第9話 僕と御子神は……
次の火曜日、御子神から複写してもらったユサの写真を使って再び持ち主探しの開始……の前に机の中をのぞいてまたきょうはく状が入っていないか探る。
中は昨日の放課後の時と同じまま、きょうはく状のような紙は入っていなかった。御子神はまだ来ていない時間でよかった。けど念のために人の少ないところから聞き込みを初めよう。
ランドセルを置きに後ろを振り返ると、稲垣が腕を組んでまるで怒っているように立ちふさがった。
「深山、お前御子神に何かしたのかよ」
「僕が御子神になんだって」
「昨日一緒に御子神の神社に入っていくの見たんだぞ。道具は返ってきてもう用事はないはずだぞ」
げっ! 僕と御子神が帰り道を歩いていたところを見られていたのか。しかもよりによって稲垣にだ。一体何をされるのかと縮み上がる僕。夏休み明けから身長が伸びたのと日焼けしたのが相まって大きく見えるから、にらまれるだけでもすごんでしまう。
稲垣は手を出してこず、じっと僕の顔を見続ける。いつもならもっとぐいぐい詰められるのに何もしないから、逆に怖い。
「御子神とは、ぬいぐるみの持ち主探しをしていたんだよ。昨日も一緒にしていたでしょ」
「それだけで御子神の家に行くか?」
稲垣は腕を組んだまま引かない。
僕と御子神はつくも神が見えるからと言っても信じてもらえないだろうし。
「おっはよー鶴弥。また霊和をいじめてるの?」
張りつめた空気とは場違いなほがらかな表情で女子が入ってきた。大山だ。ああ、話がややこしくなりそうな人が着ちゃったよ。
「深山が御子神の家に一緒に入っていくのを見たんだ。この間の試合の時にグローブをきれいにして持ってきたときも、付き合いの悪い御子神が深山に味方していたからなんか変だなと思ってさ」
大山と違い、あまり話したことのない稲垣からすれば急に僕にだけ味方していると思われているのが気にくわないようだ。
すると大山は昨日と同じようにあごに指を乗せてふむふむと考え始めた。
「なるほどそうか。この仮説なら話はつながるわ。この間まで接点がなかった霊和がどうしてみみみとぬいぐるみの持ち主探しをしていたのか」
何が分ったのだろうかとひやひやしながら稲垣と同じタイミングで大山の答えを待つ。
パチンと大山の指が鳴った。
「それは
「婿修行?」
「みみみの家、古い道具を管理をしているって聞いたことがあるの。グローブにぬいぐるみも、伝統ある神社の家業を継ぐための一環でみみみと手伝いをしていたというわけ」
予想外の質問に一瞬息が詰まった。
当たらずも遠からずは変わらないけど、とんでもない推理だ。
御子神のことはかわいいとは思っている。けどそういう考えでやってはない、御子神や道具たちのためにできることをしたいと思ってやっただけなのに。
「深山、すでに将来のことまで考えていたなんて……」
「ち、ちがうよ。そんなことじゃないから」
「じゃあどんなことなんだよ」
稲垣の巨体が一歩前に歩み寄る。説明しようにも、その巨体から発せられる威圧感で口が上手く回らない。
「おい、そこ俺の席なんだけど」
いつのまにか入ってきた花房が眉をつり上げて稲垣に負けないぐらいにらんでいる。
「なんだよ。大事な話をしている最中なんだよ」
「別にそこでする必要はないだろ。ただ話をするだけなら教室の後ろにでもいけよ。勉強のじゃま」
稲垣の
あの稲垣に強気な態度で挑むだなんてと驚く僕であるが、花房の眉はまだつり上がっていて今度は僕にも向く。
「調子乗るなよな」
首筋に氷を当てられたように冷たい声に、ひやりとした。なんで、僕巻き込まれただけなのに……
「あいつ、御子神を取られたことでひがんでいるからってムキになりやがって」
「花房、御子神のことが好きなの?」
「二学期になってから御子神のことをちらちら見ててさ。どう見ても気があるに決まってる」
御子神、自分から男子と話しに行かないけど、僕みたいに美少女だから気になってしまう男子もいるんだ。まさか花房もそうだったとは。でも、誤解だ。婿になってもないのに勝手に言われているだけ。
「まあまあ、実友がみみみのことが好きかどうかは置いといて。実際のところどうなの霊和?」
「別に俺は御子神派じゃないからやきもち焼かないけど、事実関係をはっきりしたいんだ」
ぐいぐいと二人がかりの連携攻撃に襲われる。
「幸、何やってるの? 稲垣とタッグになって」
予鈴ギリギリの時間に登校してきた御子神が、珍しい組み合わせに目を丸くしている。
「御子神、昨日深山と一緒にお前の家の神社に行ったよな」
「うん。ぬいぐるみのことで話していた」
稲垣が僕の時と同じ質問をすると、物怖じせずに答えた。
「それで、みみみと二人付き合っているの?」
声には出さなかったけど御子神は鳩が豆鉄砲を食ったように驚いていた。
「夏休みまで二人とも接点なかったのに、急に持ち主探しとかグローブ持ってきているから付き合っているのかなと」
「親戚だよ。私と深山君」
御子神の親戚というレシーブが決まり、今度は大山が驚く番。ひざがガクッと崩れ落ちかける。
「え? し、親戚? 一学期の時、二人とも親戚だなんて言ってなかったよね」
「今まで連絡が取れなかった遠い親戚だと最近知ったの」
「う、うん。僕のおじいちゃんが御子神と親戚だって」
同じクラスメイトが実は親戚だなんて、そんな偶然あるのかと言えばあったとしか言えない。それも発覚したのが経ったの数日前だったらなおさらだ。
「なんだ、親戚かよ。なら深山が手伝いをしていたのも親戚の手伝いなわけじゃん。婿修行だとかとんだ空騒ぎじゃねえか」
「あ、ありゃりゃ。美少女名探偵大山の推理が外れちゃった。ごめんね霊和、みみみ」
肩透かしを食らった稲垣があきれ果てると予鈴が鳴り、二人は自分の席に戻っていく。
二人の誤解を解けてよかったと思ったのもつかの間、御子神はしかめ表情をして背負っていたランドセルをドンと置いた。
「ちゃんと違うよってはっきり言わないと。付き合っているとか変な誤解のまま広まったらお互い困るよ」
「ごめん」
「深山君は表情でわかるけど、それだけで伝わらないことはあるんだよ。つくも神様なんか特にそうなんだから」
正論の前に返す言葉もなかった。稲垣に御子神とは親戚だと言えれば大山が来る前に話は済んでいた。
昨日御子神の料理を食べたとか、お互いのことを話せたことで一人で舞い上がっていた。クラスで御子神と話した男子としてありたかったから、僕自身が親戚だからということを表に出したくなかったのかもしれない。
そんな小さな見栄で御子神に迷わくをかけてしまったら元も子もない。
先生が入ってくる前に、とぼとぼと自分の席に座る。
すると、机に放置していた教科書と共に置いていた筆箱が落ちていた。中の鉛筆や消しゴムが床に散乱して、一部は先が折れているものもあった。誰が落としたのかと教科書と筆箱を戻すと机の中に紙が入っていた。
『再三警告したはずだ。今度はお前だけではすまない、ぬいぐるみのことから手を引け。調子に乗るな』
『調子に乗るな』という言葉がいやというほど深くぐさりと胸に突き刺さった。
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