第21話 煜翔寺対音羽
音羽先生が第5演習場に入り、中から鍵を閉めた矢先、アスタロトの集団が第5演習場に集まってきた。
「この数2人で大丈夫ですか!?雀須先生!!!」
「私を誰だと思っている。この数ではウォームアップにもならんわッ!!!」
入り口を背に、2人で迫り来る敵を殺していく。
「第5式攻撃系泥魔術〈液状陸〉!!!!」
雀須先生が手を地面に置き魔術を発動すると、アスタロト集団の足元が泥濘み、やがて沈んでいった。アスタロト集団は足掻くが、どんどん沈んでいきやがて下半身全てが埋まった。
「今だッ!!!形無ッ!!!」
「了解です!!喰らいやがれ!!!!!」
俺は地面に第4式攻撃系雷魔術〈迅雷の閃光〉を発動した。黒光りした電撃が地面を伝い、液状化した地面へと流れる。
「ギャァァァァァァァ!!!!!!!」
身動きの取れない敵達はまともに俺の魔術を喰らい、地面に埋まったまま絶命した。
「はぁ…一息ついたか…?」
俺は流れる汗を拭い呼吸を整えた。
「いやまだだ形無、来るぞ!!」
上空から付与魔術で武装したアスタロト集団が襲ってきた。
「なんで急に敵の数が増えたんだよッ!!クソがッ!!」
俺は身体強化魔術を重ね、上空へ跳んだ。そして1人の足を掴み下に投げ飛ばす。他の連中が攻撃を仕掛けてくるが、それを避け反撃する。全て捌ききれると思ったが背後の敵の攻撃に気づかなかった。
「あ、やべっ。」
「ギャフッ!!」
後ろを振り返り敵の魔術を喰らうかと思ったが、雀須先生が下からフォローしてくれたようだ。
「ったく、手のかかる後輩だ…。」
「すいませんねぇ…ありがとうございます。」
俺は着地した後、頭をわざとらしく掻きながら謝った。
「だがなんだこいつら…。急にこの第5演習場を攻めてきて…。」
同じ疑問を雀須先生も持っていたようだ。今まではバラバラにいたというイメージがあったのだが、今になって統率の取れたようにまとまって来る。
「はぁはぁ…大丈夫ですか?おふたりとも!」
校舎側とは逆の方面から1人の男が走ってきた。俺は構えたが、雀須先生が手で静止させた。
「大丈夫だ、あの人はD組の担任、太刀鮫先生だ。」
と聞くと俺は警戒を解いた。
「こちらの生徒はほぼ、避難終わりました!」
「はぁ……え?避難と言いますと…?」
俺はその言葉をそのまま流そうとしたが、何かが引っかかった。
「何を仰いますか、生徒の避難ですよ!…あれ、その連絡まわってませんか?」
俺達2人はそのような連絡をもらっていない。しかも避難が完了するということは、生徒への被害があまり出ていないということだ。どういうことだ?E組とほぼリタイアしたA組の生徒は今第5演習場に避難しているとして、C組は不明、B組も不明。どういうことだ…?
「そのような連絡はもらっていないが…。だがD組の生徒達が無事でよかった。」
「はい…やはり生徒達は私の顔を見るなり泣きついてきましたよ…。正直、私も一緒になって泣きたいぐらいでしたけどね…。その後にC組の生徒をできる限り避難させたところです!…E組とA組は見る限り、終わってそうですね。」
よかったよかったと安心する太刀鮫先生。
待て、なぜB組だけ避難されていないんだ?C組みの避難を任せたのは、那珂先生が治療室にいたから、ここにいる生徒達を避難させるために、太刀鮫先生に頼んだのだろう。だったら音羽先生は何をしていたんだ?
今考えると何かおかしい。
1人で戦っていて魔力が尽きた?連絡がきているはずの音羽先生が、なぜ生徒の避難を優先させない。
第2試合のB組対D組の試合の後、音羽先生はどこへ行っていた?あの人がいなくなってから少ししてこの騒動が起きた。
「雀須先生…これなかなかまずい状況だと思います…。」
「どういう事だ形無…?」
色々と話の噛み合わない雀須先生も困惑していた。
「あまりにもタイミングが良すぎるんですよ、『花園』がいるタイミング・E組対A組の試合最中のタイミング。…俺は思ったんです、内通者がこの校内にいると。」
「なん…だと…?テロリストの手先がいるとでも言うのか…ッ!?」
「はい………。その人多分俺わかっちゃいました…。」
と言うと、俺は第5演習場の入り口を指差した。
「そいつは言ったんですよ。『見てくださいこの血を…』って。さも自分が怪我しているかのように。」
「ま、まさか…。」
「自分から流れる血が服についた時ってのは、常に湿っていて鮮血の色なんですよ…。だがアイツの服についた血は乾き黒く変色していた…ッ!!!あれは、返り血だッッ!!!!!!」
俺達は内通者を、ノコノコ葵千佳がいる場所に入れ、鍵を閉めてしまったのだ。
(さてさて…葵千佳以外を殺したいのですが…どれが葵千佳かわかりませんねぇ…。ゴミ連中は見分けがつかなくて困ります。)
音羽は中から鍵を閉め、避難した生徒と那珂がいるところへ歩いていった。
(とりあえずブラストさんに、第5演習場に兵力を集めるよう連絡しときますか…。)
「音羽先生!よかった、無事だったのね。」
那珂が音羽に駆け寄る。音羽は手負いのフリをして答える。
「はい…。外にいる形無先生と雀須先生に助けられて…。少し横になってもよろしいですか?」
「大変だったのね…。休んでちょうだい。」
そういうと那珂は他の生徒の手当てへ向かった。音羽はその場で寝そべり目を閉じた。
(どう殺しましょうかね…。まずは那珂先生からでしょう。戦うことになったらあの人を中心に、動ける生徒全員で攻撃してくるでしょう。それは流石の私でも骨が折れますからねぇ…。ですが、先生が先に死ねば生徒達はパニックに陥り…それはそれは愉快な光景が見られそうです。)
音羽は考え、攻撃するタイミングを見計らった。できる限りの手当てを済ませた那珂は、疲れたのか伸びをしている。音羽には完全に背を向けている。
(今、ですかね。)
音羽は寝そべりながら、手のひらで隠せるほど省略化した術式を構築・展開し、周りから魔術を発動することをバレないようにした。
そして無詠唱で発動する。
(死んでください。先生。)
速度の速い魔術が那珂の背中をめがけ、一直線に向かう。
だが那珂の背中を貫通することはなかった。
当たる前に防御系魔術で防がれていたからだ。
「その服の血ってさー…どうみても返り血なんだよねー。怪しいと思ってたよ。音羽先生。それで負傷しているフリまでして…でもね。ニコニコ笑ってる目の奥のドス黒い殺気、隠しきれてねぇぞゲス野郎。」
いつもの感じで喋っていたが、途中で人が変わったような口調になった。そこに笑顔はない。いつになく真剣な表情をした煜翔寺輝彦がいた。
そう、音羽の攻撃を防いだのは輝彦である。扉の向こうで喋っている時から、輝彦は音羽に不信感を抱いていた。
「…いつから気づいていました?輝彦君。」
「あんたが扉を叩いて入れてくれって言った時からですよ。普通鍵が閉まってるとわかったら先生の名前を言えば入れてくれると思うんだけどな、あんたの場合、助けてくれ、からだもんな。わざとらしいったら。誰であろうと開けないっていうこっちの意図がわかってないと、第一声にそんなことはでないよね。そんなの一般の教師じゃわかんないよ。…そして」
輝彦は両手に術式を構築・展開し一息ついてから続けた。
「その目は人を殺し慣れてる目だよ。くすんで汚れて、濁ってる目だ。」
輝彦は両手に展開した術式を音羽に向けて魔術を発動する。第4式攻撃系煜魔術〈正義の十字架〉が2本、音羽めがけて伸びる。
「行けませんねぇ…血の気が多くてっ♪」
即座に避け後方へ大きく跳び距離を開ける。
「那珂先生、この生徒達を邪魔にならない端の方へ!!!そこで防御系魔術で安全を確保してください!!」
「え、えぇ!わかったわ!」
那珂が他の生徒達を連れ、広い演習場の端の方へと向かう。
「そう簡単にいくと思いますか?輝彦君ッ!!」
音羽は省略化無詠唱雷魔術を那珂達の方へ放つ。何発も何発も放つ。
それも全て輝彦の左手によって発動された防御系煜魔術によって防がれた。
「あんたの敵は僕だろ?余所見してんじゃ…ねぇッ!!」
輝彦は残っている右手で攻撃系煜魔術を放つ。だが音羽はニコニコ顔のまま、防御系魔術も使わずのらりくらりと避ける。
「んー。あなたのその魔術厄介ですね。速いし連発できるし、当たれば即死レベルのダメージですか。」
避けながら話す音羽に輝彦は更に魔術の連発速度を上げる。
「まだまだ余裕だよね?音羽先生。僕を楽しませてよ!!」
輝彦はまた連発速度を上げ音羽を殺しにかかる。流石に魔術なしで凌ぐには限度があったのか、音羽も防御系水魔術を発動し輝彦の攻撃を防ぐ。
「うーん…。その過剰たる自信も、正すのが教師の務めですよね。」
音羽はため息をつき、右手で防御系水魔術で輝彦の攻撃を防ぎながら、左手に術式を構築・展開した。
「第6式攻撃系炎魔術…〈炎龍の咆哮〉。」
突き出された左手には6つの円で構築された大きな術式が展開されていて、そこから龍の顔を象った炎が現れ輝彦へ向かっていく。第6式なのに事前詠唱(定型文みたいなやつだ。)を必要としないのは、無詠唱の応用である。音羽が発動した魔術の大きさは、この演習場を埋め尽くすほどの大きさだ。下手に魔術をぶつけて相殺させても、他の生徒達に被害が出るかもしれない。
「やっかいな魔術を使うね…ほんとに…。」
「何を言ってるんですか、輝彦君。お得意の煜魔術で消し飛ばせばいいじゃないですか。」
「このデカさのものを消し飛ばしたらどうなるかわかってるのに言うんだから…タチ悪いよね。」
輝彦は苦笑した。どうするべきか悩んだ。
普段なら他の生徒なんて気にせず相殺させるのだが、ここに来る前に形無千に託されていたのだ。
(形無先生に言われたら、そりゃ守るよ。僕の命まではいかないけど、僕の手足に変えてもね。)
「第6式防御系煜魔術〈ゴスウィット〉!!」
構える輝彦の前に大きな術式が展開し、そこから光の人型が現れ炎の龍を両手で受け止める。光の人型の動きと輝彦の動きは連動しているようだ。輝彦が両手で受け止める形をしている。
「…ッ!クソッ!!!」
輝彦が押され気味になっている。それもそのはず、炎魔術より煜魔術の方が魔術の威力は高い。闇魔術と煜魔術は、誰もが本来の威力で使えないが、本来の威力で使用することができれば基本魔術属性の中で2つが飛び抜けている。だが音羽が発動した〈炎龍の咆哮〉は炎魔術の中でもトップクラスに威力が高い魔術だ。デメリットといえば威力が高く広範囲な分、術者も巻き添えを喰らうことがあるということ。それを除けば第7式にも劣らない性能をしている。
「まだまだ余裕ですよね?輝彦君。私を楽しませてくださいよっ♪」
「ほんっと性格悪ぃ…ッ!」
炎の龍を光の人型が胸中にしまい込み、両腕で抱きしめる形となり、そのまま潰して消滅させようとするが、消滅するときに炎の龍は爆発した。その爆発をも抑え込もうと輝彦だが全てを抑え込むことはできず、爆発に巻き込まれる。
「グハァッ……ッ!!!!!」
「すごいですね、膝をつかないとは!」
血が流れているが、膝はつかず自らの足で立っている輝彦に対し、音羽は賞賛の拍手を送った。
「プッッ…。まだまだイケるよ音羽先生。次は何をする?」
口に混じっていた血を吐き出し、構える輝彦。だが部が悪すぎる。生徒達を庇いながら戦闘を行って勝てるような相手じゃないとわかっているが、強気な姿勢は変えない。生徒や那珂に心配や動揺を与えないためだった。要は強がりだ。
「じゃあー次はこれで行きましょうかね?第5式攻撃系毒魔術〈ヒュドラの毒袋〉!」
濃い紫色の術式が構築・展開し、そこから禍々しい色をした球体がゆっくりと現れた。大きさにして直径約20mほどだ。
「はー…毒魔術も使えるんだね…。」
輝彦は第5式毒魔術を初めて見た。基本魔術属性にはない、派生属性の毒魔術。しかも〈ヒュドラの毒袋〉だ。輝彦自身話だけ聞いたことがある。あの大きな球体の中に猛毒の液体が入っており、攻撃して割ろうものなら、この演習場が猛毒の海と化す。しかし割らずに放っておけば、常に輝彦を追尾してゆっくりと追いかけてくる。あれは割れるまで消えない魔術だ。
「さぁどうする輝彦君?」
「ほんっとに楽しませてくれるね音羽先生…ッ!!」
輝彦は精一杯の強がりをした。
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