第43話 美南の決意

徹にはもっと体術を。立花には氷魔術を。

美南は…。あいつが1番問題だ。

美南には特に秀でた才がない。

徹のような身体強化魔術、立花のような他が平凡でも氷魔術なら非凡というような得意魔術を持ち合わせていない。

…酷だがハッキリ言うと死ぬならあいつが真っ先に死ぬだろう。

これから徹や立花のような魔術を育てるには時間がかかりすぎるし、才能もない。生まれ持った才がなければあのような領域にはいかないのだ。


魔術とは不平等で残酷で暴力的である。


だが、そんなものが、才能などというものが無くても人は殺せるのだ。

いともたやすく、簡単に、容易に。

その殺し方に関して『花園』の中でも特に突出しているのが風神雷神コンビだ。

あの2人は『花園』の中で唯一前線で戦っている連中だ。

煜翔寺堰堤や常闇センは言わずもがな、土翳豪は前線で戦うようなタイプではないし(性格はバリバリ前線の勢いだが。)、水嶺暦は…なんか実験室に篭って色々しているらしい。詳しいことは知らない。後はー…あの炎葬大和だが、前線タイプだったのだが、今は現場指揮をすることが多く、机上であれこれしているらしい。…似合わない。全然想像もつかない。

ともかく、『花園』のメンバーの中で前線で特攻隊長をしている…1番人を殺すのに長けているあの2人に指導をお願いした。

美南に何もないのは多分本人が1番わかっている。

というか、E組全員が分かっていると思う。同じクラスなのに徹や立花の才能を目にして、あの疎外感、孤独感。俺から魔術を教わったことで払拭できたと思ったあの感覚が戻ってきたかもしれない。

でも諦めず自分ができることを精一杯した。努力した。

それができるだけでも、俺はすごい才能だと思う。


『ハハッ!!!俺サマノ力ヲ頼リニシテルゴ主人様ガヨク言ウゼ!!!』

俺は3人を見送った場所で蹲った。

なんだ…!?どこからの声だ!?敵の魔術…攻撃を受けているのか!?

『違ェ違ェ…オマエノ中ダヨゴ主人様ァ。』

俺は初めてしっかりと内なる自分を意識することができた。

(お前は…俺なのか?)

『ハハハハハハッ!!!!…正確ニハ違ェケドナ。ゴ主人様ト会話ガデキルヨウニナッタノハ初メテカ…。コノ前ノ意識的ニ入レ替ワッタノガ原因カモナ!!!』

(この前…。俺が美南を殺そうとした時か!!!)

『アァ、アノ子娘ノ時ナ。ゴ主人様ガコノ姿見タ奴ハ殺スッテイウ約束ヲ俺ハ守ロウトシタダケダゼ?』

(……そんな昔のことは忘れろ。)

『自分自身ニ忘レロッテカ!?ハーッハッハッハッ!!コイツァ傑作ダァ!!!』

(うるさい…。とにかく話しかけるな。)

意識的に入れ替われるようになった分、コイツとの距離が縮まったというべきか…。心の中でだが会話ができるようになっている。

『マタ俺サマノ活躍デキル舞台ガ近ヅイテキテ喜ビヲ隠シキレネェナァオイ…。早ク人ヲ殺サセロヨゴ主人様ァ…。』

心の中でケタケタと笑っているような気がした。

(お前の出番は一生こねぇよ。…こさせてたまるか。)

その言葉でまた大声で笑っていたが、俺はそれを無視して足を進めた。






私は思う。

多分先生もわかっている。

あの2人は…何も思っちゃいないだろうけど、やはり魔術を見せつけられると思う。

私もあんな才能があればなぁ…と。

でも願ったところで強くなるわけでもないし、魔術演算が増えるわけでもない。


私は中学生の頃は地元で名が知れるほど有名な魔術師だった…と思う。

校内の魔術大会では1年の頃からTOP3には入ってたし、自分でも私は特別な才能を持っているのだと思った。

『…私第1に行くわ。』

進路指導の時間に私は言った。

地元でチヤホヤされてた分浮かれていたのかもしれない。

『やっぱりー!?美南ちゃんなら絶対いけるよ!!』

『さすが美南だ!!第1のA組にも入っちゃうんじゃねぇか!?』

『やめてよみんな…。A組なんて、全国のすごい才能を持った人達が集まるんだから、私なんて…』

私なんて。

せいぜいC組ぐらいだと思っていた。

だが現実は残酷だった。


井の中の蛙、大海を知らず。


その言葉のままだった。

蓋を開けてみればE組。しかもそのE組の中でも私は平凡な方だった。

恥ずかしい。どんな顔で私は中学の人達に会えばいいのよ。

今でも連絡を取る中学の友人は

『E組でも第1に入れるだけすごいよ!!!』

と言ってくれたけど当人は納得はしないわよね。

多分これはE組の皆そうだと思う。


テレビ中継…途中までだけど、されたこの前の魔術大会。

圧倒的なA組の魔術に私達がなす術なかったのが全国に放送されていたのだと思うと、恥ずかしいというより情けない。

あんな情けない試合、みんなに見られていたと思うと…。


でも私は立ち止まらない。

弱いと嘆いたところで強くなるどころか、千佳だって助けることができない。

私はA組の連中のような、徹や岬のようなすごい魔術はいらない。

ただ、友達を助けれるだけでいい。その力が欲しい。

それだけでいいの。


グッと手に力を入れ覚悟を決める。




「美南ちゃん!こっちこっちー!」

「ハァ…透。気が引き締まらないですね本当。」

2人に呼ばれ、ヘリの近くにいる雷裂透・風凱珠希のところまで駆け寄る。

「よろしくお願いします。美南さん。私のことは珠希、とでも呼んでください。」

「よ、よろしくお願いします!珠希様!!!」

「…様はできればよして頂ければ。」

「僕のことはとおるんでいいよーー!!!」

「…よろしくお願いします。珠希さん、透さん。」

ぶーっと頬を膨らましぷいっと顔を背ける雷裂透。

「まぁいいや!じゃあヘリに乗ろうか美南ちゃん!」

「えっと…どこに行くんですか?」

「んー。とりあえずは、紛争地域かな!!!」

美南は一瞬凍りつく。

「……え?今なんて…。」

「今も戦争が行われている紛争地域ですよ。美南さん。」




美南は初めて、戦争を経験する。

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