第7話 チュートリアルミッション その4 ファイナル
くすんくすん……超痛い。
村の小屋の中で床に転がされた愛の戦士おっさんです。
なぜかティアは、献身的に俺の看病をしてくれている。
殺す気はないようだ。
やはりこの村の連中はティアの仇だったようだ。
詳しい話を聞いて傷をえぐるようなことはしない。
なにせ、おっさんは紳士だからな。
村の連中は俺の糖尿病の呪いによる低血糖の……たぶん脳障害で死んだ。
砂糖とかがその辺にある世界ではないし、俺は自分に刺さった矢で手一杯だったし、そもそも積極的に助けようという気もなかった。
死亡者は33人。
すべて成人。男女平等虐殺である。
男女平等パンチをいきなり超えてしまった……。
死体は重いわ、臭いわで、四人じゃなにもできないので放置している。
30人を埋葬なり焼くなりするのは大変なのである。
放置中なので、どこからかやってきたネズミが遠慮なくかじっていたりとまさに地獄絵図である。
さらにアレックスさんが村の裏手に大量の白骨死体が捨ててあるのを発見した。
……なるほどね。
ここで定住して旅人を襲ってたと。
殺したら裏に放置。
森のクマさんとか狼さんが処理してくれると。
ハードコアすぎる。
ちなみにヒューマンミートを調理している形跡はなかったそうだ。
よかったね!
もうね、これ以上俺の心を追い込まないで!
現代人は繊細なのよ!
それにしても治療はひどかった。
矢を抜いたら止血のために焼きごてまでされたでゴザル。
自分の肉の焼けるにおいで微妙に腹が減ったのが悔しいでゴザル!
今は熱も出ている。
これってさ……俺さ、死にかけてるんじゃね?
異世界到着半日で39人殺して、次の日に苦しんで死ぬってどんだけ容赦ねえんだよ!
なにこのクソゲー!
つかもう片方の腕も痛いじゃねえか!
アホか! バカか!
俺は動く方の腕を見る。
『
先に言え!
テメエコラ! ぶっ殺すぞ!
俺は罵倒しながら『回復』をイメージする。
回復が具体的にどういうものかはわからなかったが、とにかく健康をイメージした。
腕を治してくれ!
あと糖尿も肥満も高コレステロールも脂肪肝もない体に!
……できたら寂しくなってきた頭頂部もお願い。
と、必死にイメージしていると腕の傷が塞がっていく。
焼けた肉が元に戻り、穴が塞がっていく。
近くではティアが驚いたような顔で見ていた。
やめて不安になるから。
するとティアが言った。
「おっさん……体が光ってる……アレックスの旦那を呼んでくる」
そう言うとティアは小屋の外に出た。
俺は動かない方の腕の痛みが引いていくのがわかった。
……て、ちょっと待て……ここまでがチュートリアルかよ。
俺に矢が突き刺さって、やっとこで抜いてから焼きごてまでされるのがチュートリアルかよ!
責任者出せ!
今から説教してやる!
糖尿病の低血糖で33人殺すとかね。
陰惨の極み!
もうね、洋ゲーでもねえよと。
俺どんだけ死神なのよ!
俺はブツブツと文句を言いながらヒールをかけ続けた。
なんとなくコツはつかんだのだ。
なんだか体が軽い。
いつもだるくて眠いのに。
あ、そうかヒールで糖尿と脂肪肝も治ったのか。
……いきなり現代医学を超えてしまったな。おい。
頭頂部も微妙にふさふさだ。素晴らしい。
そうかバッドステータスも治るのか。なるほど……
その時俺はようやく気づいた。
リアルバッドステータスが全て俺の固有魔法になっているんじゃね!?
おいおい、糖尿だけでも国を滅ぼす力だぞ。
他のも発動したら無敵すぎるんじゃね?
水虫とか。
超必殺だけど。
俺が考えているとアレックスさんがやって来た。
「おお! ここまで効果のある回復魔法は見たことも聞いたこともありませぬぞ!」
お約束展開!
ようやく俺にも運が向いてきたらしい。
「なんとなくやったらできました。なにせ記憶がありませんので。あははははは」
俺はごまかすので精一杯だった。
「暗黒魔法だけではなく神聖魔法までも修めていらっしゃるとは……」
「暗黒魔法?」
神聖魔法ってのはヒールのことだとわかるが、暗黒魔法ってのはなんだろう?
「あのカラスです。暗黒神の使徒様を呼び出す魔法でしょう」
やっべ!
悪魔認定されちゃう?
焼かれちゃう?
串刺しにされちゃう?
石ぶつけられちゃう?
俺はびびりながら聞いた。
「あ……あの、暗黒魔法って法律に触れたりは……つかまっちゃったりとか? えへへへへ」
「はい? なぜでしょうか?」
アレックスさんは狐につままれたみたいな顔をしている。
よっしゃー!
セーフ! セーフ!
この世界ではセーフ!
暗黒神セーフ!
多神教だいしゅきダブルピース!
「い、いえ、殺しすぎちゃったかなーと。えへへへへ」
ごまかすのツラい。
「おそらく大丈夫でしょう。なにせこの村が盗賊のアジトだった証拠もありますし」
よし俺ちゃんセーフ!
車輪引きとか、串刺しとかのグロ刑に処されるとかマジ勘弁。
「それはよかった。ではさっそく安全圏まで行きましょう」
俺は話を変えた。
とりあえず暗黒心の話はここで終わりにしよう。
「ずいぶん急ぐんですね……まだ怪我を治したばかりだというのに……」
「ええ、これだけの規模の盗賊団が放置されてるってことは地元の治安組織もグルでしょうから。さっさと逃げますよ」
俺は笑顔で言った。
アレックスさんが絶句する。
地球だって紛争地帯じゃ普通のことだぞ。
『襲わないから』って地域の偉い人に直球で賄賂を要求されるからな。
犯罪に巻き込まれたらケツまくって逃げるのがセオリーだ。
「そ、そんな……」
俺たちは村を後にする。
証拠を残さないために『全て焼き払いますか?』と聞いたらアレックスさんとエリーさんは嫌な顔をしていた。
まるで俺が野蛮人みたいじゃないか! プンスカ!
そっか、これからは殺人の隠蔽に土魔法も必要か。
全部埋めちゃえばわからないよね。
俺たちは道を歩く。
馬糞がめっちゃ落ちている。
なんとなく予想はしてたが、すごいものだ。
「本来でしたら村のものが肥料として回収するはずなのですが……全滅しましたので」
そっか馬糞は財産か。
肥料だもんね。
それなのに誰だろうね。
村一つ皆殺しにしたヤツ。
俺だけど。
俺たちは馬糞だらけの道を歩いて行く。
これだけ多いって事は人通りも多いって事だろう。
こちら側の道は襲わないって盗賊と話がついていたのね。
俺たちの歩みは村にあった食料を強奪したから今度はゆっくり。
休み休み歩いた。
さらに数キロほど歩くと街が見えてくる。
そして見えてくる首吊り死体の群れ。
道の両側に数十体が飾られていた。
たまに串刺しも混じっている。
それをカラスがついばんでいる。
もうやだこの世界。
「ひどいものだな……」
アレックスさんが人ごとのように、現実逃避するかのように言った。
あからわらずグロ耐性ありませんね。
俺もないのでよくわかります。
「こんなに多くの人を処刑する必要があるんですか?」
「……それは」
アレックスさんは言葉を濁した。
知ってても何も言えないだろうね。
なぜなら……俺は直球の質問をした。
「アレックスさんとエリーさんはご夫婦ではありませんね。商人でもありませんね」
アレックスさんは顔を歪ませた。
ふふふ。
就職氷河期を生存した労働者の眼力をなめてもらっては困る。
職場で誰が誰とヤッてるか。
それを把握せねば、お局様と渡り合う事もできぬのだよ!
君らの態度は肉体関係のある男女のそれではないのだ!
「わ、私が盗賊だとでも?」
「いいえ。おそらく貴族では……ないかと? エリーさんは女中さん……かな?」
エリーさんは一歩引いた態度だったので俺はそう思った。
それにね、これだけ治安の悪い世界で彼らはグロ耐性なさ過ぎ!
つかね、君ら、グロを見慣れてないのはわかってるから!
人間が破裂したくらいでゲロ吐いてたし。
アレックスさんは黙る。
黙秘権の行使は当然だ。
だから俺はフォローした。
「言えないんでしょうね……私はしばらく街に滞在する予定です。困ったことがあったら言ってください。喜んで手を貸しましょう」
遠回しに『仕事ください』と言ってみる。
仕事がないといきなり詰むもんな。
兵士でも軍人でも定期収入がある職に就かねば。
「ではまず今回のことを領主様に報告しましょう。うまくいけば報奨金が出るかもしれません」
はいイベント発生。
報奨金ね。
そううまく行くかね……。
俺たちは街に入るのだった。
チュートリアルミッション リザルト
おっさんの被害者 盗賊 39名
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