第5話 チュートリアルミッション その2
おーっと、記憶喪失。
やばい、主人公フラグがびんびん立っている。
ただしバイオレンスな世界だけどな。
人の命の大安売り世界。
なんで名前だけスコーンと忘れたのだろうか?
理由があるのだろうか?
ただの設定とか言われたらおじさん暴れるよ。
……もしかして……若年性認知症!?
ぽくちゃんボケちゃった?
否定できないほど病気まみれの自分が嫌だ。
だめだ!
アカン!
それはまずい!
俺が軽く絶望していると新たな問題に気づく。
若年性認知症よりは直近の問題だ。
「あの……そこの子はどうなるんですか?」
俺はアレックスさんに言った。
『その子』とは盗賊のメスガキだ。
「あの……魔道士様はお記憶が……」
せっかく強引に話を変えたのに話を元に戻されたでゴザル。
胃の中のものを全て吐き終わったのか、スッキリした顔で商人が言った。
グロ耐性なさすぎ。
「ええ。ここに来たときに落下した衝撃でスコーンと……」
俺は適当なことを言った。
もうね、これでいいよね。
面倒だし。
「それで……そこの子はどうなるのでしょうか?」
もう一度俺は言った。
俺には重要な事だったのだ。
「縛り首にして死体は晒すことになります」
はいカット!
グロカット!
汚いおっさんがハラワタぶちまけて死ぬのはOKだけど、子どもが死ぬのはカット!
ロリ死ぬ。ダメ絶対。
だから俺は言った。
「彼らを倒したのは私です。私はこの娘の命の権利を主張したい」
「その娘は盗賊ですよ」
そりゃ商人にとっては盗賊なんて害虫と同じだろう。
害虫を殺さない理由は聞きたいわな。
「私には記憶がありません。しばらくは生活に補助が必要でしょう。なあに、必要なくなったら魔術の実験台にでも使いますよ」
俺はなるべく悪い顔をして『くくく』と笑った。
気軽に縛り首にする文化だ。
苦しめて殺すと主張すれば意見が通りやすくなるに違いない。
商人はしばらく考えると言った。
「……確かに、魔道士様の獲物でございます。その方向で検討致しましょう」
商人がこの妥協案をのんだのは、提案に満足したからなのか、それとも俺に対する恐れなのかはわからない。
だがメスガキの所有権は俺のものになるだろう。
……ノープランだがな。
このあとの事はなにも考えてない。
俺は縛られたメスガキの所へ行くと髪をつかんで顔を持ち上げる。
こういう横柄な暴力は好きじゃないが、ダメ押しでパフォーマンスが必要だ。
それにメスガキにとっても死ぬよりはマシに違いない。
我慢してもらうことにする。
「よう、メスガキ。今日から俺がご主人様だ。
まず言っておく。逆らおうが反抗しようが殺さない。
俺からしたらお前など虫けらのごとき存在だ。
わざわざ殺してもらえると思うな。
そうだな。子どもはときに構って欲しくてそういう行動に出るそうだ。
では俺を怒らせたら暇つぶしに遊んでやる。
頭に指を突っ込んで直接脳を操作する遊びとか楽しいぞ。
それと俺を殺そうとするな。面倒だからな。俺は怠惰なのだ。
その場合は罰を与えてやろう……ふむ、どれが一番苦痛を与えられるかな?
そうだ。お前に俺の子を産ませよう。
一度殺しに来たら一匹産ませてやる。どうだ楽しいだろう?
くくくくく!」
俺はなるべく高圧的な態度で言った。
ガキの顔が恐怖に歪んだ。目には涙をためている。
ひどく乱暴に言ったが、要するに『暴れなければ殺さない』という意味だ。
脳みそに指突っ込むとか繊細な俺にできるはずがない。
ゴキブリだって素手で触れないのに。
ただのブラフである。
できれば気づいてください。
そもそも、こんなガキを手込めにするのもなあ……。
かと言って殺されるのも嫌なので、ひどい言い方をしておく。
お互いのためだ。
あとは適当なところで解放してやろう。
その後のことまでは責任取らん。
だが効果はてきめん、商人はカタカタと膝を震わせている。
「わかったな」
青い顔をしたガキはうなずいた。
「よし、俺は……って、名前がわからなくなったんだっけ……お前の名前は?」
「ティア……です」
「よしティア。村はどっちだ?」
俺はあくまで厳しいトーンで言った。
しばらくは厳しくしとかないと殺されてしまうかもしれないからな。
「あ、あちらです」
ティアは片方の道の先を指さす。
手が震えている。
とりあえず今は恐れられている方がいいだろう。
適当なところで捨てる予定だし。
俺は馬車を見た。
よく見ると馬には何本もの矢が刺さっていた。
どう見ても死んでいる。
馬は重い。
死体処理には数人がかりだろう。
別の場所まで運んでから殺した方が楽なはずだ。
つまり殺しっぱなしで放置するつもりだったと。
ふーん、……なるほどね。
実に残酷だ。
「歩いて行きましょうか」
俺は言った。
歩くこと数キロ。
キツい。
マジキツい。
俺は泣き言を言うのを我慢した。
でも商人のアレックスさんと奥さんのエリーさんもそれほど健脚というわけではなかった。
たまに奥さんの提案で休みを挟んで歩く。
だが俺たち男は強情だった。
俺たちからは休みを言い出さない。まさに愚行である。
だがそれは、男としてのアイデンティティを守るために必要だったのだ。
おかげで双方かなり消耗した状態になった。
息を切らせた俺たちが、かなり歩くと村が見えてくる。
村は木製の柵で覆われているだけだった。
純粋に動物よけだろうと思う。
なるほどね。
俺はティアを見る。
ティアは目をそらした。
なるほどね。あーあ、迂回すればよかった。
アレックスさんと奥さんのエリーさんは『なんだろう?』という顔をしている。
俺に少しビビっているのか間合いを取って近くに寄ろうとはしない。
なるほどね。
先ほどから『なるほどね』を連呼しているのには理由があるのだ。
村の側に寄ると男たちが出てくる。
「徒歩とはどうかなされましたかな?」
笑顔の男がそう言いながら近づいてくる。
だから俺は……手を広げ問答無用でロケットランチャーを撃ち込んだ。
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