another

「私を置いて行かないで」

 私の願いは聞き届けられることはなく、彼はもういなくなってしまった。またしても、私を置いて。どこか困っているような表情で。私が彼を感じられるものは、幼い頃に買った玩具の指輪だけ。

 彼は不思議な人だった。私の話にはちゃんと反応してくれるけれど、何か言葉をくれたりはしなかった。

 彼が急に旅に発ち、行方をくらました時、私は追いかけた。どこに行くのかもどんなことをするのかも言わずに消えてしまうのはずるいと思ったから。私は彼が好きだ。親が仲が良く、気が付いた時には隣にいた彼を好きになっていた。小学生の時、夏祭で買った指輪を、私も彼も薬指に着け続けていた。

 大学を卒業し、そろそろ本格的に将来を考えだした矢先。彼の両親が事故で亡くなった。それがショックだったのだろうか。彼が私の目の前から消えたのはこれが最初だった。

「なんで私に何も言わずにどこかに行くの」

 何故だろう。何もない砂漠の真ん中で彼を見つけた時、そんな言葉が口から飛び出した。それから、何度もいなくなろうとする彼を追い掛け続けた。何の意味があるのかわからない旅を終えると、世界は大混乱に陥っていた。ニュースなんてない場所に長くいたから、知らなかったけれど。

「地球はもう駄目です。皆さん、神に祈りを」


 神に縋り、全てを諦めた人々を横目に私は彼を探した。また、私を置いて行った彼を。ただ、愛しているから。死ぬのなら、彼と一緒にいたかった。彼は見つからない。私にしか見つけられないだろうし、もう見つからないのだろう。

 ついにカウントダウンが始まった世界の終わりの中、私は一人呟いた。

「あなたがあなたじゃなかったら、こんなに愛しくなかったのに」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

希う先に未来はない 詠弥つく @yomiyatuku

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ