第8話 新人戦開始。

君は優秀な兵士だ。

各属性の攻撃系魔術を7式まで扱えるなんて、君は戦争する為に生まれてきたようなものじゃないか。

心配しなくていい。戦闘技術は戦場に出れば自然につくものだ。

あのお父さんをも超えることが、できるかもしれないね。


わかってる。これは夢だ。夢とわかっていながら醒めることができない、強制的に見せつけられる悪夢だ。


でもまだ何かが足りないよ。何かが。我が軍が、他の勢力に対して圧倒的なまでの力を見せつけるには、何かが足りない…。


もういい、やめてくれ。醒めてくれ。

夢の中で体を動かそうとするが、動けない。

何か椅子のようなものに俺の体は固定されていた。

そして光が一切入り込まない部屋で、古い映像をずっと見せつけられている。


君は最強の兵士だ。だが、まだ最強だ。無敵ではない。完成品に近い欠陥品だ。だから…。










「なんなんだ最近…。」

今度は違ったタイプの夢を見た。今回の夢は初めてだった。だが前回と同様に汗は布団を湿らすまでかいていた。

「また風呂に入ってから行くか…。」

と服を脱ぎ脱衣場な向かおうとするが、チラッと目に入った時計が家を出る時間の30分後を指していたことに気がつく。

「………。」

落ち着け、今日は新人戦当日。多分今までの教師生活で…といってもまだ1ヶ月ぐらいしか経っていないが、この教師生活で入学式の次に遅刻してはいけない日だ。そんな日に俺が寝坊するわけ…。

もう一度時計を見る。

あいも変わらずさっき見た時刻を指していた。

「……とりあえず風呂はやめにするか。」

俺は服を着替え、寝癖を直し、朝食代わりにコーヒーを一口飲んだ。

そして家を出て鍵を閉める。深呼吸。

「ふぅ…。………まずい。」

俺は一気に冷や汗をかいた。

今持ちうる限りの魔力を費やし、身体強化魔術を重ねに重ね、ダッシュで学校へと向かった。







「えー今年は術式3800年という、実にめでたい年であると同時に、記念すべき年であります。であるからしてー……」

俺が校内に着いた時には外に1年生がクラスごと並んでおり、前には各担任の先生、校長、理事長がいた。

多分いないの俺だけだった。

今は長ったらしい校長の話を耐えるという一種の訓練中だったので、助かった。まだ競技は始まってないらしい。

「形無先生…!こっちこっち!」

小声で手招きをして俺の場所を教えてくれたのは先日会ったばかりの音羽先生だった。俺はその手招きにつられるがまま、呼ばれた方へ駆けてった。

「ギリギリ…セーフですかね…?」

「いや、ギリギリアウトですよ…。」

いつものニコニコ顔のままだったがちょっと困ったニコニコ顔だった。

俺の到着に那珂先生は相変わらずのエロい笑みを浮かべ、雀須先生はでかいため息をついていた。

校長は俺のことなど気にも止めずに気持ち良さそうに話している。姉さんこと理事長は俺の姿を確認するや、(後で半殺しにするからな)という視線を送ってくる。

遅刻で半殺しにされる会社ってどんだけブラックなんだよ…。いやまぁ、俺が悪いんだけどさ。

俺の到着にE組生徒達には安堵の表情が見られた。

…美南はずっと睨んでるけど。怖くて直視できません。

「……ということで、メディア関係者さん達やあの『花園』のお方達もいられます中で、思う存分力を振るってください!以上です。」

というと校長は一礼し後ろへ下がった。『花園』と言ったが、あの連中はどこにいるのだろうか。

と、周りをキョロキョロしていると校舎の屋上に場違い感極まりない豪華な椅子が7つ置かれており、周りには軍服を着た兵士達が数人いるのを確認できた。

そこには偉そうに座っている『花園』のメンバー6人がいた。もう1人の常闇センは、校長の後に理事長挨拶として、生徒に話さなくてはならないので下にいた。



一通りの流れが終わり、第1試合までの準備時間となった。

第1試合はC組対E組。C組の担任は那珂先生だったので少し挨拶に行った(遅刻したことはあんまりいじられなかった)後生徒達の方へ向かった。

生徒達は指定された場所に集まりそこで待機、そして試合開始10分前の合図と共に準備し、そこから試合開始をする。E組の生徒はいつも俺達が実習の時に書いていた山の赤い円(前日に消しておいた) 付近で集まっていた。

「これがディフェンスボードかー!生で見るとデッケェなぁ!!!」

E組の指定された場所には黒い長方形の水晶のようなものが置かれていた。大きさは4mほどあり厚さも1mはあるのではないかと思う。

その黒い長方形をパシパシと叩きながら徹が興奮している。

「おまたせー…ってうおっ!びっくりしたなんだこれ!」

俺はルールを多少聞かされてはいたので、この物体があることを知っていたがこんなデカくて不気味な物だとは思わなかった。

「先生遅刻ですよ…。というか、本当にテレビ見たことないんですね…。」

千佳か朝の挨拶代わりのお辞儀と共に苦笑していた。

多分皆テレビで放送された新人戦でこのディフェンスボードという謎の物体を見ていたから驚かないのであろう。

「開始15分前です。開始15分前です。生徒、担任の先生は所定の位置へ集まってください。繰り返します。開始15分前です……」

校舎からアナウンスが流れると、生徒達に緊張が走った。アナウンス前でもソワソワしていたが…。まぁ大丈夫だろう。

「よーし!お前ら!初戦だが、今回は徹と立花!!コイツらに任せる!!今まで伸ばしてきた実力はA組戦まで隠しておくぞ〜?詳しくは2人に聞いてくれ!!よし、俺は行くぞー?……徹、立花。見てる全員の度肝を抜かしてやれ!!!!!」

「おう!!!!!!」

「はい!!!!!!」

元気な返事をもらい俺は所定の位置、校舎付近にある司令塔室という場所へ向かった。新人戦で担任教師はどのような役割があるかというと、ここの司令塔室で現状を把握し各生徒達に配布してあるトランシーバーに指示をすることが主な仕事だ。だが外から戦場を見て指示をするいうのは、机上で現状を確認し指示をするようなものであって、現場の状況とうまく噛み合わないことがある。なのであれこれ指示するのも得策ではない。生徒達の考えで行動することが重要になってくる。

因みに、あのトランシーバーは生徒間でもやり取りすることができる。

「開始10分前になりましたので、ルールを説明します。ルールを説明します。…勝利条件は敵チーム全員をリタイアさせるか、ディフェンスボードを破壊することです。装着している防具、その防具は相手の魔術によって攻撃を受けると瞬時に計算され、実際ならば再起不能になるダメージを受けますとアラームと共に赤く発光する仕組みになっております。そうなった場合直ちに校舎前の待機場所に集まってください。制限時間はありません。どちらかが勝利するまで行います。……開始10分前となりましたので、ルールを……」

校舎近くにスピーカーもあったので急に大音量のルール説明が流れ俺はビクッと驚いた。

「あらあら…可愛いところもあるんですね、形無先生。」

隣にいた那珂先生にクスクスと笑われてしまった。

笑う姿はエロいというか妖艶だ。

「いやぁ、いきなりきたもんですから…。ところでC組の生徒さん達はどーっすか?」

「いやいや…それを聞かなくてもわかってるでしょ?形無先生。あんなに配置系魔術を仕掛けたらバレますよ?」

俺の偵察がバレていた。

まぁC組とA組にはめっちゃ仕掛けたからな。一応B組とD組に仕掛けはしたのだがあんま見ていない。

「アハハ…まぁあからさまでしたもんね…。あんだけ仕掛けてほぼ全部壊されてましたから…。」

と言う俺に那珂先生は少し不思議な表情をした。

「ほぼ…全部…?私のところに仕掛けてあった配置系魔術は全て破壊したつもりだったのですが…?」

「またまたー。那珂先生。…あんなわかりやすい所に何個も設置しないでしょ?普通。」

意地悪そうな笑みを浮かべ那珂先生を見る。その笑みに那珂先生はぷすっと頬を膨らませてそっぽを向いてしまった。…可愛さも兼ね備えてしまったらもうこれは暴力だ。エロい上に可愛いなんて。

「形無先生、ということは偵察は成功してたってわけですか!」

「まぁそうですね。配置系魔術のダミーは全て壊されてましたけど、本命は全て生きてましたからね…。作戦立てやすかったです。」

アハハハと仁王立ちで高笑いする俺をニコッとして見た後、トランシーバーで生徒達に指示を送っていた。

「あ、あと那珂先生。」

「なんですか?形無先生。」

トランシーバーで指示を送った後俺の方へ振り返る。そのタイミングでまたスピーカーから大音量で流れた。

「開始30秒前です。開始30秒前です。」

毎度毎度これはびっくりするからやめてほしい。

「那珂先生とC組には悪いですが、この試合、10秒で終わらせます。」

俺は人差し指を那珂先生の方へ向けニヤリと笑い、宣戦布告をした。

「試合開始です。」

その宣戦布告を合図にしたかのように、試合開始が告げられた。










「試合開始です。」

その放送と共に観客席と呼ばれる場所から拍手は雄叫びが聞こえる。一体誰が見にきているのだろうか。他のクラスだけでなく、保護者や来賓も来ているのだろうか。

だが今はそんなことは関係ない。

「…で、徹。立花。形無先生になんて言われたんだ?」

男子生徒が2人に話しかける。対A組の作戦は全員が聞いたが、対C組の作戦は徹と立花しか聞かされていない。これも情報漏洩を避けるためだとあの先生は言っていた。

「まぁ見とけって。あ、あとお前ら!危ないから少し離れてろ!!」

徹がそういうと他の生徒達は立花、徹の2人から距離を取る。すると2人は手を前に構え、久々の魔術詠唱を始めた。

「白銀に輝くは霊廟の青。世界を埋め尽くし礫の礎とならん…。」

そう唱えると立花の両手の前に大きな術式が現れ、1つ、2つと円を重ねていった。

魔術詠唱では第○式○○系○魔術と唱え始めるのが基本だが、第6式、7式となってくるとこういった決められた詠唱文が必要となってくる。完全無詠唱での発動はほぼ不可能に近いと言っていい。できて詠唱文を省略ぐらいだろう。

「鋼の鎧を身に纏い馳せ参じまいて具現せよ。王たる所以の意思と共に我を導け……。」

徹の前にも大きな術式が現れ、1つ2つと円を重ねていく。

立花の前には7つの円。徹の前には6つの円が現れた。

それを遠巻きに見ていた他の生徒達は、そう。ザワザワしていた。

「あいつら何する気…?この山でも吹き飛ばすつもりなのかしら…?」

美南が心底心配したような顔で2人を見る。

立花は氷魔術、徹は身体強化魔術が得意だということは知っていたが、まさか7式や6式の魔術まで扱えるとは到底思ってもいなかった。なのでまぁ、ザワザワするのはわかる。

「行くぞ!!!!!!!徹!!!!!!!」

「おうよ!!!!!!!!」

2人は叫び魔術を行使した。

「〈雹雪崩〉!!!!!!!!!」

「〈英雄の凱旋〉!!!!!!!」

立花は両手を地面に叩きつける。そうすると魔術は発動し、地面から氷の剣山のようなものが物凄い勢いで現れ、あっという間に眼前は氷で埋め尽くされていた。だが氷の剣山は衰えることを知らない。その上を6式身体強化魔術を施した徹が、まるで道を走るかのように駆けていく。あれほどの身体強化を施さなくては7式氷魔術の影響を受けてしまい、足を置いた瞬間凍る。それを避けつつ、その上を走り敵のディフェンスボードまで一直線に駆けるのが今回の作戦だ。

シンプルだが誰もが思いもしないだろう。試合開始の合図からまだ10秒ほどしか経っていないのに、急に目の前に氷の剣山が現れ、その上を走ってきた男にディフェンスボードを壊されるなど、誰が予想できるのであろうか。


徹の体は6式身体強化魔術で柔らかい光に包まれていた。目の発色は変わり緑色になっていた。目の前に剣山という道があることを確認すると足に力を込め、勢いよくスタートダッシュをきった。そのスタートダッシュは、速すぎて軽いソニックウェーブを起こしていった。自分の移動速度より少し遅い氷の剣山は、100mほど先で止まった。それを確認すると、ジャンプし、その反動でヒビの入った剣山はそのまま崩れ下に自由落下していった。それを下にいたC組の生徒が色々な魔術を使って下敷きになるのを防いでいた。だがその剣山に集中している間にディフェンスボード目掛けて落ちる。そして強化されている腕で上から力一杯ディフェンスボードを殴りつける。

そうすると缶を上から潰したように、ディフェンスボードはぐしゃぐしゃと潰れ壊れた。

その光景をやっとこさ氷の剣山を対応したC組の生徒達は、呆気に取られるように見ていた。

わけもわからず目の前に氷の壁のようなものが現れ、急にそれが降ってきて、やっと壊したと思いきや、後ろですごい音がすると思って振り返ったら自分達のディフェンスボードが上から潰されているのだ。そりゃ呆気に取られる。

「し、試合終了ーッ!!」

開始から終了まで15秒ほどだった。

放送している人も油断していたのだろう。ディフェンスボードが壊されてから少し間があった。

徹と立花は高威力魔術の反動でぐったりと倒れ込んでいた。

が、残る力を振り絞り手だけを上にあげ、親指を立てた。

それをみた形無千も満面の笑みを浮かべ、

「よくやったお前達!!!!!!!」

グッと親指を立てた。

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