第2話 さて、魔術をイチから勉強しましょう。

昔話をしよう。

昔々あるところに、で始まる話だ。

そう、昔々あるところに、父に憧れる男がいました。

その男は父の背中を追いかけ魔術軍に入りました。

父は大変優秀で、戦場で数々の成績を残していました。

その姿に憧れ奮闘しますが父が戦死したことを上司から聞きました。

上司は詳しい話をせず、男が尋ねても頑なに話しませんでした。

その態度に不信感を抱いた男は、父が戦死した戦争に参加していた父の同僚に話を聞きに行きました。

父の同僚に尋ねると、怒りを押し殺したような表情を浮かべ一言、


「この国を信用してはいけない。」


とだけ言いました。とさ。







「これが、人を殺すということだ。」

自分達が馬鹿にしていた1式魔術が、こんな威力をしているとは想像もしていなかった生徒達は一言も喋ることはなかった。

「俺達が今まで使ってきた魔術は、簡単に人を殺すことができる凶器なんだ。俺達自身が凶器なんだ。最近はその認識が薄い。だから俺はこうやって実演してみたんだが…」

俺は生徒達の方を向き説教っぽく話してみたが、俺の話をちゃんと聞いているかわからないほどぽかんとしていた。

少しやり過ぎてしまった感はある。そこは反省している。が、後悔はしてないかな。

「俺が今から教えるのはこの凶器の使い方だ。自分が大事な人を守るためには、それ相応の力が必要になる。力を知り、学び、扱えるまで俺が面倒を見てやる。」

「せ、先生…。」

「お、どうした、千佳。」

最初に言葉を発したのは千佳だった。千佳が〈スパーク〉を使った後に俺の魔術を披露したので、位置的には俺に一番近い場所にいる。一番近い場所にいながら他の生徒達よりも発言することができるのは大した度胸を持っていると思った。

「これが、私達にも使えるようになるんですか…?」

「そうか…。安心しろ。使える。要は考え方の問題だ。俺の〈スパーク〉を見て、凄い魔術だったり凄い魔力の量だったりと考えた奴がいるかも知れない。が、残念、それは不正解だ。俺はただ単に、お前らと同じように術式を構築し魔力を込め、魔術を放っただけだ。」

「ど、どうしてそんな威力になるのよ!」

と、美南が若干声を荒げながら言う。E組とはいえ第1に入学するほどのエリート、自分には予想外のことに納得がいかないので少し腹が立ったのかもしれない。しかも自分と同じ工程でつくられた魔術だから尚更だ。

「まぁまぁ落ち着けって。だから考え方なんだよ。1式魔術の術式がなぜこー…頭の大きさくらいか?まで広がるか知ってるか?」

「いや…考えたこともないです…。」

俺がジェスチャーで大きさを示しながら説明する。

「それはな、魔術の基本的な大きさが比例して広がるようになってるんだ。中でも雷の攻撃系魔術の〈スパーク〉は広い方だ。それを無理やり小さくするんだよ。」

「そんなことってできるんですか?」

次は生徒達の中から男の声が聞こえる。

また名簿で名前をチェックする生徒が増えたな…。

いや、全員覚えなきゃいかんのだが。先生は大変だぜ。

「できる。皆魔術を使う時そんなこと意識したことないだろ?術式を小さくする、なんて。やってみると思いのほか簡単にできるぞ。まぁ俺がやったあれくらいの小ささにするには、そりゃ練習が必要だが特段難しいわけでもない。……あーあの、あれだ。水出すときに先っちょをギュッてするとさ、水って勢い増すだろ?あれを魔術と術式に置き換えてやるのさ。」

うまく説明できたかはわからんが、つまりはそういうことである〈スパーク〉から発生する雷は結構大きいので、その出口である術式を絞ってやれば雷もその分勢いを増して放出されるってことだ。

ホースから水出すときにホースの先っちょをギュッてするのと同じような原理だ。

今の時代ホースなんて使う奴見たことないけど。

「そ、それはなんとなく理解できました…。ですが先生は、魔術を使用するとき詠唱してませんでしたよね?」

次に疑問に思っていたであろう疑問を千佳が俺にぶつける。

「あー詠唱ね詠唱。あれもタイムロスだなーと思って色々考えたんだわ。そしたら詠唱無しでできるようになった。」

「アバウト過ぎよ!ちゃんと説明しなさい!!」

美南からツッコミがきた。

いいツッコミだ。

ツッコミはやはりタメ口に限る。敬語でツッコミを入れてもなんだか面白さが半減してしまう感じがする。

ともかく。

「えっとだなー…。なぜ魔術を使うとき詠唱するのかを考えたんだがな、それはイメージを具体化するためだという仮説に至ったわけだ。思っているだけよりも口に出した方がイメージしやすいからな。結局のところ魔術というのは自身の思考から生まれるものだ。だからそのイメージというものを強く心に持ちぁいいってことよ。口に出さなくてもハッキリとした魔術のイメージを持つ。そうしたらなんかできるようになった。」

「なんだかユルいですね先生…」

引きつった笑顔を向ける千佳。やめてくれ、そういう性格なんだ。

とはいえ少し場が和んだとこで早速実習に取り掛かろうと思う。これを身につけることで魔術の幅がぐんと広がるというものだ。

「よーしお前ら!まずは術式の縮小化から始めてみようか!」

「はい!」

今日一番の元気な返事が返ってきた。




「疲れたー……。」

「美南ちゃん…お弁当食べないの?」

「箸が動かせないのよー!!」

午前の実習が終わり昼休憩に入った生徒達は、教室で新しくできた友人達とご飯を食べていた。実習が1式とはいえ未体験なものだったので、疲れが出ているようだ。

その未体験の実習で、生徒達同士が話す機会が増え(主にどのような感覚でやると小さくなるとか上手くできた生徒が他の生徒にアドバイスをするとか)友人もそこで作れたらしい。

発言の多かった美南と千佳が仲良くなるのはそう遅くはなかった。

「たしかにあの先生にはびっくりしたよね。」

「ホントよ!高校にもなって1式からやるとか言い出したりしかもその1式がバカみたいな威力してたり…よくわかんない!!」

「あ、あははは…」

足をバタバタさせながら怒る美南を、向かい合わせにしている机で千佳は困った笑顔を浮かべていた。

「いやーでも俺達をE組だからって無下にしないでちゃんと教えてくれるのは嬉しーよな。」

大きな声で文句を言っていた美南の声は教室中に届いていた。その文句に男子生徒が答える。

「たしかに徹の言う通りだけど…」

美南が机に突っ伏せたまま答える。さほど離れていない席に男子3人グループで座り昼食を取っていた男子生徒、折鶴徹だ。ガタイがよく、本人曰く身体強化魔術を得意とするらしい。

「そうだね…。入学魔術テストの点数が高ければ高いほどA組に近づくんだっけ?」

自分の手作り弁当の中の、大好物のウィンナーを箸で取りながら千佳が言う。千佳は好物を最後に食べる派らしい。

「そうよ…。あのテストは複雑な魔術操作、扱える魔術演算、魔術属性で決まる。私達はそれが合格ギリギリだったということよ。」

突っ伏した美南は少し暗い声で答える。

「でもよぉ、あのテストに身体強化なんてなかったじゃねぇか?他がダメダメな俺はE組になったけどよ、言っちゃえば戦闘となったらA組の奴らに負ける気はしねぇぜ?」

「もー徹君ったらそんなこと言わな…」

「ほう?随分と大きくでたな、落ちこぼれの分際で。」

徹が力こぶを見せて大げさにアピールしていることに笑いながら千佳が答えようとしたところで入り口に立っている男子生徒3人組に遮られた。

「…誰だテメェ。」

「なぜE組の落ちこぼれどもに自己紹介をしなければならん。バカか貴様は。」

「んだとコラァッ!!!」

「徹!!落ち着け!!」

入り口に立っている3人組の1人に挑発された徹は立ち上がり殴りかかろうとするが、一緒に昼食を取っていた友人に止められた。

「悪い…立花。一回頭冷やすわ。」

勢いのまま立った徹は挑発してきた男の目の前まで向かったのだが、背を向け自分の席へ歩き出した。

「醜い。第1に入学する落ちこぼれはどんなものかと見に来てやったのだが、想像以上だな。見るに耐えん。野蛮な猿ではないか。野蛮な猿と臆病者の集まりか。貶されても歯向かうことすらできない、力のない者共はそうやって群れることでしブァッッッ!!!!!」

言葉が途中で途切れた。

男が自発的に止めたのではなく、廊下の端までぶっ飛んだから途切れたのだ。

後ろを振り返ったはずの徹はいつの間にか挑発してきた男の顔面をぶん殴っていたのだ。

「あ、悪い立花。冷やした結果がこれだったわ。」

「はぁ…入学早々揉め事を起こさないでくれよ…。」

あっけらかんとしている徹に、ため息をつきながら呆れたように立花岬は言う。

と言うものの、挑発男の言葉はE組全員をイラつかせていたので少しスッキリしたことは確かであった。

「徹、アンタ詠唱無しで身体強化使えたじゃない。」

「おう美南。俺、あの先生に一生ついてくわ。」

爽やかな笑顔を、美南へ向けた。

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