第22話 教えてくれたもの。

するどうするどうするッ!!!考えろッ!!!!)

輝彦は音羽が放つ魔術をかわしながら思考を続ける。

〈ヒュドラの毒袋〉を常に視界に入れるように立ち回り、自分の攻撃が当たらなように気をつける。音羽はわざと自分の魔術を当てずに、この状況を楽しんでいる。

「私が弾いてもつまらないですからねぇ…。あなたのミスで、あなた自身の手でここにいる全員を死なせたら…あなたはどんな表情をするのでしょう♡」

ニンマリと笑いながらも、音羽は攻撃の手を休めない。輝彦の唯一の救いは、〈ヒュドラの毒袋〉を発動している右手は使えないこと、〈ヒュドラの毒袋〉は魔術を維持することが難しく、その場から動けないことである。そして音羽の逆の手からは低魔術演算の毒魔術しか発動できないことだ。左右両方から違う魔術を扱うことは困難で使える者は少ない。さらに言うと、左右違う属性の魔術を使用することはもっと難しいのである。魔術系統が同じであればイメージしやすいのだが、異なった場合常人では脳にイメージすることすらできないのである。音羽や輝彦だけでなく、『花園』のメンバーでさえできる芸当ではない。

「うるさいな…。あんたが魔術を止めれば万事解決なんだけどねッ!」

輝彦は第3式攻撃系煜魔術〈天の鎖〉を発動する。展開された術式から神々しく光る鎖が数本、音羽の〈ヒュドラの毒袋〉を発動している右手に襲いかかる。

「ダメですよ。そんな裏技を使っちゃ…。ちゃんと対処してください。」

音羽の付与系毒魔術で禍々しい紫色した腕が、〈天の鎖〉を纏めて掴む。そして強く握ると神々しく光っていた鎖が、握った場所から紫色に変色し砕けた。

(全て読まれている…か。やっぱこの人只者じゃないね。戦い慣れすぎている。)

相手が狙う場所、嫌がる攻撃、動けないからこその魔術の使い方。どれも戦闘に特化していて、今まで教師をやっていたとは思えないレベルであった。

「本当に教師…?」

思わず輝彦は心の声が溢れた。

「あなたこそ本当に1年生ですか?」

音羽はニコニコ顔を崩さず問い返す。





「では…音羽先生が裏切り者ということか…?」

「はい…。これは推察とか仮説とかの話じゃないです。断定です。」

俺は第5式演習場を見つめながら言う。

太刀鮫先生は何が何だかわからないという顔をしていた。

「と、とりあえず私はC組とD組の様子を見に行きます!」

と言うと急いで生徒達の方へ向かった。

「…と、こちらも休ませてくれはなさそうだな。」

雀須先生が振り返るとアスタロト集団がわんさかいた。

「クソッ…。今すぐにでもあんなかに入らねぇといけないと言うのによッ!!!」

俺は身体強化魔術を重ね、戦闘態勢をとった。

アスタロト集団は一斉に攻撃系魔術を飛ばした。俺達の視界いっぱいにあらゆる属性の魔術が飛んでくる。

「形無、防御は任せろッ!!!」

「わかりました!!!」

その言葉を合図に俺はアスタロトの方へ突っ込む。俺の方へ敵の魔術が襲いかかるが、雀須先生の防御系魔術が防いでくれる。俺に防御系魔術を使っているということは、雀須先生自身防衛が薄いのではと思ったが、もう片方の手で自身に防御系魔術を使っていたので心配する必要はなかった。

「行くぞ!!!」

俺は右手で第2式攻撃系雷魔術〈雷砲〉を放った。速い魔術で大抵の敵は捕まる。瀬戸内が新人戦で、徹相手に使ったような威力ではない。高術式演算の身体強化魔術を使っていないと即死レベルの威力だ。

全体の5分の1ほどを〈雷砲〉で削った後は左手で再び〈雷砲〉を放つ。だが敵も読んでいたらしく誰一人当たることはなかった。

「チッ…。一旦引きます!!」

俺は高く跳躍し、雀須先生の元へ戻った。

「なかなかの数だ…。これをさばいた後に音羽のところへ向かうのか…。」

おそらく雀須先生は自分達の魔力のことを心配しているのだろう。俺の回復魔術(だと思っている)をアテにしていないあたり、あの約束は守ってくれている。

「まぁそうですね…。後、敵の親玉も出てきてないんで、そいつも倒さなきゃならんですよ。」

部隊編成をしていたということは総指揮官がいるはずだ。そいつを確認していない今、無闇矢鱈に魔力を消費させるのは得策ではない。

「…骨が折れるな。」

「全くですよ…。」

俺達は再び、アスタロトの集団の方を向く。

無闇矢鱈に消費させなければいいのだろう。

何発も魔術を連発して、倒せず、また連発してということを繰り返さなければいいのだろう。

1発で決めればよいのだろう?

だが雀須先生が隣にいる以上0式を多用することはできない。あの魔術は呪いだ。見たものもあの力の虜になる。使っている俺自身も、その虜にハマっていた時期があったもんだ。

「形無。私が6式魔術を後方で唱える。その間時間稼ぎしてくれないか?」

「あ、いいですけど…。魔力大丈夫っすか?」

「私の魔力量をナメるな。6式を何発打ったところで、支障はない。」

と見栄を張っているが多分3発ぐらいなら打てるだろうと思い、後方をカバーする形で陣形をとった。

相手が詠唱に気づき、打たせまいと一斉に3から4式攻撃魔術を仕掛けてくる。

さっきまでは1か2式の魔術を絶え間なく打ってきたが、この量のこの魔術だとなかなか捌くのが難しい。

やるしかねぇか…。0式以外で対応できるのはこれしかねぇ。


合成魔術だ。


「第4式攻撃系雷魔術〈迅雷の閃光〉、に加えてェ!!」

俺は左手に術式を構築・展開した後発動はせずに止めた。

「第4式攻撃系風魔術〈暴風の裂傷〉!!!」

右手に術式を構築・展開した。そして発動は止める。

「な、なにィ!?左右で違う属性魔術だとッ!?」

俺の術式が視認できた敵が驚く。それはそうだ。魔術は基本片手でしか発動できない。両手で別々の魔術を発動できたとしても、同じ属性でなければ難しい。

だが俺は別々の属性の魔術を両手で扱うことができる。そして。

「驚くのはまだ早ぇぞ?形無流合成魔術ッ!!!」

俺は両手の手首を合わせ、術式を重ねた。すると紫色の術式と黄緑色の術式が混ざり合い、光り輝いた。

「〈雷鳴の竜巻〉!!!!!!!!!」

両手から放たれるのは、雷を帯びたハリケーンだ。ハリケーンによる風で、相手が放った魔術は〈雷鳴の竜巻〉に吸い寄せられる。ハリケーン内に入った敵の魔術は中の雷によって相殺し消滅していった。

〈雷鳴の竜巻〉が消える頃には相手の魔術も全て消滅していた。

「……汝の理に至らん!!!行けるぞ形無ッッ!!」

「了解です!!!」

俺は詠唱が終わった合図と共に雀須先生の後ろへ隠れる。

「第6式攻撃系土魔術〈天変地異〉!!!!!」

構築・展開された術式を地面に叩きつけると、雀須先生の手から術式が消える。すると相手の足元に大きな術式が現れる。敵をすっぽり覆ってしまうくらいの術式だ。そして大きな地響きと共に亀裂が入り、その亀裂を中心として両端の地面が浮かび折りたたまれた。

敵は魔術で必死に抵抗したが、両方から迫り来る地面になす術もなく挟まれた。完全に閉まると、高く折り畳まった地面は大きな音を立てて崩れた。

「ひょー!すげぇな第6式魔術!」

「いや…形無、貴様のさっきの魔術の方がよっぽどすごいぞ…?なんだ合成魔術って。」

「あれです、両手から別々の属性魔術を発動させて無理やりくっつけただけですよ。俺のオリジナル魔術です。」

「本当に貴様はなんなんだ…?」

俺はアハハと言って誤魔化す。


合成魔術も、重複魔術も、省略化無詠唱魔術も…言うなれば0式魔術も。

全てあの人から教えてもらった。

俺に戦う術を教えてくれた。

俺に人の殺し方を教えてくれた。

俺に大切な人の守り方を教えてくれた。


なぁ、そうだろ。父さん。

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