俺が考えているとカサンドラは俺の横に来た。


「カサンドラ。君が得意な武器はなにかな?」


「剣と槍だ」


「じゃあ買いに行こう」


 俺たちは武器屋を目指す。

 ……おかしい。

 お嫁さんではなく頼れる相棒を手に入れてしまったようだ。

 ……なんだろう。

 思ってた転移生活と違う。

 だけど目的があるってのはいいことだ。

 もうね! おじさん子どもたちのためにがんばっちゃうぞ!

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