希う先に未来はない
詠弥つく
希う先に未来はない
「私を置いていかないで」
悲鳴じみた声でそう希うあなたの姿は遠い惑星に変わっていった。残ったのは指に嵌るちっぽけな契約の印だけ。これは、僕の我儘だった。愛されていることを知っていた。それでもそれに応えたりしなかった。死ぬことを許されていなかった僕にはたっぷりの自己愛しか与えられていない。好きに生きることも、好きに死ぬこともできない僕にはそんな心なんて最初からなかったのだ。
誰が言ったのかは知らない。誰が願ったのかなんて興味はない。広い宇宙の中で、小さく回る惑星群。その中に輝く青い星。僕の生まれた意味はその星に住む生命体を殺すことだった。生まれ落ちた瞬間から自らの生きる意味を知っているというのは幸せか不幸せか。
何も知らない人間の中で生きて、僕を産み落としてしまった保護者の突然の死後、僕は仕事を始めた。
小さな地球を旅して、星に爆発を促す。短くはない旅の途中、彼女はいつからか隣にいた。
「なんで私に何も言わずにどこかに行くの」
何故だろう。彼女について思い出せるのはいつもそんな言葉ばかり。何度も泣かれ、怒られ、そうして僕は旅を終えた。人間がこの星の危機に気付いた時、僕は彼女を置いて星から飛び出した。
「3,2,1,……0」
予定通り、彼女を乗せたまま星は吹き飛び、僕はたったの一人きり。
そして僕の呼吸もゆるやかに止まる。地球で生まれた命の一つとしてあたりまえに消えていく。
「もし、もしも、僕がただの人であったのなら。きっとあなたと恋をした」
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