第40話 形無千

「で、色々まぁ割愛すると、戦争は終結を迎えて俺達は平和を取り戻したってことだ。」

話を終えると俺は満足げに席を立とうとした。


「いや待ちなさいよ!!!!」

美南が制止をかける。

「なんだよ美南!!いいまとめ方だっただろ!!」

「センセーの言う通りだぜ美南!!いやーすげェ話だった!!本当にノンフィクションかよ!!」

徹が満足そうに拍手を俺に送る。

俺も満更ではない表情をする。

「いや…まだ肝心の0式について聞けてないですよ先生…。」

「あ。」

立花の言葉に俺と徹は固まる。

そーいや話忘れてた。

「しかもおかしいじゃない!!先生は4式までしか魔術演算できないって言ってたのに、話の中ではバンバン6式とか使っちゃって…挙げ句の果てには闇魔術の7式よ!?話を盛らないでよ先生!!」

「あぁ…言われてみりゃあそうだな!!先生!!盛り上げる為とはいえ嘘はいけねェぜ!!!」

美南の言葉に、徹は思い出したかのように俺にキレる。

掌ぐるんぐるんじゃねぇか。

「まぁ…それも0式に関係してくんだけどな…。」

俺はまた座り直し、目の前の3人に語った。


「戦争が終結し、後は日本へ帰るだけってとこでな、敵の残党勢力がまだ攻撃を仕掛けてるっていう情報が入ってな。最後まで戦場に残ってた父さんや父さんの直属の部下達が、その残党勢力の一掃しに行ったんだよ。………で、まぁ…。」

俺は少し間を置いた。次の言葉が紡がれるのを、3人、あの徹ですら静かに待っていた。

「………まぁ、報告によるとそこで父さんは戦死したらしい。俺は先に戻っていてカタストロフを捕虜にしてとか色々忙しかったからな。……戦死は報告だけ受けた。…死体すらなかったとよ。懸賞金でもかけられてたんかね、父さんは…。」

全員が黙り込む。姉さんは下を向き小さなため息をついた。

「戦争だからな、いつどこで誰が死んでも…それこそ父さんのように『魔術王』やら『軍神』やら呼ばれてた人間でも、死んでもおかしくない…。んなことはわかってたんだけど…わかったつもりでいたが…。まさかあの父さんがやられるとは思わねぇだろ…。」

俺は空のティーカップの縁を指でなぞりながら言う。

「…たしかに魔術王の最後については詳しい記録はなかったわ…。戦死したぐらいの記述しか…。」

「そうだよ美南。俺の父さん、花園神也は後世にその人生を語られることなくあっさりと死んじまったんだ。」

誰もが言葉を発さない。

「…そこから父さんの代わりになる抑止力、それを日本に作る為に『花園』を作り上げ、俺は父さんを殺した…あの魔術王を殺した脅威から身を潜めるべく名を変え『形無千』として生きることになったってわけだ。」

そして俺は淡々と続ける。

「そして禁呪を使い、俺は魔術演算の限界値が4式になる代わりにこの0式を手に入れたんだ。…以上。」

そう言うと俺は立ち上がり部屋の扉まで向かった。

「…早速明日から軍での訓練を始める。身の回りの整理だけしとけよ。」

そう言い残し、俺は部屋を出た。








最後に話した父さんのこと、0式のこと。

アレはほぼ嘘だ。父さんが敵に、しかも残党兵に殺されるわけがない。

上司からの報告では戦死と聞いていたが、腑に落ちなかった俺は色々嗅ぎ回った。

そしてある事が起きたんだ。それをあいつらは知る必要もないし教える気もない。

あの場…いや、『花園』でも姉さんしか知らない事実。

本当のことは誰も知らなくていい。

…クソッ。嫌なこと思い出しちまった。



戦争に魔術が使用されてから何年だと思う?泉君。

…実に長い歴史の中で使用されてきた。その中で進化を遂げた、進化を促した者がいる。…それがここにいる神也君のような天才だ。

神也君が8式魔術という奇跡を成し遂げたのだ。

だか考えてみて欲しい。今後この先、そのような奇跡を起こす天才が、他の国に現れない保証はないだろう?

そうなったら我が国はどうすればいい?対抗しうる手段はあるのか?

…いやないね。たとえこの神也君でも難しいだろう。

そこで私は考えたんだよ泉君。

魔術が進化するならその魔術を無くせばいい。魔力が枯渇する?その魔力すら使わない魔術を作ればいい。

…そんなことが可能かって?そのための研究だよ泉君。

だが完全ではなくてね、魔力の器が大きい者に膨大な魔力を注がなくてはならないんだ。

なんの話かって?いや泉君は気にしなくていい、こちらの話だ。

試作品が間に合ってよかったよ。神也君ほどの天才を完全に無力にするのに5時間、しかも無力にできるのは30分足らずときた。あぁ、時間が迫っていてお話ができないことを神に恨みたい。

信じてる神なんかいないけどね。サイエンティストだから。

さて、初めての実験だ。胸が躍る。

君の魔力の器が壊れて魔術が使えなくなるかもな。逆に恐ろしい力を手にするかもな。楽しみで仕方がない。


どうか死んでくれるなよ、泉君。





やった!やった!成功だ!!

器に少々ヒビが入ったのが悲しいが概ね成功だ!!

すごいぞ泉君。君は神をも越える力を手にしたんだ!!

…ん?神也君が動かないって?

ハハッ。そりゃそうさ。魔力を限界まで絞り取ったんだから。

言うなれば「魔力欠乏症」ってやつかな?

じきに息絶えてしまうが問題はないよ。だって君が完成したんだから。

最初の実験で成功することより嬉しいものはない。

興奮が収まらないよ。

そうだな…君は花園泉という英雄の器を越えた。

そこから新しい名前をつけるとしたら…。

そうだ、魔術が必要ない、術式がいらない魔術師。

形が無い魔術師。形が無いおおよそ千の魔術を扱う者。




君はこれから『形無千』として生きていこう。

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