第14話 こんな私にできること。

「さぁ、反撃するわよ。」

「うん!!!」

ニヤリと笑う美南を見て、千佳は涙を拭い立ち上がった。

「あら、まだ落ちこぼれがいたの。ゴミが1人から2人になったところで変わらないのに気づかない?」

「そうね。私達をゴミと錯覚している出来損ないのあなたの目ん玉も2つあるものね。2つあったところで変わらないわ。」

美南は鼻で笑い挑発する。凛は右手を振り払い付与していた氷魔術を解除した。そして笑う。

「ハハハハハハハハハハッ!!」

「なに?そんなに面白いことでもあった?」

「殺す。」

笑うのをやめ鋭い眼光を2人に飛ばす。

若干怯むが、負けじと2人も睨み返す。

刹那の静寂。

それが凛の魔術で破られる。

「第4式攻撃系風魔術!!!!!」

「くるわよ千佳!!!」

「うん!!」

詠唱し術式が構築・展開するのを確認すると千佳は省略化無詠唱で第2式防御系炎魔術〈ファイヤーウォール〉を発動した。〈ファイヤーウォール〉を発動しながら凛へ向かっていく。その後ろを美南が追いかける。

「ハッ!!そんな薄っぺらい防御魔術で防げるわけないでしょ!!〈暴風の裂傷〉!!!」

凛の魔術が発動する。2人をめがけ、地面を削り取り進む風魔術が〈ファイヤーウォール〉へとぶつかる。

「さぁどこまで耐えるか見せてもらおうかしら!」

防御系魔術というのは、魔力を注ぎ込み続けることで持続的に発動する。攻撃を受けた場合、その攻撃に対抗しうるだけの魔力がないと消えてしまう。第4式や第5式の防御系魔術なら元々の防御力が高いため、ある程度の攻撃なら魔力を余計に注がなくても防いでしまうが、第1式・第2式は違う。なので第1、第2式防御系魔術は基本同じ術式魔術を防ぐために使用するのだが。

今回は用途が違う。

「な!?消えた…?」

凛は手応えがないことに気づく。

目の前にいたはずの2人が居なくなっていたのだ。

「バカね、上よ!!!!」

凛の頭上から美南の声がする。

咄嗟に上を向くと、千佳を抱えた美南が右手を凛の方向へ向けていた。抱えられている千佳も向けている。

「いつの間に!?」

「第4式を第2式で防ぐと思った?アレはただの目くらましよ!!!」

2人は省略化無詠唱雷魔術を放つ。

省略化無詠唱のおかげで魔術を連発するのに時間がかからない。何発も凛に向けて放つ。

「クッ!!!くぁ!!!」

避けていたが、1発足に当たった。第1式魔術だが省略化していることで威力が上がっている。一撃でリタイアまで持ち込める威力だ。だが今回は赤く発光しアラームが鳴ることはなかった。

「どうして…上に…。」

足を引きずりながら、着地した2人に対し構えた凛に対し、美南は答えた。

「簡単なことよ。〈ファイヤーウォール〉であなたの視界を遮った後、〈暴風の裂傷〉が当たる前に魔力を切って〈ファイヤーウォール〉を消滅させ上に跳んだの。気づかなかったでしょ?」

「…落ちこぼれの小細工が…!!!」

美南は余裕たっぷりの笑みで答えるが、内心は少し焦ってもいた。本当はこの攻撃で勝負を決めたかったのだが、足に1発だけしか入らなかった。

動きを少し鈍らせたとは言え、相手はA組。動かなくても、その気になれば自分達など取るに足らない相手だろう。

「美南ちゃん…ちょっと考えたんだけど…。」

悩んでいると千佳が美南にある作戦を耳打ちした。

「…大丈夫?千佳。結構厳しい作戦だと思うけど…。」

「それしか勝つ方法はないよ。やるしかないよ。」

千佳は真っ直ぐと凛を見つめていた。











「かー!!!〈韋駄天〉で勝負を決めるたぁなかなかやるなあのボウズ!!」

徹の試合を観ていた土翳豪は満足そうに笑った。右手には煙草、左手には酒を持っていた。酒樽を持参していたようだ。

「3800年の節目に相応しい試合を繰り広げてるね!うん!僕も見てて楽しいや!!ほら見てよ豪!この女の子達も頑張ってるよ!」

雷裂透も子供のようにはしゃいで観戦していた。

「それよりさ、堰堤さんの息子さん、ずっと寝てるけど何がしたいんだろうね。」

雷裂透が煜翔寺堰堤に話を振った。形無千に挑戦するとは聞いたが、試合中盤、終盤に差し掛かっているこの場面で、ずっと寝転がっているだけだ。正確には少し動いて誰かと喋っていたが、戦闘はしていない。

「さぁな。私はなんとなくあいつの考えていることがわかったが、これは言わん方が興だろう…。」

とだけ言うと煜翔寺堰堤は静観を続けた。

「ただいま戻りました。」

水嶺暦は試合の途中で軍から呼び出しがあり少し席を外していた。その用事が済んだらしく、席に戻ってきた。

「お、水嶺!用ってのはなんだったんだ?」

「はい、土翳さん。報告によると…………。」

水嶺暦が全員に話す。

「それは本当か水嶺。」

「はい、信憑性は低いですがそういった情報が出回っている以上動かざるを得ません。」

「…厄介ごとを次から次へと。」

煜翔寺堰堤は普段の業務でのトラブルと相まって少し疲れていた。深くため息をついた。

「…わかった。私達が動こう。そうだな…形無の試合が終わってからでよかろう。常闇。お前はここに残れ。理事長の責務があるだろう。」

「わかってるよ。その件に関してはお前らに任せる。」

煜翔寺堰堤の指示により常闇セン以外の6人が受けた報告の対処にあたることになった。










「今度はなに!?逃げるだけ!?さっきの威勢はどうしたの落ちこぼれ!!!」

足を負傷し動けない凛はその場で魔術を使い、千佳と美南に攻撃を仕掛けていた。

素早く二手に分かれ移動する千佳と美南に広範囲の魔術を使用し続けていた。その攻撃に対し、避けるか最低限の防御系魔術で凌いでいた。そして隙をみて省略化無詠唱魔術で応戦する。

「ハァ…ハァ…喰らいなさい!!」

「速さに慣れたらどうってことないって言ってるじゃない!!!」

常に動き回っているせいか疲れが見える。しかも2人が放った魔術も、凛の防御系魔術によって防がれてしまう。

「ハァ…ハァ…大丈夫…?美南ちゃん…。」

「んっ…。まだまだ行けるわ…。千佳こそ、バテるんじゃないわよ…。」

身体強化魔術を使っているからといって、自身のスタミナが増えることはない。動き回れば疲れるし、身体強化した体で動いているので、普段より倍に疲れる。

だが、毎日この山で走り回っていたので体力はついた方だ。このスタミナ作りも今回の新人戦で活きたようだ。

(これも見越して先生は毎日山で特訓したのかな…?)

テキトーに見えて実は、色々なことを想定していたのかと思うと、千佳はやはりあの先生は実戦経験があるのではないかと考えた。『花園』の人達ともなんらかの繋がりがあるような雰囲気だったのも頷ける。実はすごい人なのでは…?とも思った。

「ちょこまかちょこまか…鬱陶しい!!第4式攻撃系土魔術〈土流雪崩〉!!!」

凛は構築・展開した魔術を地面に叩きつける。凛の全方位の地面が隆起し凄まじい勢いで広がっていった。千佳と美南は目の前に10mほどの隆起した地面が向かってきた。逃げようにも全方位隆起していることで左右は不可能、上に跳ぼうとしても10m以上飛ぶには時間がない。

「ちょっ!なによこれ!!どうするの!!」

美南が慌てている。が、千佳は慌てることなく冷静に考えていた。

(この魔術から逃げる方法じゃなくて、この魔術をどう対処するかを考えないと…。)

「美南ちゃん…。」

「なによ!!こんな時に!!どう切り抜けるか考えたの!?」

「私ね、美南ちゃんと友達になれて本当よかったと思ってる。」

「え!?なにこの状況でこれから死ぬようなセリフ吐いてんの!?」

「あの時すごく嬉しかったよ…。私親のせいで友達って言える友達、いなかったから…。」

「バカ言ってんじゃないわよ!!」

美南の平手打ちが千佳の頬を赤く染めた。

「親のせい親のせいって、全部押し付けてんじゃないわよ!!そうやって自分から逃げたって何も始まらないわよ!千佳の全てを受け入れてるからこそ、友達なんじゃない!…親が金持ちだからって関係ないわ!月に1回ぐらい家の食事に参加させなさい!それくらいでいいわ!!!」

「結構求めてくるね…。」

「冗談よ。私が言いたかったのは、友達作りぐらい、自分の力で頑張りなさいってことよ。親が親がって諦めるのはもったいないわ。…で、急にどうしたの?そんなこと言って。」

美南は迫り来る魔術を見つめ、千佳は美南を見つめる。

「感謝してるから伝えただけだよ。あと…この後も試合頑張ってね。」

「なによ一緒に頑張るんでしょ…千佳?」

笑いながら横を見ると、もう千佳の姿はなかった。

千佳は敵の魔術に向かって走っていた。

「なにしてるの千佳!?危ないわよ!!!」

(これしか方法がないの…。こんな私にできること、これぐらいしかないの。後は任せたよ、美南ちゃん!)

千佳はギリギリのところで詠唱した。

「第3式防御系風魔術〈風前の灯〉!!!!!」

「千佳ーーーー!!!!!」

今の私にぴったりな魔術。こんな私にできることはこれくらい。後はよろしくね、皆。

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