暮れなずむ48

エリー.ファー

暮れなずむ48

「暇なん。」

「暇よ、暇。勇者来ないし。」

「来なかったら俺みたいな魔王なんてね、もう、あれでしょ。」

「いや、ほんと、あれよ。もうね。その、なんだっけ、あれ。」

「用なし。」

「そう、それ、今、あれだった。果物の名前なんだけど、とか出そうだった。」

「あぁ。洋梨と、用なしね、かけたんだ。」

「なんか、今の発言わざとっぽいかも。」

「いや、普通に、わざとでしょ、その果物の名前なんだけど、的なやつ。」

「ちょいわざとな感じだったけども。」

「ちょいわざとって。」

「いや、あるじゃん。ちょいわざと。」

「ないない。ちょいでも、わざとだから。ちょっと痴漢しても、がっつり痴漢しても痴漢は痴漢だから。いっしょ、いっしょ。」

「言葉が出てこないのを、痴漢と一緒にするって。それは。」

「いっしょ、いっしょ、痴漢もど忘れもいっしょ、いっしょ。」

「はまってんの。それ。」

「いっしょ、いっしょ。」

「はは。」

「いっしょ、いっしょ。もう、全部まとめていっしょ、いっしょ。」

「流行らせるか、城内で、いけんじゃないの。」

「言ってる側としてあれだけど、これはさすがに無理でしょ。」

「いや、いけるいける。」

 魔王の城はとても高いところにあり、草原の中にある。

 最初の頃は、闇の谷にあったのだが薄暗く、事務作業などをする時に昼間でも電気を使うことが多かった。結果、経費がかさんでしまい、大きな問題になったのである。

 草原の中の城は、およそ魔王の城らしくはない。しかし、空気は澄んでいるし、休み時間のアクティビティも活発で中々評判もいい。

 またも風が吹く。

 美しい風である。

 皮膚を鱗を撫でて、熱が空気に溶けていくのが分かると、こんなにも手軽で気持ちの良いものがあるのかとおどろいてしまう。

 そのような風が吹く。

「どうすんの、勇者来たら。」

「戦うよ。」

「死ぬかもしんないじゃん。」

「死なない、死なない。」

「いや、それは分かんないじゃん。」

「でも、死なない。」

「全然、説明できてないんだけど。」

「でも、勝てると思うよ、実際。」

「なんでよ。」

「君がいるじゃん。」

「おいおい。何その感じ。」

「いや、確かに、俺みたいな魔王として単体だったらヤバいけど、塔統括兵長と一緒なら勝てるって。ラスボス戦が一対一じゃないといけないルールもないんだし。」

「まぁ、そりゃあそうだけど。なんか、あれじゃん勝ちに行くじゃん。」

「まぁ、死にたくないし。」

「魔王的にはどうなの、今回の勇者って、手ごわい感じなん。」

「まぁ、手ごわいよ。結構、やる方だと思う。」

「レベル高いのかな。」

「高い、高い。結構いってると思う。」

「チートとか使ってる感は。」

「あぁ、どうかな。それは、考えてなかった。でも、チートコードアナウンスとか別に仕掛けてないから、どうしようもないんだよね。さすがに。」

「そこは、さすがに。」

「信用するしかないじゃん。こっちは、そういう世界の中でしか戦えないんだし。」

 風はいつの間にか止まっていた。

 静かだった。

「魔王は知ってるかな。勇者って、モノマネ鏡っていうアイテムを持ってるんだって。」

「へぇ。」

「殺した魔物に変身できるらしいよ。怖いね。」

 その時。

 魔王は体が僅かに揺れたことに気が付いた。

 腹部に剣が刺さっていた。

 隣に座っている仲間の手に剣が握られていた。

 引き抜かれる瞬間。

 毛羽立った皮膚と、血が噴き出した。

「これは。すごいね。」

「何か言い残した言葉はあるか、魔王よ。」

 塔統括兵長の顔が溶けて行き、その向こう側に勇者の顔が現れる。

 魔王は目を瞑った。

「死ぬ間際に言い残すような言葉がないなんて。そんな貧しい生き方はしていない。」

 ただ。

 少しだけ。

 魔王は本物の塔統括兵長と、もう一度話したいと思った。

 一時間四十六分二十二秒後。

 魔王城にいる魔物が全滅した。

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