第28話 殺し方の伝授
「は、花園泉ィ!?」
「そう。あん時の受付のお姉さんと同じ反応するなお前ら。」
俺の本名に3人は身を乗り出して驚いていた。あのお姉さんも受付の机から身を出して驚いていたなぁ。
そう、俺の形無千という名前になる前は花園泉ハナゾノイズミという名前で生きていたのだ。
「花園って…あの…。」
立花が恐る恐る聞く。
「ん?あぁそうだ。かの『軍神』と呼ばれていた『花園神也』の一人息子だ。」
俺は久々に父のフルネームを言った。なんか恥ずかしいんだよな、父さんのことを軍神やら魔術王だの褒め称えるの。俺にとっては父さんは父さんだし…。
「お、おい…。あの伝説の魔術王・花園神也の息子が…先生だったって…ヤベェだろ…。」
「なんでそんなこと…黙ってるのよ…。」
「いや…言う必要ないし、今は違う名前だし。」
俺は父さん関連で売名することや自慢することはしたくない。
確かにかつての日本に大きな影響を与えたことは事実だし、魔術の腕も世界トップクラスだった。
それは俺もすごいと思うし尊敬するし、目標でもあった。
だがそれを利用する訳にもいかないし、そんなことをしたら天国にいる父さんに怒られてしまう。ような気がする。
「まぁ、とりあえず続きを聞いてくれ。こんなことで一々止まってたらキリがないからな。」
「おいおい先生、こんなことって…この先にこれ以上の驚きがあるかよ!!」
徹が好奇心でキラキラ輝かせた瞳を俺に向ける。俺はその姿を見て頬が緩んだ。
切り替えのためにコーヒーを1口含む。それを喉に通すと、話を再開させた。
そんなキラキラしたおとぎ話ではないというのに。
「えぇ!?!?花園ってあの…!?」
「あぁ…。はい…そうです……。」
あの軍神の息子がこんなしょぼくてごめんなさいと、心の中で謝る。
「確かにそういった情報は回ってますけど…まさかこんな……こう…」
受付のお姉さんは口をごにょごにょさせる。俺には言いたいことがわかる。
「普通の学生っぽい、貫禄がないってことですよね。」
「あぁいえいえ!!そんなことは全然!!」
「いいですよ!そんな気を使わなくても…自分でも分かってるんで…。はぁ…。」
俺は肩を落として受付のお姉さんから隊員証を受け取り、先に進んだ。
すると「新人隊員の方はこちら。」という案内が見えたのでその案内に従い、突き当たった部屋に入った。
「うお…もうこんなに…。」
そこには新人隊員がざっと30人ほどいた。
「初めまして!俺は大正薫!19歳、今年から魔術軍に入ることになった!よろしく!」
入るや否や190cmはあろう大柄の男に握手を求められた。気さくで人気者ってイメージだ。俺は差し出された手を、答えるように握る。
「こちらこそよろしく。俺は花園泉だ。」
俺が名乗ると周りがどよめく。
そりゃそうか…。めんどくさいな…この名前。
「き、君が…あの軍神の息子…かい?」
「まぁ…一応。」
と言うと、大正は大きな声で笑った。
「ハハハハ!!!!にしては泉!!お父さんと違って、貫禄がないなぁ!!!」
背中をバシバシ叩きながら笑う。その笑いに不思議と嫌悪感を抱かなかった。
「うるせぇ!!気にしてんだよ!!!」
俺達のやり取りにその部屋が和んだ。
この同期の奴らだったら、上手くやっていけそうだ。俺はそう思った。
「泉ィ!!!!そんなんじゃいつまで経ってもお父さんを超えられんぞォ!!」
「うる…せぇ!!これでも喰らえ!!」
「ハッ!そんな大振り、当たるか…よッ!!」
「ぐへっ!!!」
あれから入隊して、大学の授業をこなしながら軍で訓練していた。今は体術訓練の最中である。長い月日が経ったと思っていたが、入隊してから半年しか経っていなかったことに驚きだ。
「くそー…やっぱ体術じゃ義彦には敵わねぇな…。」
倒れた俺に手を差し伸べる長尾義彦。背丈は俺と同じくらいなのだが、筋力があり身のこなしが上手い。体の動かし方を知っているって感じだ。
俺は差し伸ばされた手を握り立ち上がる。
「もっかいだ!義彦!!」
「望むところだ!!」
何回やっても、義彦には勝てなかった。
「た、ただいまー…。」
俺は家の鍵を開け、靴を脱ぎ部屋に上がる。
「お、おかえり。泉。」
「父さん!帰り早かったんだな。」
「あぁ、今日は会議が早く終わってな…。」
俺は手を洗い、仏壇の母さんに向かって手を合わせる。
母さんは3年前の第2次世界魔術大戦によって命を落とした。夫婦共に最高の兵士だったらしい。
俺は母さんの戦っている姿は見たことない。父さんと母さんと、一緒に戦えることを夢見ていたのだが、その夢は3年前潰えた。
俺が仏壇に手を合わせている背中を見て、父さんが低いトーンで俺に話しかけた。
「泉…。大事な話がある。」
俺はその重さを感じ取り、黙ってテーブルについている父さんの向かいに座った。
「なに…?父さん。」
「…第3次世界魔術大戦が起こるかもしれない。」
俺は思わず席を立った。何かを言おうとしたが、何も言葉が出てこなかった。座っていた椅子が激しい音をたてて倒れる。
「え…え…?でも…父さんが抑止力になってるんじゃ…。」
そう、この花園神也は、戦闘力の高さから他の国が恐れ、戦争になることがあまりなかった。
3年前の第2次世界魔術大戦を除いて、他の戦争は関与していなかった。しかもその第2次世界魔術大戦も、花園神也が戦場に赴けば、すぐに終結したらしい。それは噂でしか聞いたことないが…。
「俺も他の連中に言ったんだがな…。中華連合と新ソビエト連邦が手を組んでな、手をつけられん状態になっているとアメリカから連絡があってな…。」
中華連合とは科学歴でいう中国、新ソビエト連邦はロシアのことだ。長年いがみ合っていたその2国はアメリカという共通の敵を見つけたことにより、手を組んだらしい。魔術的にも強大な戦力を持つ2国が手を組んだことにより、世界情勢は大きく変わろうとしている。その事を懸念したアメリカは同盟を結んでいる日本、朝鮮(科学歴でいう北朝鮮と韓国、魔術歴にて統合した)、そしてブリテン(科学歴でいうイギリス)に連絡をしたという訳だ。
そのアメリカ同盟と中華連合・新ソビエト連邦がやり合うと、周りの国を巻き込んでの戦争となり、世界大戦へと発展するとの事だ。
「…日本はどうするの…?」
俺は本題へと切り込む。この話を俺にするという事はなにか俺に伝えることがあるということだ。
「…日本は出兵するんだが、その出兵条件が入隊して半年以上経つ者全員、新人含めらしい。」
俺は驚いた。新人兵士など、役に立たない。戦場をいくらか経験してからやっとまともな兵士となる。
俺達新兵は戦争や紛争がなかったため、戦場を経験していなかった。その理由はやはり第3次世界魔術大戦だろう。下手に戦争を起こせば世界魔術大戦へと発展しかねない。
「ってことは俺も…?」
「あぁ…。初出兵が世界魔術大戦になるとはな…。すまない。」
「………。」
俺は黙って、倒れた椅子を起こし座った。
「父さん、それはいつ頃になりそう?」
「あぁ…でもすぐ先の話ではない。半月以上は空くと思う。だから…」
俺はその時期だけ聞くと立ち上がり、父さんに頭を下げた。
「ど、どうした!?急に!?」
父さんは驚いていた。
「俺に、生き残る術を教えてください。俺に、守る力を教えてください。」
「…。」
「俺に…人の殺し方を教えてください。」
父さんは沈黙していたが、ゆっくり立ち上がり俺の頭をくしゃくしゃと雑に撫でた。
「時間がない。…厳しくいくが、死ぬなよ?」
そこから俺の地獄の訓練が始まった。
「イメージをしっかり持て!!!!そんな速度だと誰一人殺せないぞ!!!!」
「クソッ!!!!第1式攻撃系…」
「詠唱が遅い!!!!!!死にたいのか!!!」
俺は術式を展開する前に父さんに殴られて、魔術を発動することすら出来なかった。
「もう1回!!!!!!」
「当たり前だ!!!!」
イメージをしっかり持って…術式を小さくするイメージ…
「おおっ!?」
父さんは俺の手から放たれた〈スパーク〉を咄嗟に避けた。
「今…詠唱無しで発動したのか…?」
これが省略化無詠唱魔術の誕生であった。
理屈を説明すると父さんはすぐ使うことができた。しかも威力も衰えることのない、完成した状態をだ。流石の『軍神』恐れ入った。
「おし、次は高等魔術の練習だ。」
当時軍の訓練で魔術を特訓し、第5式まで演算することができていた。同期の連中も5式まで演算できる者がちらほらいるが、そう多くはない。なのでちょっと自慢げでいた。
「第5式ほどで甘えるな。…お前はもっと強くなれる。」
父さんの言葉を信じ、特訓に励んだ。
特訓と言っても、やることは地味だ。第6式魔術の基本構築を知り、実際に術式を構築・展開してみる。そして失敗する。失敗した箇所を見直し、勉強し直し、もう一度構築・展開してみる。それを成功するまで繰り返すのだ。
やることは地味だが、根気と体力が必要だ。なかなかに疲れる。
成功したなら、次はそれを体に染み込ませる作業も必要と考えると先が長い。
時間が足りない…。第3次世界魔術大戦までに戦えるぐらいの力を身につけないと…。
俺は大学の授業 (たまにサボったりした)の後、軍で訓練をし、その後父さんに特訓してもらう日々が続いた。
月日は流れ、第3次世界魔術大戦を迎える。
「いいか貴様ら!!!!この大戦は今後の世界情勢を大きく狂わせる!!!日本が日本でいられるかは、貴様らの手にかかっている!!!…いいか、これは命令だ。国の為に死ね!!!!!」
「ハッ!!!!!!」
俺達は上官の言葉に揃って敬礼をした。
「足を止めるな!!思考を止めるな!!止めた時は死んだ時と思え!!!」
「ハッ!!!!!!」
「第1部隊、出撃準備に取りかかれ!!」
その上官の合図とともに、第1部隊は解散し、飛行機に乗り込んだ。全員が乗り込むとハッチが閉まり、大きな音を立てて飛び立った。
俺がいる部隊は第3部隊。
いつ出撃するのだろうとソワソワしていた。
実力を発揮できるワクワク感もなく、国を守ろうという使命感もない。
今は見えない不安に震えるしかなかった。
死にたくない。
その一心だけだった。
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