第44話 美南の戦場

化学歴で戦争が行われていた理由は様々であったと記されている。

植民地の奪い合いからはじまり、宗教上や危険分子の排除などつらつらと出てくる。

だが魔術歴の戦争はシンプルな理由だ。

高等魔術の奪取にある。

この魔術歴3800年においても、まだまだ魔術に関して知られていないことが多い。今でこそ第8式魔術が魔術演算において最高位の魔術とされているが、その上があるかも知れないし、基本魔術の派生系(水魔術の派生系の氷魔術など)の数など未知数だ。

それは突発的に生まれるものではなく、全て研究において明かされるものだ。

そのメカニズムを論理的に解いた上で初めて人間が使えるようになっていったのだ。

今は先進国である日本や新ソビエト、中華連合などに魔術的差はないが途上国は別だ。

隣の国ならまだしも、国内でその魔術情報を奪おうと争われている。

因みに魔術情報的に頭抜けているのがアメリカだ。今は日本と友好関係を築いているため攻め込まれる心配はないが、あちらも日本に情報を渡すことは滅多にない。取引でのカードとして温めているのか、いざ戦争になった時に優位を取られないためなのか、それは定かではないが…。


その関係で俺の第0式魔術も秘匿命令が下されていた。

…関係なく学校ではバンバン使っちゃったんだけど。

今考えると軽率な行動ひとつで戦争になりかねない。

もうちょっと後先考えて行動しよう…。


前置きが長くなったが、そんな理由でまだ争いをしている地域がある。

その中でも最も熾烈を極めてるのがアラブ連邦(化学歴でいうとシリアアラブ共和国)だ。

国が真っ二つ分かれて年がら年中紛争を起こしているのだ。

こんなに長く続く紛争はここだけだ。理由はというと、先程説明した魔術情報を求めてもあるが、宗教上の理由が介入してもっとややこしいことになった。

魔術を神の御技とし、その恩恵を授かる人間は使徒であるという考えのブート教が国教となっているトルコと、魔術は悪魔の技で、人間はその技を良い行いに使用し、浄化させるのが使命と考えるカトラフ教が国教となっているイラク。

そこに挟まれたアラブ連邦は宗教が真っ二つにわかれたのだ。考えが真逆な為双方の宗教を敬うわけもなく、紛争が始まったのが魔術歴3426年。実に374年も続いてる紛争というわけだ。


そこに雷裂透と風凱珠希、そして美南が降りるのだ。

しかもどちらにつくわけでもない。

言ってしまえばどちらも敵、四面楚歌の出来上がりだ。

…2人は1番しんどい場所を選ぶな………。

だが成長の特効薬と認めざるを得ないのも事実。

どれだけ特訓しても戦場に慣れていない兵士はすぐに死ぬ。

…俺はたまたま運が良く生き残っただけだが。

散々見てきた。


ここを生き残ることができれば、あいつはもっと強くなる。

というか死ぬ前に美南を助けてくれるよね…?

………心配で仕方ない。









「さーてついたよ美南ちゃん!約400年間も殺し合ってる場所、ここ地球で間違いなく最も危険な地域!!アラブ連邦ど真ん中!!!通称『死の境界線』と呼ばれてる場所さ!!!」

化学歴と比べてヘリの速さは尋常ではない。

魔術道具によって進化されたヘリは海を越えるのに半日もいらなくなった。

ジェット機を使えばもっと速いのだが、こんな紛争地域にジェット機が通過すればたちまち落とされる。

というか近づくことすら危うい。

ヘリではギリギリ射程外のあたりで止まることができるので、よく使われる。

出発して9時間が経過していたところだった。

美南は最初緊張でガチガチに座っていたが、3時間を超えると眠気が勝りうたた寝をしていた。

「えーっと…よく理解できないのですが、降りたら絶対死ぬっていうことはわかりました。」

美南は寝ぼけ眼を擦りながら、少し青ざめた表情を浮かべる。

「できる限り全力で私達は貴女をサポートします。死なせは絶対にしません。ただ、貴女が死にたがっていた場合は別です。…たまにいるんですよ、戦場に耐えきれなくて自殺していく人が。」

呆れた表情をする風凱珠希。急に何を言ってるんだという顔をする美南。

「とーにーかーく!死なないようにしてあげるから、美南ちゃんは気にせず人を殺すことを覚えてよ!でも油断すると手足とか無くなるから気をつけてねー!!」

と笑いながら雷裂透が言うと、2人の手を掴み降下する。

「狂ってる〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」

落ちながら何も説明なしに戦場へ笑顔で引きずりこむ雷裂透を美南は悪魔か何かと思った。

いや実際狂っているのだ。雷裂透は。

どれだけ慣れたとはいえ人を殺したり、戦場へ赴くのはいい気持ちではない。

戦場で殺し続けると、感覚が麻痺し殺人を快楽として感じる者もいるが、それは心のキャパが超えそうになった時に本能が自衛として快楽に変えるだけであって、平穏な日常を過ごせば感覚も戻る。戻らずに病院送りにされる者もいるが。

だが雷裂透にはそれがない。心のキャパがデカいとかそういう問題ではないのだ。

まずなんとも思っていない。人が呼吸をする、瞬きをする。そういった意識の外で行われる生理現象と一緒と捉えているのだ。殺すことも。

別に悪いこととも思っていないし意識すらしていないのだ。

それも戦争で植え付けられた本能の一つなのだが。

そんな雷裂透は地上に降り立つや否や無詠唱省略化(形無千と変わりない威力と速度だった)魔術を右手から放つ。

数キロ先の人影から煙が上がり、黒くなって倒れた。

「さて、詳しく説明してる暇もなさそうだから、バンバン殺してこうか!」

笑顔で言う。が、その笑顔はいつもの朗らかな笑顔とは違った。

まるで悪魔のような笑顔、と美南は思った。

「多少強引だとは思っていますが、形無千が私達に依頼したということは、これが特訓ということでしょう。…実際作戦中ではあったので。」

風凱珠希もそう言いつつ、魔術を展開していた。

「…やるしかないのですよ。小嶋美南さん。」

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