第39話 仇討ち
「第6式攻撃系雷魔術!!!!〈全能神の雷〉!!!!!」
「ほう!!!!!!6式まで使えるようになったとは!!!面白い!面白いぞ小僧!!!!!!」
両手を広げカタストロフは構える。
「第7式防御系氷魔術〈銀河の氷柱〉!!!」
「なッ!?詠唱無しで7式だと!?」
俺の術式から発生した高速の雷は、空から落ちてきた巨大な氷柱によって防がれた。
無詠唱化技術は、俺達の中から漏れてはいないはず…。なぜ詠唱無しで7式の高演算魔術を…?
その疑問はカタストロフが答えた。
「見ろ。この手に刻まれた術式を。この術式のおかげで、詠唱せずとも術式が展開し、魔術を行使できる。…無詠唱が貴様だけのモノと思うなよ?」
不敵に笑うカタストロフ。
俺のアドバンテージがひとつなくなった。相手に詠唱する隙を与えず、無詠唱省略化魔術で殺す。
その戦法ではこの『戦場のカタストロフィ』は殺せない。
まだこちら側に新ソビエト連邦の薬が流れていないと考える訳もないカタストロフには、その情報的アドバンテージもない。
完全に力勝負だ。
「クソッ!!!!!」
焦りから思考がまとまらない。イメージが頭の中でしっかりと具現化できなければ、無詠唱も術式省略化もできないことは理解しているのだが、そのことも焦りの要因となる。
コイツに勝てるのか!?いや、勝つしかないんだ!!でも…力量の差、経験の差、どちらを取っても相手の方が上。気持ちでどうにかなる問題か!?
考えている時間はほんの数コンマだったが、戦場ではその時間すら敵となる。
「どうした?攻撃の手が止まっているぞ?そんなものか若き英雄よ!!!!!!第6式攻撃系氷魔術〈女神の吐息〉!!!!!」
手の刻印から発生した術式は展開していき、その術式から猛吹雪が俺を目掛けて襲う。
高演算魔術を惜しみなく撃ってくる。本気で殺しにかかっていることがわかる。
「そんなことわかってんだよッ!!!!!」
俺は俺に言うように叫んだ。
力量、経験が相手の方が上?
気持ちで実力は埋まらない?
こちらの切れるカードはもう残っていない?
そんなことはわかっている。
戦う前から知っている。
だがそれだけの理由で負けていい理由にはならない。
考えろ。
勝つためには、考えろ。
勝利は、偶発的で奇跡的で、運ではない。
必然的で冷酷で絶望的なものである。
「第5式防御系煜魔術〈天空の羅針盤〉!!!!」
「ほう…基地を襲った時使っていた煜魔術か。流石は英雄、煜魔術も使用できるのか。」
出現した大きな羅針盤の針が刺した方向は、父さんと環秦が戦っている方面であった。
「ほほっ。邪魔が入りましたな。」
環秦は両腕に魔力を込め、猛吹雪を受け流していた。
父さんはその吹雪から距離を取り仕切り直した。
「難を凌いだつもりだろうが、まだ戦いは始まったばかりだぞ小僧。」
カタストロフは腕を突き出し、術式を展開する。
しかし羅針盤が邪魔をして俺の姿が見えないでいた。
「その羅針盤諸共凍らせてやる。第7式攻撃系氷魔術〈雹雪崩〉!!!!!!」
カタストロフの眼前を埋め尽くす程の氷塊。
〈天空の羅針盤〉の針は奇怪な音を立て弾け飛び、羅針盤を氷漬けにした。
「まだだろう?貴様の怒りはそんなものではないだろう?見せてみよッッ!!!憤慨の力をッ!!!!」
「言われなくても見せてやるよカタストロフ。」
「なッ!?」
大きな羅針盤で隠れていた俺は、何重にも身体強化魔術を施し、地面を掘り進んでカタストロフの真後ろから出現した。
「これが俺達の怒りだァァァァァァ!!!!」
攻撃系魔術は使わず、己の拳で、振り返ったカタストロフの顔面を殴りつけた。
俺が元いた場所よりも後方へ吹っ飛んでいった。
「ハァ…ハァ…。これが…お前に殺された大正の分だ。重ぇだろ…。」
「フッフフフフフフフフ…」
倒れ込んだカタストロフは、血が混じった唾を吐き捨て立ち上がった。そして大きな声で笑った。
「フハーーーッハッハッハッハッハ!!!!!」
その声は、この4人だけしかいない大地に響き渡った。
「いつ振りだ!!!!この私の顔面を殴りつけたのは!!!!この私を殴り飛ばして跪かせたのは!!!久しくなかったぞ!!!!!」
口から出ている血を拭い笑う。
「…そんなに面白いか。カタストロフ。」
「ハハッ!!これは面白い!!!戦場でこんな気持ちは初めてだぞ小僧!!!愉快だ…愉快で顔が歪んでしょうがない!!!!」
「そうか…。じゃあ、カタストロフ。」
「なんだ?」
口元を抑え笑みを零しているカタストロフに問いかける。
「戦争は楽しかったか?」
その質問でカタストロフの笑みが消える。
「…楽しいだと?貴様に殴られたのは愉快だった。…そうだな、楽しかったと認めよう。…だが、先ほども言った通りだ。今までの戦場で愉快だったことはひとつもない。極めて不愉快だ。」
「…なぜだ?」
「答えるまでもない。見ず知らずの者を殺し、自分の子と歳が変わらないような者を殺し……家族が待っているから助けてくれと嘆いた者もいたな…。その者も無慈悲に殺した。これのどこに楽しさを見出せばよい。これのどこが愉快なのだ?」
「違う…そうじゃない。」
俺は構えるのを止め、哀れみの目を向けた。
「なぜ…それがわかっているのに止められないんだ?戦争ってのは…。」
「やめろ…そんな目で私を見るな…。」
「仕事の為、祖国の為、保身の為、愛する者の為…。」
「黙れ…。」
「何の『為』なら殺していい理由になるんだ?何の『為』なら殺していい言い訳になるんだ?」
「黙れと言っているだろォォォォ!!!!!」
カタストロフは一気に距離を詰め俺に殴りかかった。
口に溜まった血を吐き出しカタストロフを殴り返す。
「俺もなりかけたよッ!!!お前らのような殺戮マシーンになッ!!!」
カタストロフもまた俺を殴りつける。
「でもな…自分を殺してまで殺さなきゃいけない場所ってなんなんだよッ!!!」
負けじと俺も殴り返す。
身体強化を除いた、魔術一切抜きの殴り合いだ。
「グッッ!!…貴様は何もわかっていない!!!わかった様な口をきくなッッッ!!!!!」
力の入った拳が俺の腹を抉る。
吹き飛ばされ、俺が地面に突っ伏せる形で殴り合いは終了した。
「…俺は信じてるぜ……ッ!争いがなくなる、殺し合わなくても済む様な世界ができるってこと…。」
「若すぎる…ッ!!それほど世界は単純ではないッ!!!…この魔術という奇跡が発見される前の科学歴…それほど古くからの呪いなのだッ!!!人々は否が応でも争わなくてはならぬ!!!!」
俺はゆっくり立ち上がり、そしてまた構えなかった。
「俺は…。父さんがその平和の象徴になるって信じてる。これまで抑止力であったように、最初は力での平和かもしれない。…でもいつかそれが当たり前になって、平和がなくちゃダメな世界になるって信じてる。」
俺はカタストロフに微笑みかける。
「……若きその幻想を永久凍土の先で思い続けるがいい。そんな夢物語などなかった。永久に凍り、永久に人類が争う姿を瞳に映し、落胆するがいい小僧。」
カタストロフは持っていた薬を雑に飲み干し、構えた。
「第7式攻撃系氷魔術…」
刻印から術式が発生し、大きく展開する。
(雹雪崩〉とは比べものにならないくらいのサイズだ。
「カタストロフ…。」
俺も持っていた薬を飲み、魔力を回復させイメージを定着させる。
「小僧…。貴様とはまた違った運命で出逢いたかった。貴様の掲げる青い平和論を、酒でも飲み交わして語りたかったと、少し思っている。」
「そりゃ勘弁願いたいね。新ソビエト人に酒で勝てると思わないし、まず頭ごなしに否定されそうだからな。」
俺は笑みを零す。
「……永久に凍てつけ〈ニヴルヘイム〉」
俺の方面に一直線に何か、言い表し難い何かが迫る。その何かに触れた地表、草、石、空気などは全て凍り、動きを止める。空気が凍りその場から消え、周りの空気がその穴を塞ぐことによって空気の対流が起きる。その飲み込まれた空気も凍り、その無限対流によって起きるのは、風。突風である。その言い表し難い何かに吸い込まれるように、吸い込ませるように起こる突風は、踏ん張っていても無意味、最後はその何かに触れ永久的に凍てつくのだ。
「第7式付与系闇魔術〈闇纏の羽衣〉」
俺の体には魔術さえも惑わす闇の羽衣が備わった。
この魔術の弱点は姉さんからも聞いている。俺が唯一使用できる7式魔術。姉さんから直々に教わった魔術だ。
この弱点はカタストロフも知っている。俺も知っている。
この魔術中は他の魔術は使用できない。
だが、それ以前の魔術はどうだろうか。
それ以前に使用していた身体強化魔術、それは付与されたままである。実際に姉さんも戦場に出る前の身体強化魔術は消えていなかったと思う。
だがこれでもまだ弱点はカバーできていない。
俺が何重にもかけた身体強化魔術と〈闇纏の羽衣〉。消費魔力は尋常ではない。この魔術に関してはあの父さんでさえ維持するのがやっとと言うほどだ。
だが俺にはまだあの薬がある。ずっと維持するわけではない、一瞬でいい、一瞬カタストロフまで潜り込めればよいのだ。
「なッ!?!?」
完全に決着が着いたと思っていたカタストロフの胸元まで辿り着いた。口に咥えた試験管を吐き捨て、〈闇纏の羽衣〉を解いた。
魔力が回復するのと同時に、身体強化魔術をまた俺の体に施し一気に詰め寄ったのだ。
「…これで終わりだ。カタストロフ。」
俺はカタストロフの胸を省略化無詠唱魔術で貫いた。
「グハァッ……」
カタストロフは夥しいほどの血を流し倒れ込んだ。
「…なぜもう魔術は撃たないと…考えた…?」
「…カタストロフ。お前は俺との会話で怒り、我を忘れていた。…今まで使った魔力量を考えたら数本飲むべきだったんだ。…でもあの7式魔術で決まると思ったお前はその分しか回復しなかった。……そりゃあんな魔術、避けられるとは思わないだろ、姉さんや父さんと違って、俺では。」
「……フッ。では……あの言葉達は嘘だったというわけか…。クソッ…歳を取ると…アツくなっていかんな…。」
「いや……。嘘じゃない。俺もアツくなって、思ったこと全部ぶちまけた。それが功を奏したよ。」
「フフ…。そうか……。そうか…。やっと私は殺されるのだな。」
俺はゆっくり笑うカタストロフを見ていた。
「……やっと、やっと罪が償えるのだな…。」
「………。」
俺は倒れているカタストロフを背負い、本部へと向かった。
「…何を…している…ッ!?」
「もう勝負は着いたんだ。それでいいだろ…。」
「貴様の友人の仇だぞ!?何をやっている!?」
「死んで、全部償ったつもりで楽するのは許さない。生きて、生きて罪を償えよ。」
俺は身体強化で尋常ではないスピードで本部へと向かっているが、カタストロフに負担がないよう大きく揺らすようなことはしなかった。
「…フッ。とことん甘い小僧だ…。貴様は…。」
と優しく微笑んだまま、カタストロフは目を閉じた。
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