形無千過去編

第27話 過去の序章。

「さて…どこから話そうかな。」

俺は理事長室にあった椅子に腰をかけ、出されたコーヒーを一口飲んだ。

ちなみに教室に残された生徒達は太刀鮫先生の元、帰され、今後は太刀鮫先生が授業をするらしい。

…いつ授業開始になるか知らないが。

「最初から話してやれ。…無論、現在進行形の極秘情報に関しては別だがな。」

「というと、あの軍の実験も…か?」

「……。しょうがないだろ、第0式を見てしまっているわけだ。」

姉さんこと、常闇センはチラッと美南を見る。その鋭い眼光に美南は一瞬固まる。

「す、すみません…。」

「いや、美南が謝ることはない。…お前の人生を変えてしまったことに関して、俺が謝るべきだ。」

というと、俺は立ち上がって3人に対し頭を下げる。

「すまない。お前ら。…この作戦に同行するにあたって、お前らの将来はもう決定してしまった。…すまない。」

「え…どういうこと…ですか?」

立花が俺に聞く。が、代わりに姉さんが答えた。

「千が使う0式魔術というのは国の極秘魔術でな…。知っている者は私を含めた『花園』、後は軍の特殊部隊だけだ。だが貴様らはこの魔術のことを知ってしまった、これから知ることになるということは、一生監視下に置かれるということだ。」

3人は黙っている。

「回りくどい言い方をしたな。…つまりはお前らは高校を卒業したら軍の特殊部隊に入ってもらう。それまでの3年間、形無千がみっちり訓練するから励むようにな。」

俺は姉さんが話している間もずっと頭を下げた。

「お、おい…。それってよぉ……。」

徹がゆっくり俺に近づいてくる。

怒っているのだろう、当然だ。

進路を自分で決めることができなくなり、そして軍の特殊部隊という命の危険が山ほどあるところに配属される。

そりゃ怒るだ…

「最高じゃねぇか!!!!!!!特殊部隊!?めっちゃカッコいいじゃねぇか!!なぁ!?美南!立花!?」

予想外の反応に俺と姉さんはあんぐりと口が開いていた。

「は、はぁ?お前これがどういうことか…」

「わかってるって先生!!いやー俺も卒業したら魔術軍希望だったからなぁ。その夢が叶ってしかも特殊部隊って!すげぇなぁ!!」

「まぁ…俺もそうだからいいけど…。」

「まぁ、私は覚悟をしていたわ。」

3人ともまんざらではない表情だ。

「ハァ…。流石の自殺志願者達だな…。だが言っておくぞ、貴様ら。」

ため息をついた後、姉さんは3人を睨みつけた。その目にはしゃいでいた徹さえも固まり、姿勢を正す。

「この第0式に関しての情報や、特殊部隊配属に決定した事等を外部に漏らした際には…死ぬだけじゃ済まないと思え。」

「は、はい。」

3人は怯えた表情で震えた返事をした。

この3人がめっちゃビビってるのを見ると笑えるな。

プフッ!

「おい千。笑ってるがお前、0式を私的な理由で使い過ぎだ。殺されたいのか?」

隠れて笑っていたら姉さんにバレていた。その視線を俺に飛ばさないでください。

「は、はい!!!勿論わかっていますとも!!!」

俺も姿勢を正し敬礼をした。

「フンッ…。本当にわかっているのか知らんがな…。」

心底嫌そうな顔を浮かべた。

「そんな顔をばっかしてるからまだ結婚相手見つかんねぇんだろ…。」

「貴様、なんか言ったか?」

俺がボソッと言った言葉を聞き逃さなかった。

なんか言ったか?というセリフは手を出す前に言うセリフであって、俺の腕を闇魔術でぶっ飛ばしてから言うセリフじゃない。

「痛ッッッッッッてぇ!!!!!!!」

「うるさい。早く治せ。」

俺は泣きながら膝をつき、〈過去の虚像〉で腕を戻した。その光景を見て3人が驚く。

「なんだ…今の…?」

「術式が見えなかった…?回復魔術ですか…?」

「こんな間近で見ると…改めて凄いと思うわ…。」

「これがこの形無千だけが使える第0式魔術の1つだ。」

「こんな説明の仕方しなくてもいいだろ!!!」

俺はまだうるうるしている瞳で姉さんを見る。

フンっと顔をそっぽに向けてしまった。

「ハァ…。まぁとりあえず話そう…。長くなるぞ、座って茶でも飲みながら聞いてくれ。」

俺は3人をソファに誘導し座らせた。

そして一息置いてから話し始める。


俺の過去の話を。







魔術歴3792年。

形無千19歳。日本魔術軍大学1年 魔術学部 実践学科。


俺は日本で1番実践に近い授業を行なっている大学へ入学した。

軍には高校卒業したら入隊しようと考えていたが、父の反対もあり大学へと進学した。

父曰く、「軍に入隊することは、大学に通いながらでもできる。普通の人間なら無理だが、お前にはそれができる才能がある。だから大丈夫、大学へ行っておいで。」

と言うわけだ。その言葉通り、特別な許可が降りて、俺は大学に通いながら軍の入隊許可も貰ったのだ。

「授業はちゃんと出るけど、魔術の訓練も怠らないようにしなきゃな!!」

俺は履修登録を済まし、軍服に着替え、帰りの足でそのまま魔術軍本部へ向かった。





「うわっ…でっけぇー…。」

俺は本部は初めて見た。高さ100mあるのではないかというぐらい高く、敷地も広い。外で訓練ができるように、山が4つほど丸々軍の敷地に入っている。勿論魔術演習場も完備されている。

「そうか、初めてか見るのは。」

「あ、父さん。」

後ろから声をかけたのは俺の父親だった。普段の生活では見られなかった、軍服を着ている。ちょうど出勤の時間と被ったらしい。胸には多くのバッジが付いていた。

「今日からお前も、ここの一員だぞ。気を引き締めていけよ!」

「痛って!急に叩くなよなぁ…もう。」

背中を叩き笑いながら入り口に入っていく父さんを追いかけるようにして、入っていった。

追いかける父の背中は大きくて、偉大に見えた。

「こんにちは、所属部隊はどちらですか?」

入り口に入ると受付の女性が話しかけてきた。俺は困っていると、周りの人達が隊員証を受付の人に見せて入っていくのが見えた。

俺が見せないから話しかけてきたんだな…。

「すみません…俺…あぁいや、自分、証明証みたいのを持っていなくて…。」

「えっと…無くされたのですか?」

「あぁ…いえそういうことではなく…。」

俺はどう説明しようか迷っていると、

「あ!新入隊員の方ですね!」

「あぁ!そうですそうです!」

手を合わせ笑顔で対応してくれた。

「やけに軍服が似合っていたので、既属隊員かと思いましたよ!」

「え、えへへ…。そうですかね?」

俺は頭をかきながら照れた素振りを見せた。

「では、新人隊員さん、お名前をどうぞ!」

お姉さんは素敵な笑顔で言う。

それに答えるように俺は綺麗な敬礼をし、大きな声で名前を言った。



「はい!今年から魔術軍に所属致します、『花園泉』と申します!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る