第11話 ノー殺人デー 3

 俺は村の奥に向かう。

 ゾンビがうつぶせになった騎士の首にかぶりついていた。

 騎士はピクリとも動かない。

 たぶん死んでいるだろう。

 俺は地面に指を置き、電撃を繰り出す。

 今度は手加減なしだ。

 騎士の死体ごとゾンビが発火した。

 うん。グロい。

 うつぶせで襲われていたところから考えると、騎士たちは後ろから襲われたようだ。

 騎士だったら円形に並んで盾を前に出しながら戦えば、囲まれて戦力差があっても勝てないはずがない。

 まさか逃げ回って追いつかれたわけじゃないよね?

 ……まっさかー。

 新たな疑惑を胸に秘めていると、騎士が見えた。


「ひいいいいいいッ!」


 ごしごし。

 俺は目をこすった。

 騎士が逃げている。

 それをゾンビになった騎士たちが追いかけている。

 あー、飛び道具を持っている相手でもないのに散開陣形……と見せかけて我先にと逃げ出したんですね。

 よくわかります。

 だって俺も逃げたいもん。

 ……でもあえて言おう。士気と練度が低すぎる!

 日本の警察だったらたとえゾンビでも……って日本の警察のレベルが高すぎるのか。

 そりゃ一億五千万人の国が抱える二十五万人の騎士団だもんな。

 なんだかんだ言って例外なく審査基準が客観的な現代武道の黒帯だし。

 柔道剣道あわせて競技人口一千万人超えてるらしいし。

 そこに空手や合気道を足したののさらに上澄みだもんな。

 つまり数千万人が異種格闘技で天下一武闘会やってる世界の上澄み。

 まさにエリート戦士。

 そりゃ強いわ。

 逆に考えるとこの世界の騎士団は全世界の統一組織って感じじゃない。

 地方の既得権益を持った自警団って感じだ。

 もしかすると、この世界の騎士は地方の暴走族くらいの強さかもしれない。

 もっと具体的に言うとクラスで一番強いヤンキーくらいなのかもしれない。

 そりゃトップは強いけど、平均値は……まさか……あははははは。

 って、このままじゃあの騎士さんは死ぬ。助けよう。


「こっちだ!」


 俺は叫んだ。

 すると騎士は俺の方に走ってくる。

 俺はロケットランチャーを騎士の後方の地面に放つ。

 騎士は前に。ゾンビは後ろに吹っ飛んだ。


「うぎゃああああああああああああああああああッ!!!」


 ゾンビはバラバラに。騎士は断末魔寸前の悲鳴を上げた。

 騎士の片足はもげていたが、おおむね予定通りだ。

 俺は死にかけた騎士の方に駆け寄りヒールをかける。

 傷が塞がり足がにょきにょき生えてくる。

 相変わらずデタラメな力だ。

 ふぅ……セーフ。

 偉いぞ俺。まだ殺してない。

 こうやってトライアルアンドエラーを繰り返していけば、そのうち華麗に助けることができるようになるはずだ。


「貴様! 殺す気か!」


 先ほどまで死にかけていた若い赤毛の騎士が怒鳴る。

 そりゃ怒るわな。

 と思いつつも『野性的ないい男』なのがかんに障る。

 だから俺は冷酷を装うことにした。


「ゾンビになるよりはいいでしょう。それに死にさえしなければ治せますよ」


 騎士は口をパクパクとさせていた。

 ごめんね。おっさんよくわかる。

 足を吹っ飛ばした相手に言われたら俺でもそうなるわ。

 ふふふ、だけどね。おっさんの図々しさを思い知るがよいわ!

 就職氷河期を生き抜いた男の精神力をなめるなよ!

 俺はゾンビに近寄る。

 よく観察したらもげた腕も動いている。

 バ●リアン方式だった。

 グロいので電撃で焼き払う。

 ヒューマンミートの焦げるにおいがする。

 さすがに騎士は吐かなかった。

 えらいえらい。

 俺はさらにゾンビを探す。

 小屋がゾンビに囲まれている。


「た、助けてくれー!」


 兵士たちの声だ。

 小屋に救助に向かったら囲まれたのか。

 ロケットランチャーや液体窒素だと小屋ごと皆殺しだな。

 とりあえず電撃を撃ってみよう。

 俺は地面に指を着ける。

 この体勢……腰に悪そうだな。

 おっさんね、ヘルニアが怖い年頃なの!

 あと腹がつっかえる。デブだから。

 でも負けない。

 俺は電撃を発射する。

 今回は出力を抑えたつもりだ。

 これなら脳や神経を破壊してフィニッシュのはずだ。

 俺の思惑通りゾンビたちは痙攣する。

 よしいいぞ、いいぞ、俺ちゃん頑張れ!

 するとゾンビは一気に燃え上がる。

 そしてその火が小屋に燃え移った。

 まずい!

 俺は水魔法を撃つ。

 飲む用に使ったやつだ。

 一番コントロールができているような気がする。

 小屋に必死になって水をかける。

 どうにか小屋は燃えずにすんだ。

 セーフ! ノー殺人。

 今日は調子が良い……嘘です。

 もうコントロールはあきらめようと思う。

 だけど努力は認めて欲しい。今日はまだ自分の魔法の暴発では誰も殺してない。

 このまま行けば、愛と正義の戦士も夢ではない。

 俺が自画自賛していると小屋の中から兵士が出てくる。

 何名かの作業員と騎士に肩を貸していた。


「だいじょうぶですか?」


「おう助かったよ!」


 よし、過失で火をつけたのはバレてない。

 捕まらなければりゃ犯罪じゃないのだよ!

 俺の思考は完全に犯罪者のそれになっていた。


「これで全部ですか?」


 村の人口は30人くらいだ。

 俺が倒したのは15人ほど。

 騎士もいくらかは倒しているはずだ。

 半分は倒してくれたと考えて、これで終わりに違いない。


「ああ……たぶん」


 よしミッション終了。

 次はポーションを作るのだ!

 と、気を抜いたそのときだった。


「ぐああああああああああああああッ!」


 兵士の兄ちゃんに肩を貸してもらっていた騎士が悲鳴を上げながら痙攣しはじめた。

 あ、これ知ってる。

 ハリウッド映画だったら俺たち全滅パターン入ったわ!

 俺に魔法を唱えるいとまを与えず、騎士はゾンビ化した。

 兵士を振り払い、俺目がけて真っ直ぐ走ってくる。

 ターゲット俺。オワタ。

 だがそのとき俺はまったく別のことを考えていた。

 それはス●ン・ハンセン先生が暴れながら入場する姿。テーマ曲付き。

 俺のプロレスオタクとしての本能は死ぬことを許さなかったのだ。

 俺は左腕を振りかぶっていた。


「ウィイイイイイイイイイイイッ!」


 発音が重要だ。

 俺は『ユース』と言ったつもりで『ウィー』と発音する。

 打撃技ではなく体当たり。

 俺は全体重と全筋力を左腕にかけ、ゾンビと化した騎士の首を刈った。

 重い打撃音と同時に人体の弾ける音がした。

 騎士の上半身は丸ごとなくなっていた。

 足だけが血を吹き出しながら置き去りにされていた。

 なにこのデタラメな威力……

 いつから俺は北斗世界の生き物になった?

 あ、そうか。斧を投げ返したときか。


「ぷ、プオタ……」


 俺が困惑していると兵士がつぶやいた。


「プオタ(プロレスオタク)ですがなにか?」


 俺が言うと兵士があわてる。


「い、いえ、ジャギー殿の流派はプオタなのでしょうか?」


「これは武術ではありません」


 スーパーエンターテイメントである!

 つかプオタって言うな!


「あ、あはははは。い、いえ、そうか……神殺しプオタが降臨なされたのか……」


 兵士はなぜかW●Eのスーパースターを見るような視線を俺にぶつけていた。

 お、おう。

 女の子じゃないからあまりうれしくない。

 なんでもいいから世紀末救世主ってのはなしの方向でお願い。


「プオタってのはよくわかりませんが、それで……次はどうしますか?」


 兵士はびくっとすると、我に返ったらしくあわてて言った。


「む、村に火を放ちます」


 ですよねー。

 病原菌か呪いかもわからんものは、焼き払うのが一番ですよね。

 暗黒魔法の可能性も証明することは不可能になるし。


「では焼き払いましょう」


 俺たちは村の外に出る。

 食らえオラの証拠隠滅!

 俺は大規模な火事をイメージする。

 今度は爆発はいらない!

 おし着火……


「げふッ!」


 次の瞬間、俺は吹き飛ばされた。

 土の地面に叩きつけられた俺が顔を上げると、遠くで発生した竜巻が村を飲み込んでいた。

 い、いや、竜巻の魔法じゃなくて……

 つか、なんでこの距離で俺は飛ばされたんだ?

 俺が軽くパニックになっていると、ぼんッと小気味いい音がした。

 竜巻の中に炎が吸い込まれ、巨大な火柱になる。

 竜巻は炎を纏い、全てを焼き尽くしていく。

 俺はその現象を知っていた。


「火災旋風だ……」


 俺はつぶやいた。

 万の人間を一瞬で殺せる災害だ。

 ちょっと待て。

 どう考えても個人が使う魔術じゃねえ!

 俺と兵士たちは呆然としていた。

 だってさ、シャレにならねえもん……。

 完全におっさんマップ兵器よ。

 ふと思ったんだが、俺ってパーティ組むのとか無理じゃね?

 俺のフレンドリーファイアでパーティ全滅よ。

 俺たちがひたすら呆然としていると、炎の中から何者かが出てくる。

 顔も体も炭状になった人間っぽいなにか・・・だった。

 まだ生きてる。生命って不思議ね。

 なにか・・・は怒鳴った。


「な、なぜだああああああああッ! どうやって我らが計画を知った! 不死族の覇道のための計画がどこから漏れたああああああッ!」


 不死族……ゾンビ……なるほど、ネクロマンサーってやつか。

 じゃあゾンビの被害は俺の犯行じゃないじゃん!


「ロケットランチャー」


 ちゅどむ。


「ぎゃあああああああああああああッ!」


 俺の問答無用のロケットランチャーでネクロマンサーがふっ飛び、火災旋風の中にイン。

 じゅっという肉が焼ける音がし、香ばしいにおいが鼻をくすぐった。

 ヒューマンミートの焼けるにおいになれてきた自分が嫌だ。


「ふう、悪は滅びた」


 俺のせいじゃなかった!

 冤罪だった!

 まだ39人しか殺してない。

 40人は行ってないのだ!

 あ、今ネクロマンサー殺したっけ?

 ……と、とにかくきれいな体だ。たぶん。

 今日は人殺しはしてない……よね?


「ジャギー殿は……魔王かなにかですか」


「いえ、ただの愛の狩人です」


 兵士のヴァルグさんに聞かれた俺は自分でも意味のわからないことを口走っていた。

 だってさ、困るじゃん。魔王とか言われてもさ。

 ハーレム欲しいだけなのに。

 神様……エロフください。


 異世界生活2日目 リザルト


 ゾンビ33体討伐(火炎旋風で知らずに焼いたもの含む)

 シュシュの村 消滅

 騎士 15名死亡 (犯人:ネクロマンサー)

 作業員 12名死亡 (犯人:ネクロマンサー)

 ネクロマンサー 1名 焼死 ←


 おっさんの犠牲者 40名 ← NEW RECORD


 デイリーミッション 『ノー殺人デー』 失敗!

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