葵千佳奪還編
第42話 初めまして。
多くの屍を築いた。
天高く聳え立つ巨塔の上に男は座る。
大きな、人間1人が座るには大きすぎる椅子の上に男は不適に笑い、座っている。
そこから見える景色には硝煙や瓦礫などは見当たらず、それ以上の屍を作ることもなかった。
拍手喝采に混ざり失望の声や消失の涙が溢れるが、そんなものは全て歓喜によってかき消された。
近くに立つ女が言う。
これでよかったのか、と。
男は不適に微笑みながら言う。
これでなければダメだ、と。
その男に対し、3人の若者が立ち向かう。
俺は目が覚めた。
また変な夢を見た。
「今度は…なんだ?戦争とかの夢じゃなかったな…。
わけわかんねぇ夢だった…。」
汗をかいたわけではないが、俺はシャワーを浴びることにした。気分転換、リフレッシュのためだ。
俺は軍の寮施設、その一室のシャワールームへと足を運んだ。
そう、俺達は今日から軍人として、この日本魔術軍の寮生活が始まり、初日というわけだ。
昨日カタストロフと今後の予定について話した後、歓迎会と称してプチパーティーをやり(と言っても俺とあの3人だが)、各自振り分けられた部屋で休息を取ったのだ。
今日はあの3人についてもらう上官との顔合わせ。…まぁ軍に所属と言っても千佳を救う急造のチーム、そう簡単に軍隊に入隊して小隊を動かせるわけではない。
とりあえず個人に1人、教育係をつけるのが精一杯だった。
でもとっておきの教育係だ。
あいつらは思ってもない特訓になるだろう。
…ちょっと俺の方が楽しみ。
これが教師の、生徒の成長が楽しみっていう感情なのかなぁ…。
「皆準備はできたかって…プッ!!!!軍服が似合わないのなんの!!!!!」
あらかじめ伝えていた集合時間に15分ほど早く集まった3人の姿を見て思わず笑ってしまった。
全然似合わねぇこいつら。
「なんだよ先生ー!!見ろよこれ、カッコよくね?」
「徹、皆同じ服なんだから見せびらかさなくてもわかってるよ。」
「…似合わないのはわかってるわよ。」
「ま、まぁ上等上等!最初っから似合うヤツなんかいねぇからな!!」
「そうだな。貴様も最初は本当に笑えた。孫に衣装とはこのことだと、笑い転げそうになったわ。」
俺が笑っていると背後から声がした。
「……げっ。この声は。」
「久々に会ったと思ったら、げっ。とはなんだこの馬鹿者!!!!!!!!」
俺はゲンコツをくらいその場で悶えた。
「いってぇぇぇぇぇえ…。何するんすか鷲野上官!!!!」
「貴様は身体で覚えるタチだったろう?だから教えてやった。上官に対しナメた態度を取るな、と。」
シワが刻み込まれた顔。白く染まった髪。だが身体付きはまだまだ衰えていない、隆々とした筋肉が軍服の上からでもわかった。
「いつつ…紹介しよう、この人はかつて俺の上官だった鷲野少尉だ。」
「今は鷲野大尉だけどな。…初めまして若人諸君。この馬鹿者の前部隊、日本魔術軍前線第3部隊隊長兼、前線部隊総隊長補佐の鷲野秀敏だ。以後、よろしく頼む。」
「は、はい!!!!!」
慣れない敬礼を3人揃えて行った。
「…とは言っても、私は君達の稽古には付き合わんがな。もっと特殊な方達が付いてくださる。まぁ、死なないように頑張りなさい。」
ニコッと笑う鷲野少尉…じゃなく鷲野大尉。
その言葉に困惑する3人だった。
「えっと…先生?」
「ハッハッハッハッ!!!!!!そう言えば貴様は教師をしていたんだったな!!!花園特殊任務部隊隊長?あーいや、今は形無特殊任務部隊隊長か。」
「もう…からかわないでくださいよ鷲野大尉…。」
バシバシと俺の背中を叩く。
「…よくわからないんだが、先生。まず先生の階級?ってのはなんなんだ?」
「んーー。そこら辺は難しいんだが、俺にはこの鷲野大尉のような階級はない。軍の機密事項に関わる部隊だからな。階級外なんだよ、俺達は。」
「だからな、私達は花園…いや形無を敬意と畏怖の念を抱いて『形無特長』とな。」
「何が畏怖の念をーですか。特長特長って…。特殊任務部隊隊長を縮めただけじゃないですか!!」
「でもな、私でもこの部隊、どんなことをしているかわからん。不気味なんだよ。知っていることが少なすぎて。」
と鷲野大尉は言う。そりゃそうだ、機密部隊なのだから。
「まぁ、雑談はここまでにして。ついてきなさい諸君。君達の教育係を紹介しよう。」
と言うと、鷲野大尉はツカツカと奥へ進んでいった。
「…ほら。お前ら。行ってこい。」
俺は困惑しながらも進む3人の背中を見て、少し寂しくなった。
「……強くなってこいよ。」
ボソッと言った俺の言葉に、3人は振り返り。
「はい!!!!!先生!!!!!」
屈託のない笑顔を向けた。
「では、この扉の向こうにいらっしゃる。心の準備ができたら入るといい。」
それだけ言うと、鷲野大尉は来た道を戻り帰って行った。
「ワクワクしてもうたまんねぇ!!!入っていいか!?」
「まッ!!!待ちなさいよ!!!!まだ心の準備が…。」
「美南の準備を待っていたら、日が暮れそうだね。」
3人は大きな扉の前で話していた。
「早く稽古つけてもらってよ、1秒でも早く千佳を助けに行こうぜ!!」
「…わかってるわよそんなこと。行くわよ!!!!ついてきなさい!!」
「美南を待ってたんだけどな…。まぁいいか。」
美南が勢いよく扉を開ける。
「待ちくたびれたぞ。若いの。」
車椅子に乗った老人が言う。
「君が折鶴徹君か。初めまして、私は環蓁という。」
「貴様が立花岬か?日本人。私はカタストロフだ。」
2人は目を丸くして口が開いたままだった。
それ以上に驚いていたのが美南だった。
「初めまして…ではないか。私のことは知ってる?」
「何言ってるの珠希!!仮にも『花園』でしょ!ごめんね美南ちゃん、僕は雷裂透、よろしくね!!」
「な、なんで私だけマンツーマンじゃないのよォォォォォォォォォォォォ!!!!!!」
驚きながらも、いやそこかよ。とツッコミたくなる立花岬であった。
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