第11話 違和感。

『次々にやられていきます!クソッ!落ちこぼれの分際で…ウァァァァァ!!!』

プツッと通信が切れる。

「何が起こっているのだ…おいお前ら!!!!応答しろ!!!!!」

雀須先生は俺の隣で怒鳴っていた。

優勝の為の通過点にしか過ぎない試合で、こんなにも苦戦を強いられているのだ。そりゃ怒鳴る。

今のところA組は30人中20人が残っているが、対するE組はまだリタイアした者は出ていない。

「形無…貴様何をしたァ!!」

怒りの矛先が俺へと向かう。

「別に…。俺はアイツらに戦い方を…殺し方を教えただけですよ。」

俺は誇らしげに答えた。







「ほう。軍用魔術か。」

A組対E組の試合を屋上で観戦する煜翔寺堰堤は言う。

『花園』ために屋上に置かれた椅子からはフィールドが一望でき、大まかな様子を見ることができる。詳細は野外観戦塔にあるようなモニターを1人1台用意されていた。

「まだ完璧には程遠いですが、筋がいいです。彼らは真面目に訓練していたのでしょう。」

水嶺暦はモニターでE組の生徒を観戦していた。

魔術、動き共にまだまだだが、1ヶ月ほどでこれだけできていれば上出来だろうと感じていた。

「これ先輩は参加しないんですか!?」

椅子をガタガタ揺らしながら子供のように聞く炎葬大和は、形無千とのウォームアップが不完全燃焼だったため暴れ足りないようだ。その様子が態度に出ている。

「バカもの。生徒同士の試合で教師が出てどうする。」

呆れたように常闇センは答える。

すると屋上に校長が現れ、メンバーに深々とお辞儀をすると常闇センの方へ向かい耳打ちをした。

「理事長…苦戦してますけど、これA組が勝ちますよね…?」

愛想笑いを浮かべ、しかし目は焦りでいっぱいいっぱいな表情で聞いた。

「ほう?…なぜそう思う。」

「いやぁ…E組の生徒は頑張ってますよ?頑張ってますけど、ほら、相手はA組ですし。あと、煜翔寺様のご子息もいらっしゃるわけで…。」

そう耳打ちしながらチラッと煜翔寺堰堤を見る。

その視線に気づき、目だけを校長の方へ向ける。目が合うと怯えるように視線を常闇センに戻した。

「煜翔寺の息子が試合に関係あるのか?…違うだろう、校長が心配していることは。」

その言葉にアハハ、お気付きですか。と愛想笑いをする。というか常に愛想笑いだった。

「別に構わんだろう、E組が勝っても。それほどの実力があるということだ。見栄え的には変わらんだろう。」

メディア面を心配していた校長は、やはり決勝はA組対B組という絵を作りたいのだ。

「いやー…あの大変申し上げにくいのですが…。メディア等にはあの煜翔寺堰堤様のご子息が率いるA組対B組になると伝えてありまして…。」

「ほーう…。結果が決まる前にそう伝えたのか。そうかそうか…。で、私に何の用だ。」

わざわざ屋上まで校長自らが足を運んできたには理由があるだろう。常闇センは本題へ切り込んだ。

「…E組があそこまでやれるとは到底思えません。理事長と知り合いと言っていたあの教師に、何か吹き込んだ…あ、いえ。失礼しました。何かアドバイスでもしたのかと思いまして…。」

要は決勝はA組対B組したいのに、知り合いだからってE組に吹き込むな、邪魔すんなということだろう。

「ハハハ!!!私がそんなことするとでも?お前は金に目がないだけかと思っていたら、人を見る目もないのか!」

常闇センは笑い、そんな皮肉を言った。校長は愛想笑いのままだったが唇を噛み、怒りを押し殺している。

「そんなことはしていない…。で、今から私に何かして欲しいのだろう?そら、お前が持ってきたトランシーバーを寄越せ。」

お見通しと言わんばかりに、常闇センは校長へ手を出した。校長はゆっくりと胸ポケットからトランシーバーを出し、常闇センへ渡す。

「お願い致します、理事長。」

そう言うと、校長はまた深々とお辞儀をし屋上を去った。

「…理事長という職も大変ですね。」

風凱珠希は労いの言葉をかけた。

「そうでもないぞ?普段は理事長室でふんぞり返ってるだけだからな。」

常闇センは薄く笑うとトランシーバーを起動させた。

「で、常闇セン。それで何を頼まれたんだ?」

煙草を吸い終わりそのまま拳で潰し、ポイと後ろに放り投げた土翳豪が問う。

「これで千に、『頑張りすぎんな』と伝えて欲しいんだと。」

意地悪そうな笑みを浮かべ、トランシーバーを見せる。

「そうかそうか。なら早く伝えてやれ。お前の言葉でな。」

「はなからそのつもりだ。」

常闇センはトランシーバーを形無千へ繋ぐ。









司令塔室には敵チームの残数、自チームの残数が表示され自チームの生徒がフィールドでどのような動きをしているのか見ることができるモニターが2台ある。

それで確認し、教師は指示をおくることができるのだ。

だが俺は試合中に1回も指示を出していない。

一応トランシーバーは起動していて、生徒達が連絡を取り合っているのを聞いているが、特に言うことはない。常に無駄のない動きだ。この短期間でよくここまで成長したと思う。

対するA組はどこから仕掛けてくるかわからない状況に混乱し、手当たり次第魔術を打ってるといった感じだ。これでは勝敗が見えている。しかしこんなに簡単に勝たせてはくれないと思っている。なんか違和感を感じる。

わざと統率の取らないよう指示でも出しているのか…?

だが雀須先生の様子を見る限りでは、この人がそのような指示を出してるとは思えない。

だったらもうアイツしかいないな…。

「おい!輝彦!どーなってる!!」

雀須先生はトランシーバーで煜翔寺輝彦へ連絡した。

やはりアイツが一枚噛んでいたか…。

「あぁ…。そうか…。あぁ。そうだったな。わかった。任せる。」

冷静さを取り戻し通信を切った。

何を言ったんだ…?そして何を考えている?

と考えていると俺のトランシーバーに通信が入った。

『…あー。聞こえるか?セン。』

「ん?…あぁ。姉さんか。どうしたんだ?急に。」

『今な、私のところに校長が来て言伝を頼まれたんだ。』

あのクソハゲが俺に言伝…。

大体予想はついているが、一応聞いてみた。

『校長が、あんまり頑張りすぎるな、メディアからのお小遣いが今後もらえなくなったらどーする。だとさ。』

トランシーバーの向こうから豪快な笑い声が聞こえる。多分土翳豪だろう。

そんな直接的な言い方はしていないが、ニュアンス的には合っていると思う。

「…あぁ、そう言ってたのか…。そうかそうか。了解した。」

そう言って通信を切った。

まぁ言われるだろうとは予想していたがまさか姉さんを通して伝えてくるとは…。理事長という立場から教師という立場の者に伝えることで強制力を強めたというわけか。

だが、素直に受け入れるほど、俺は教師ができていない。

「各員に告ぐ。」

俺はトランシーバーで生徒達に言う。

「全力で勝ちに行け。以上だ。」

俺は生徒達の返事は聞かずに通信を切る。

生徒達はそのつもりで戦っているし、今喋って敵に見つかる可能性を考えると、返事はないことは予想できる。これは俺が自分自身に改めて言った。

なんとしても勝つ。









「なんかおかしくねぇか…?」

徹は茂みの中で小さな声で呟く。

「なんか妙ね……。アッサリし過ぎてるというかなんというか…。」

実習の時と同じく、徹・美南・千佳の3人班で行動していたが、あまりにも上手くいき過ぎて徹と美南は疑問を抱いていた。千佳は木の上で隠れながら偵察をしている。

「いっつも先生とやりあってるから物足りなさはわかってんだけどよ、あまりにも歯ごたえがないというか…。」

「というより、統率がとれてないわ。各々自由に行動しているって感じ。」

「目標、3人。前方30m先。来るよ!」

千佳が2人に伝える。すると3人は喋ることなくジェスチャーで合図し、目標を殲滅へ向かった。

「出てこい!この臆病者めが!!!コソコソ隠れてないで堂々戦え!!」

A組の生徒1人が叫ぶ。

この隠れる場所が多く、どこから襲ってくるかもわからないフィールドで、見えない敵に対して叫ぶのは私はここにいるから殺してくれと言っているようなものだ。

それとも、どこから襲ってきても対処できる絶対的な自信があるか。

「あの忌々しい落ちこぼれが…。アイツは俺が絶対に殺す…ッ!!」

目標の中に徹と一悶着あった瀬戸内という生徒がいた。その姿を美南が確認すると、ある作戦を立てた。

「え、マジかよ。嫌だよ?俺死ぬの。」

「大丈夫大丈夫、いざとなったら全力で逃げなさい。」

というと、徹は隠れるのをやめ、3人の前に姿を晒した。

「よお、A組の負け犬さん。俺のことを殺すって?やってみろよ。俺に勝てるのならな!!」

ワザと徹は挑発する。

「貴様ァ…。不意打ちで勝ったからと調子に乗りやがって…。絶対に殺してやる!!!!!」

瀬戸内は右手を前に突き出し、詠唱する。

「ハァァァ…第5式攻撃系雷魔術…。」

術式が展開し完成する前に、瀬戸内以外の2人の生徒を美南と千佳が攻撃する。

「グハァァ!!!!!」

「!?!?」

1人はリタイアしたが、もう1人は魔術が当たる寸前で避けた。

「やっぱり先生のようにはできない…。」

攻撃が外れた千佳は少し落ち込むが、すぐに切り替え、前に立つ2人の生徒と対峙する。

『私はディフェンスボードを探しに行くわ!2人とも、後はお願い!』

トランシーバーで美南が伝える。姿を見られていない今は、敵の前に姿を現わすのは得策ではないと考え、1人で行動すると判断したらしい。

「なんだ今の魔術は…詠唱も聞こえなかったぞ…?」

瀬戸内は第5式魔術の発動を中断し、態勢を立て直した。

美南の作戦では、徹が敵を挑発しその間に美南と千佳が2人をリタイアさせ、その混乱に便乗し瀬戸内を叩くという作戦だったが、失敗に終わった。

「俺達があの先生から何を教わったのか知らねぇだろ。」

「フンッ。落ちこぼれが落ちこぼれから何を教わったところで、所詮は俺達の踏み台でしかないんだよ。弁えろ。」

心底憎いという感情を隠そうとしない瀬戸内に対し、徹はニヤリと笑った。

「その慢心が敗因と知りやがれクソ野郎!!!!」

徹が身体強化魔術を使用し、先に仕掛けた。

「落ちこぼれの分際で!!!」

相手も身体強化を施していた。壮絶な殴り合いが始まる。

その殴り合いをよそに千佳はもう一度茂みに隠れようとする。が、

「第2式攻撃系炎魔術〈ファイアーボール〉!」

行く手を炎の球に遮られた。

「どこへ行くの?落ちこぼれ。」

「……あなたみたいな女の子、一生友達になりたくない。」

千佳も覚悟を決め、A組の生徒と真正面から戦うことを選んだ。

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