第4話 新人戦へ。

「はぁ…。新人戦、ですか。」

俺が教師になってから1週間が経ち、クラス生徒の顔も段々と覚えてきたところに校長から呼び出された。

「そう!我が校は1年から実践的魔術教育に力を入れていてね、年に何度か合同魔術訓練を行っているのだよ!」

「それが1ヶ月後ですか…。ちょっと早すぎやしませんかね?」

「いやいや。この最初の段階で、友人や他クラスの生徒の実力を知って互いに切磋琢磨し合うのだよ!今後の勉学にも力が入るってもんだ!」

まぁ、言わんとしてることはわかる。が、この学校のクラスは魔術の実力?で分かれているのではないのか?そんなの、A組の無双っぷりを1年全員で見ようの会となんら変わりないのでは。

「ともかく!!常闇理事長お墨付きの形無君!期待しているよ!!!」

「は、はぁ…。そんなに期待されても困るんですけどねー…。」

愛想笑いを浮かべながら校長室を後にした。

呼び出されたのが朝のHR前だったので早足で教室へと向かう。無駄にデカい校舎だ。早足で向かったところで間に合うとは思えない。だが、あんまり間に合う気はないので別に焦ってはいない。早足なのはただ単に、間に合う努力はしてましたよーというのを見せたいだけである。あるいは自己満足。



「おまたせー。はい、HRはじめっぞー。」

「先生、15分も遅刻しといてなにサラッと始めようとしてるんですか。まず遅刻したことを謝ってから始めてください。」

美南がわざとらしく小バカにしたような口調で言ってくる。近くの席の千佳がまぁまぁといった表情で困った笑顔を作っていた。が、俺は悪いとは思っていないことで謝りたくはない。

「馬鹿たれ。俺は校長に呼び出されて遅くなったんだよ。俺に非はない!!!!」

えっへんと言わんばかりの仁王立ちで教壇へ立つ。

「と、いうのはさておいて。お前ら。1ヶ月後、この学校で新じ…」

「新人戦!!!!!!」

クラスのほぼ全員が俺の言葉を遮り、続く単語を言った。

「…あれ、お前ら知ってたのか。」

「知ってたもなにも、有名だぜ?この学校の新人戦ってやつはよぉ!」

徹が立ち上がって答える。

「…徹の言う通り。各クラスがトーナメント形式で団体戦を行い、競い合う。言わば昔の時代の体育大会的なものだ。」

立花が座りながら答える。

「その後には先生達のエキシビションマッチがあるんだよね?クラスの順位、先生達の順位で点数を振り分け見事1位になったクラスには…」

「そう!!!!!!特別支給が与えられるゥ!!!」

立花の後に続いたのは、いつも徹・立花と一緒に行動をしている葉隠蓮。大人しそうな性格だが、その歳にして結構な魔力を持っている。こいつが戦場に出れば、魔力が枯渇するという心配などしなくてもいいほどだ。

葉隠の後のセリフは立ち上がっていた徹が吠えるように叫んだ。

「毎年この新人戦はメディアが取り上げているんだよね?」

千佳が美南に聞く。美南は黙って頷き、

「先生、家のモニターで見たことないの?」

「あー…毎年家に帰る頻度が少なかったからなぁ…。まぁお前らが知っているなら問題はないな!」

「…でも。」

後ろの席で下を向きながら言葉を発した生徒がいた。

この生徒は吉田渉。実習では特に秀でた成績はないが、頭が良く回る生徒だ。もしかしたら俺より頭いいかも知れない。多分。

「でも、毎年A組が1位を取っている…んだよね。生徒も先生も…。僕達E組が勝てる…のかな?」

「バカ言うなよ渉〜?やる前から諦めてたら勝てるもんも勝てねぇぜ?」

自信満々の徹が吉田に向かって言う。が、

「その通りよ。」

美南が腕を組んで座ったまま続ける。

「毎年圧倒的な実力差を見せつけて1位を取っているわ。生徒だけでなく教師もよ。大体、個々の実力差で負けているのに、団体となったら…毎年当たるC〜E組の生徒は目も当てられなかったわ…。」

美南の言葉に全員が沈黙する。

「…毎年E組は決勝の前にA組と当たるのか?」

俺は美南の言葉で疑問に思った。トーナメント形式なら5組あるクラスがランダムで、いや1つシード枠はできるのでA組がシードになるのはわかっているが、他はランダムで決まるものではないのか。

「違う…んですよ先生。毎年A組はシード、他のクラスはほぼ決まっているんです。E対CかD組で、その勝ったクラスがA組と当たるんです。そしてB組対CかD組で、勝ったクラスが決勝戦という感じなんです…。」

なるほどな。

「つまりは、だ。決勝戦にはA組対B組になるように作られているんだなこのトーナメント。運良く格上のクラスに勝ったE組は、結局A組と当たるようなシステムに毎年なっていると。」

「そうだぜ…。5組しかないんだからしょうがないと思うんだが…。知ってるか先生。この新人戦、メディアに取り上げられているって言ったじゃねぇか。実はこの学校、そのメディアに多額の金を受け取っているという噂があるらしい。金を渡す代わりに、どうぞ私達の局をご贔屓に、ってな。」

徹が拳を握りしめながら答えた。

「で、金をもらっている以上、決勝なんかで無様な試合は見せられない、だからA対Bと…。」

大人は汚ねぇなぁ。そんな大人になるくらいなら、俺は一生ガキでいい。こいつらと一緒にガキでい続けてやる。

「そんなもん、ぶっ壊してやるよ。」

俺は静かに言った。が、その言葉を全員がしっかりと聞いていた。

「い、今なんて…」

美南が目を丸くして言った。

「そんな出来レース、この俺がぶっ壊してやるって言ってんだ!!!!!!」

教卓に手に持っていた色々な書類を叩きつけ、叫び、そしてニヤリと笑った。

「なーにが無様な試合は見せられないだ。なーにが実力を知って切磋琢磨し合うだ。なーにがお墨付きの形無君だ。あのクソハゲ頭、目にものみせてやる。お前ら全員ついてこい!!!!!!この残り1ヶ月死ぬ気でシゴいたるわァァ!!!!」

「おおおおおおおおおお!!!!!!!」

生徒全員の雄叫びが教室中に響き渡った。





「で、他クラスからうるさいとクレームが入ったと。」

流石にあの雄叫びはだだっ広い廊下でも響いたらしい。隣のD組の先生が血相を変えて怒りに来た。

怖かった。

「いやはや、すみません姉さん。」

「姉さんではない、理事長と呼べ。…全く。熱くなるのはいいがお前は今は教師なんだぞ?生徒との境界線をキッチリとなぁ…」

で、今は理事長呼び出され怒られている。

「でも、新人戦なんてすごいなこの学校。…まぁしかしトーナメントの形式は、褒められたもんじゃねぇけどなぁ?ねぇ理事長サンっ。」

「アホか貴様は。…私は待っていたんだよ、ずっとな。…ずっと待ってたんだお前みたいなバカみたいな教師と、それについてくるバカみたいな生徒を。」

「理事長が生徒をバカって言っていいのか…?」

「バカとしか言えんだろう。…本気でA組を倒しに行くE組の連中は。」

常闇センはニヤリと笑う。

「私もウンザリしてたんだ、このメディア向けの、御誂え向きの出来レースが。校長のメディアとの金銭的なあれこれが。それをぶっ壊そうにも表立ってやるわけにはいかない。なんせ私はこの学校の理事長だからな…。だが、それが生徒だったらどうなる?…しかも落ちこぼれと呼ばれた生徒達だったら…?考えるだけで面白いことになってきたなぁ?」

ニマニマ顔で俺の方を見てくる。やはりメディアとの関係は、この女は持っていなかったらしい。金に困ることなんてないもんな、この人。

俺はその言葉に、親指を上に立てグッとポーズをしてから

「任せとけ。面白いもん見せてやる。」

親指を下に向け捨て台詞をはき、午前の実習へと向かった。




「まぁやることはいつもと変わらないんだがな!!!」

第5演習場についた俺達はいつもと同じように、攻撃系魔術の詠唱破棄・構築展開短縮化を練習した。

「なぁー…先生。シゴいてやるとか言ってたけど、ずっとこれでいいのか?」

徹が練習しながら聞いてきた。

「今から1ヶ月だ。1ヶ月しかないんだ。新しいことをやったって本番で使えるわけがない。から、今やっていることのスキルアップに努めろ。でもだな。」

その言葉に全員練習をやめ俺の方を向く。なかなか精度は上がっていっている。次のステップに移ってもいい頃だ。

「でも、次のステップには移る。今日から1ヶ月間、2時間第5演習場で練習した後は学校近くの山まで行って特訓をする。」

「はぁ!?!?!?」

全員が驚いた。なんだか初授業を思い出す。1式を教えると言った時もこんな感じで驚いてたなぁ。

「次は何を企んでるんですか…?」

千佳が恐る恐る聞いてくる。全員の視線が集まり、このわけわからん教師が何を言いだすかを待っている。

俺は腕を組み仁王立ちで自信満々に、そして不敵に笑って…。

「山で隠れんぼをするぞ。」

と伝えた。

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