第38話 最終決戦。
あれから何日、何ヶ月経ったのだろう。久しく時計や日付を確認してないので、感覚が狂っていた。
新ソビエト連邦の薬品技術を、父さんと姉さんはいいように使い、死にかけても魔力が尽きても俺への特訓は終わらなかった。
まさしく地獄。
下手したらあの戦場よりキツいんじゃないかと思えるぐらいの地獄だった。
「何日…いや数ヶ月も前か?…あの新兵丸出しの頃とは見違えるようになったな、泉。」
「たしかに。今どれくらいの術式演算ができる?」
「…多分6式までは自由に使えると思うよ姉さん。」
段々と姉さんと父さんの力に対抗するぐらいの実力をつけ始めた時だった。
流石に本気で殺しにかかられたら太刀打ちできないが、瞬殺されることはなくなった。…と思う。
「薬のおかげで疲労も何もかも回復はするけど、気持ち的に布団で寝たい気分だよ…。」
「フッ…あれから私達寝てないからな。…この薬で生活リズムまで狂ってしまう。」
父さんが持っていた試験管を見る。
数日おきに土翳豪が、本部の医療室で試験的に作られた薬を届けてくれるので薬のストックが切れることはなかった。
その度土翳豪は、
『休む暇もなくってこのこと言うんだな。ガッハッハ!!!気張れよォ!!でねェと死ぬぞ!!!』
と笑いながら去っていくのであった。
「布団で休息をとりたいのは私も同じだ…。ちょっと仮眠でもするか?」
「そーだな…私も風呂に入りたい。」
俺はその2人の言葉に目をきらつかせながら元気よく立ち上がり本部へ向かおうとした。
「おォォい大将!!!!始まったぞォォ!!」
本部の方から土翳豪が走ってきた。あのでかい図体からは想像もできない軽やかさだ。
「このタイミングで…。中間基地はどうなった?」
「ハァ…ハァ…ギリギリ間に合ったってとこだな。一応兵士達が休んだり治療するスペースは作ってある。試験薬も何セットか送れたぜ。」
と、土翳豪は父さんに握っていた試験管を数本渡した。
「わかった…。すまんな2人共。布団とシャワーはまた今度らしい。」
「ハァ…最悪のタイミングだな。」
姉さんがわかりやすく大きく溜息をついた。
俺の2回目の戦争が始まる。
「ハァーーーーーー!!!!!疲れた!!!!」
と俺は用意されてすっかりぬるくなった茶を一気に飲み干した。
「おいおい先生ェ!!!いいとこでやめんなよォ!!!」
「落ち着けよ徹…。話には順序があるだろ?」
「いやでも立花…。私も『花園』のことが気になってあんまり話入ってこないわ…。」
2人ともまだかまだかと俺の話を聞こうとしている。
立花は出された茶を静かに飲みながら聞いていた。
「ハァ……。こんな長く喋ったことないからなぁ。舌が乾くのなんの。」
「軍用魔術といい…貴様は本当に教師の責務を果たしているんだろうな…?」
姉さんは持っているティーカップにヒビが入るほど手を震わせていた。
「いや!!!姉さん!!!教えてる教えてる!!最高の教師だよな!?ねぇ!?」
「何回か殴られた気がする。」
「軍用魔術でドヤられたわ。」
「…7式早く撃てって無茶振りをした挙句急かされました。」
「テメェら今後何もぜってーーー教えねぇからな!?!?」
俺の投げかけに今までの鬱憤を漏らした3人だった。
「さて続きから話そうか。」
「えっと…一応心配しておくわ。…大丈夫?」
「あ?…大丈夫。あの頃の特訓と比べれば屁でもねぇ。」
3人の回答に有無を言わさず、低演算魔術でダイレクトアタックされた俺の頬を美南は心配してくれているようだ。
なら嘘でもいい教師って答えてくれ。
「まぁ…そうだな。長くなってもあれだし、色々割愛していく。ここからは重要な部分だけ話していこうか。」
俺は飲み干したティーカップを口に運び、少しあった茶で唇を濡らして進めた。
戦争が再開してからは、自分で言うのはなんだが、俺は破竹の勢いだった。
あの2人に特訓をつけてもらったから当たり前なのだが、向かってくる者敵なし。
気づけば、その戦果の勢いから『英雄』と呼ばれるようになっていた。
戦争は日本の優勢で、このまま終結へ向かうかと思われた。
「弟子に負けっぱなしでは終われませんねぇ。」
「貴様を倒して、この戦争を終結させる。」
敵本部の前にはあのカタストロフと環秦が立っていた。
「本部周りの護衛が2人とは…。舐められたものだな。」
「ッ!!!…父さんからの連絡があったと思ったら…そういうことか…。」
迎え撃つは父さんと俺の2人だった。
「ほほっ。神也、冗談が上手くなりましたねぇ。」
「この2人以外は、この本部護衛が務まらないというわけね…。納得はできる。」
俺は目の前の強敵を前に頷く。
「ほう…。小僧。見ない間に少しはできるようになったのだな。」
カタストロフが俺の姿を見てそう呟く。
その大きな体。その大きな足を見て、あの惨劇を思い出す。と同時に薄れゆく記憶の中嘆いていた姿も思い出す。
…決着をつけなきゃな。なぁ、大正。
「父さん、カタストロフは俺がやる。」
覚悟を決めた目を見て父さんは、ゆっくり頷く。
「思い上がったな小僧。…少しは楽しませてくれよ。」
俺はカタストロフに語りかける。
「戦場で仇討ちなんて…無意味に等しいかもしれない。この時この一瞬でどれほどの命が消えていってるかなんて、誰にもわからない。その仇を取る行為なんて…ここでは無意味どころか、思考を停止したバカのすることだと思う。……そんなことはわかってる。わかっててもお前だけは殺したい。俺と大正で…お前を越えたいッッ!!!!!!!」
俺は何重にも重ねた身体強化魔術でカタストロフと距離を詰めた。
「カタストロフーーーーーーーーッッッ!!!!!」
「来いッ!!!!!未熟で若き英雄よッッッッ!!」
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