第17話 使えない魔術。
「手当たり次第殺せ。だが…そうだな。一応E組とD組くらいまでは生かしてやるか。E組とD組の生徒達は勧誘しろ。断れば殺して構わない。行け。」
アスタロトの先頭の者が合図すると後ろに控えたテロリスト集団が一斉に校舎へ向かった。
「さて…。俺もアイツのとこに向かうか。」
先頭の男はゆっくりと歩き出す。
「お前ら!ちゃんと俺の後ろをついてこいよ!誰か1人でもいなくなったら許さねぇからな!」
試合をしていた生徒達を誘導しながら進む。幸い今日は新人戦だったので上級生はいない。観戦しに来ている者は別だが…。後ろをついてくる生徒達の足取りが重い。…輝彦以外。
「形無先生!この後どーするの?」
「相変わらず緊張感ねぇな輝彦…。とりあえず第5演習場に向かう。あそこの中なら外からの攻撃を防げるからな…。まぁ無事にたどり着ければの話だが…ッ!?」
周囲を警戒しながら歩いていると、上空から攻撃を受けた。速い攻撃だったが輝彦が発動した防御系魔術によって防がれた。
「危ないよセンセっ♪」
「ありがとよ…って誰だテメェら。」
俺達の目の前には黒いローブを着た集団が立っていた。先頭に立つ者以外後ろで術式を展開している。今にも魔術で攻撃してきそうだった。
「我々は『アスタロト』。魔術による差別撤廃を求める者だ。…貴様らはE組とやらか?」
「…あぁそうだよ。そのアスタロトが俺達になんか用か?」
俺も臨戦態勢をとる。生徒達を守りながら戦うのは厳しいが、後ろには輝彦もいる。この人数なら捌けるか…?
「今すぐ私達と一緒に来い。選択権はない。来ないのならここで殺す。」
生徒達は怯えて声も出せない。それもそのはずだ。今までやってきた試合とは違う。殺し合いだ。死の恐怖というものは簡単に拭えるものではない。
「輝彦…。生徒達を頼む…。演習場に連れてってくれ。連れて行ったら施錠して誰も入れるな。俺と名乗る人間もだ。できるか?」
「オーケー。任せてよ。誰も死なせないさ。」
「頼む…。俺の魔術を合図に全員連れて茂みから行け。俺がコイツらを引きつける。」
と言うと返事もなく輝彦はE組の生徒達に伝えた。
ほぼ全員頷き確認したようだ。
「え…でも先生は…?」
美南が心配そうに尋ねる。
「美南。俺だぞ?心配する相手を間違ってる。まだまだお前達には教えることがたくさんあるからな!こんなとこでは死ねねぇよ。」
「でも!!!」
「輝彦!!!…後は頼んだ。」
俺は右手を地面におき、第4式防御系魔術〈土鎌倉〉を敵に使った。〈土鎌倉〉は地面から土で敵を覆い、ドーム状となる。普段は自分達に使い防御として使うのだが、敵に使うことによって視界を遮るのと、行動を制限することに成功した。
そして左手でまた〈土鎌倉〉を発動し、ドーム状の土の上にまた覆い被さった。
「今だ!!!行け!!!!」
「ほら行くよ!皆!!」
輝彦が先導し他の生徒達がついていく。
よし、これでアイツらは安全だろう…。後は…。
二重となった〈土鎌倉〉が内側から穴が開けられ、アスタロトと名乗る集団がぞろぞろと出てきた。
「チッ。ガキ共を逃したか…。まぁいい、死ね。」
出てくるや否やアスタロトと名乗る集団は省略化無詠唱魔術を全員で放ち俺を殺しにきた。
「軍用魔術…テメェら一体何者だ…?」
俺は全てかわし先頭の男に聞いた。
「先程言っただろう、アスタロトだ。アスタロト2番隊隊長ナーガとでも名乗っておこうか。」
「ナーガ…ねぇ。そのナーガさんがE組の生徒達をアスタロトに勧誘しに来たと。」
「本来の目的はそれではないがな。…貴様が知る必要はない。ここで死ぬからな。」
ナーガと名乗る男は右手を突き出し省略化無詠唱で第4式攻撃系風魔術〈暴風の裂傷〉を繰り出した。
4式を省略化無詠唱だと…?そんな手練れ、ただのテロリスト集団なわけがない…。
俺は第3式防御系水魔術〈海龍の鱗〉で防ぎ、少し距離をとった。
「テロリスト集団にしては修羅場潜ってんじゃねぇか。軍用魔術でしかも4式って…。俺でもできねぇぞ。」
「ただの教師風情ができるはずもない。自惚れるな。」
「はいはいそうですか!」
俺は身体強化魔術を重ね、一気に距離を詰め後ろのアスタロト集団の1人を殴り飛ばした。第4式身体強化魔術を重複させたのだ。殴り飛んだのは敵の首から上だけだ。残った体は未だに立っており、首からも血を吹き出していない。まだ体が死んだことを察知できていないのだ。
「なッ!?…重複魔術だと…ッ!?」
「なんだよ。ただの教師だろ?そんな驚くことか?」
「重複魔術を使える者は日本で1人しかいないはず…。ま、まさか貴様…形無千か?」
アスタロトの集団は俺を囲むようにして距離をとった。
「たかが教師風情に、そう構えるなよ。テロリストさん。」
「形無先生には第5演習場に行けって言われているから、そこに向かうよー!まぁ、気軽にピクニックだと思って!」
輝彦は先導しながらスキップしている。気分はルンルンだ。
「なんで…そんなに気楽にいれるのよ…。リタイアした人達もいるのよ!?その人達のところにあのアスタロトとかいう集団が行ったら…。千佳…。」
今ここにいない千佳のことを心配していた。
千佳だけではない。徹や他のE組の人達もいる。先生達が向かっていると思うが、気絶して意識がない千佳や徹のことを考えると心配になる。
「大丈夫だよ。『花園』の人達もいるし!先生達もいるし!テロリスト集団に負けるような弱い人なんていないでしょ!」
屈託のない笑顔を浮かべる輝彦。その笑顔に美南の不安は少し取り除かれた。
「その『花園』の奴らがいない、としたらどうする?」
輝彦達の前には黒いローブを着た集団が立ちはだかった。手にはなにかを持っていた。
そのなにかを輝彦達に投げつけてきた。
「……随分と趣味の悪いことをしてくれるね。」
「え……?これって……キャァァァァァァァ!!!」
美南は投げつけてきたなにかを見て怯え腰を抜かした。錯乱状態に陥っている。
その悲鳴は伝播していった。そのなにかを目にする生徒達は皆叫び、泣き、卒倒する者もいた。
「人の生首を見るのは初めてかな?生徒諸君。」
投げつけてきた男はゲスな笑みを浮かべていた。
「これぐらいで僕が怯むと思った?…胸糞は心底悪いけどどうってことない…。」
輝彦は一歩前に出て後ろの生徒達を守りやすい位置についた。敵は本気で自分達を殺しにくる。全力で守らなくてはいけないと輝彦は思った。
形無千に、託されたのだから。
「カッコつけてんじゃねぇぞクソガキが。そうだ、お前を一番先に殺してやるよ。」
ゲラゲラと笑い、複数人いた黒いローブの集団は一斉に術式を構築・展開した。
「死ね。」
省略化された無詠唱の魔術が輝彦に向かってくる。
「第5式防御系煜魔術〈天使の羽衣〉。」
輝彦は敵の魔術に臆することなく、冷静に防御系魔術を使用した。
術式が頭上に構築・展開され、そのまま下に降りていき体をすり抜けていった。すると輝彦の体は柔らかい光に覆われた。
敵の魔術が輝彦の体に当たったと思われたが、魔術が体を滑りあらぬ方向へと曲がった。輝彦は傷一つついていない。
「な、なんだその魔術は!?クソッ!!やれ!!やれぇ!!!」
何発も何発も魔術を輝彦に向かって打つが、全て体の表面を滑りどこかへ曲がる。
輝彦は余裕の表情でゆっくりと近づいていく。
「煜魔術を見るのは初めてかな?テロリスト諸君。どうも、煜翔寺輝彦です。以後お見知り置きを。」
と言うと右手を空に向け詠唱した。
「第5式攻撃系煜魔術…〈神の一撃〉!!!」
詠唱を始めるとアスタロト集団の足元に大きな術式が構築・展開され、輝彦が思い切り右手を振り下ろすと、空から術式をめがけ光の光線が落ちてきた。あまりの速さに、先頭に立っていた男が何かを喋ろうとして口を開き、発声するよりも先に消し炭になっていた。彼らがいた場所には死骸すら残っていなかった。
「さ!行くよ!皆!」
転がっている生首を気にもせず、そして今まさに数名を殺したとは思えないほど明るく声をかける輝彦に、E組の生徒達は恐怖を覚えた。
「おらおらどうしたアスタロトさんよぉ!!!」
俺は1人1人確実に仕留めていった。1人殺しては茂みや人の影に隠れ、また1人殺す。段々数は減っているが、まだ8名ほど残っている。なかなかに大部隊だったようだ。
「チッ…。仕方ない、アレを使うか。形無千、お前の実力は嫌という程知っている。重複魔術による身体強化、そして高い経験値からくる実践能力…。だが、魔術が使えなくなった貴様には価値はあるのかな?見よッ!」
ナーガは黒いローブを投げ捨て体を晒した。
「なんだ…そりゃ?」
ローブで隠れていた左手には科学歴で戦争に使用されていた銃?とやらに似ている物を持っていた。
「今にわかる。」
ナーガは銃口を俺に向け引き金を引いた。鉛玉は飛んでこないが、代わりに魔力の塊のようなものを飛ばしてきた。速いことには速いが、対処できないほどではない。俺は省略化無詠唱防御系魔術でその魔力の塊を防いだ。
が、その魔力の塊が俺の魔術に触れた瞬間、体に電撃が走った。
「!?!?!?……ッッ!?…な、何をした……ッ!?」
痛みはない。怪我もしていない。魔力が減っていることもない。…なんだ今の感覚は…。
「これで貴様は、取るに足らん男となった。」
嘲笑しながら俺に近づいてくるナーガに対し俺は魔術を使おうとした。右手をナーガに向け、頭でイメージし、術式を構築・展開し……。
「構築…できない……?」
俺の魔術が発動することはなかった。というか、術式の構築すらできなくなっていた。
「ハーハッハッハ!!!!!過去の英雄がこのザマだ!!!見ろ!!!!」
ナーガは魔術も使わず、俺の顔面を蹴り上げた。
「グハァッ!!」
勢いよく転がり、木にぶつかって俺の体は静止した。
「さて、魔術を使わずしてどう切り抜ける?見せてくれ、英雄さん。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます