第7話 ぬいぐるみの持ち主は?
次の月曜日。夏休みのあとまた休み明けとあって気だるいけど、捨てられたさっちゃんの大事な物だから早く返したほうがいい。
とりあえずクラスメイトの中で、最近になってぬいぐるみを捨てられた子がいないか聞いてまわろう。近所でぬいぐるみを探していますの張り紙をする方法もあったけど、御子神が見るより聞いた方が情報が早く伝わるそうだ。
ランドセルの中身を机の中に移して、さっそく聞き込み開始。ちょうどタイミングよく、後ろの席の
「花房。最近ぬいぐるみをなくしたって子知らない?」
「なんで俺に聞くんだよ」
ランドセルをドンと乱暴に机の上に置いた花房はしかめっ面でにらんできた。
「いや、どこかでそういう子知っているかなと思って」
「俺は
痛いところをつかれた。クラスのボス兼野球クラブ所属と顔が広い稲垣の方がそういう子を知っている可能性が高い。それにもう学校に着ているから別に花房でなくてもよいはずだ。でも、一番近くにいるから手っ取り早いと思っただけでなのに、なんで怒られなきゃいけないんだ。
ことわざで『遠くの親戚より近くのりん人』という言葉があるけど、親しくなかったらこんな痛い目にあうから、変えるべきだ。
ねちねちと花房の文句が続くと、花房の頭に手刀がぽすんと落とされた。
「
花房を止めた大山が後ろのポニーテールをしっぽのようにゆらしながら、席の間に割って入った。
「わかったよ。ちょっと虫の居所が悪かっただけだ」
「ごめんね霊和、昨日の塾のテストがボロボロだったから機嫌悪くて」
「別にそんなんじゃない。勝手なおくそくをするな」
気さくに話しかける大山に、プイと花房は塾に通っているとあってか難しい言葉を使いながら顔をそむける。
大山は女子にしては背が大きく、僕よりも背が高い。体が大きいこともあってか、クラス全員のことを下の名前で呼ぶ気さくなお姉さんポジションだ。たしか花房とは同じ塾に通っているとあってよくからんでいるのを見かける。
大山のおかげで気がもんだところで、ぬいぐるみについて聞いてみよう。
「大山、最近ぬいぐるみをなくしたって話どこかで聞かない?」
「ぬいぐるみ?」
「うん。うさぎの、で持ち主の名前が」
「ちょっと向こうで行ってくれないか。この間のテストの復習したいんだけど」
重要な部分を言う寸前で、花房が机にノートを広げるとピリピリが再燃し始めた。大山が手招きして後ろのロッカーの所に移動するようにハンドサインを送る。
ここはもう避難第一だ。花房をこれ以上怒らせると情報収集ができなくなる。
後ろのロッカーに移動すると、大山がぺこりと代わりにあやまった。
「ごめんね。実友、最近塾の成績落ちているからピリピリしてさ。あいつの家、受験第一だから、次の成績次第で家庭教師をやとって四六時中勉強づけになるかもしれなくて」
うわ、きびしい。毎日朝から晩まで勉強勉強だなんて一日だってがまんできない。それなら一日中掃除でもしていたほうがずっといい。
「そうそう、さっきのうさぎのぬいぐるみの件だけど。もうみみみからから聞いているよ」
「みみみ?」
「美羽のあだ名。
言いにくいから『みみみ』か。でもそれもみを一つ分多く言い間違いしてしまいそうだ。でもよくそんな言いにくそうなあだ名を御子神は許しているな。
「ぬいぐるみのことも持ち主のさっちゃんも聞いたことないな」
「そうか。ざんねん」
「新学期になると、親にいらないものは捨てなさいって口うるさく言われるからね。私も新学期前にお母さんから道具整理しないと、勝手に捨てるからとかおどされたし。その子も泣く泣く親に捨てられたのかも」
ユサの話でもさっちゃんがいない間に、親に勝手に捨てられたと話していたな。掃除はしないといけないけど、持ち主がOKと言わずに捨てるのは嫌だもの。
「ところで、みみみと霊和が学校の授業以外で組むの珍しいね。というか初めてかも。みみみ、あんまり自分から話しかける子じゃないのに。まさかこの間の肝試しのときに何かあった?」
大山がぐいっと近づいて興味ありげにあやしむ。
そういえば、肝試しに行く前までは御子神とはあんまり話しかけたことなかった。いつも素っ気ない態度だからあんまりからんでほしくないのかなと思って近寄りずらかった。それが急に持ち主探しで協力していたら、あやしいと思われる。
すると大山は指をあごに乗せて、まるで探偵のように考え始めた。
「う~ん。あたしの予想と情報を照らし合わせると、肝試しで落とした鶴弥たちの野球道具を霊和が取りに行った時に、ぐうぜんぬいぐるみをみみみと見つけたからかな。あの霊園みみみの家の土地だから可能性としては十分ありだ」
当たらずも遠からず、というかほぼ当たってる。大山なかなかするどい。本当に探偵みたいだ。
「わかりやすい反応、図星ってところね。どう、美少女探偵大山
「びっくりするほど、すごいです」
「ふふん。どうよ」と大山が自慢げに胸を張った。ちょうどその時に、御子神が教室に入った。
「
「おっ、うわさをすればなんとやら。どう、持ち主見つかりそう?」
僕が言うはずの台詞をなぜか大山に先に取られてしまった。御子神は首を横にふった。だめか。
「クラスの子にそういう子は知らないみたい」
「そうか。わかっているのは名前だけで年も男か女かもわからないしね。さっちゃんだから、たぶん女の子だろうけど。まだ稲垣とか顔が広い子には話していないからもうちょっと聞き込みを続けるね」
「あと、帰ったら写真を撮るからね。どんなぬいぐるみか見せればわかりやすいと思う。実物はなくしたらいけないから持っていけないけど。もちろんきれいにする前のだからね。よごれや古さも持ち主にとっては大事な思い出だから、きれいにされすぎて別物になったらいけないし」
たしかに写真と現物が違うぐらいにきれいにされていたら、持ち主が自分のじゃないって本末転倒なことが起きてしまう。
うーん。きれいにしすぎないようにきれいにするのは難しそうだ。
「ちょっと作戦会議中に悪いけど、みみみ。急に霊和と仲がいいみたいだけど、霊和が何かしてくれた?」
「ん。一緒にぬいぐるみの持ち主探しのお手伝いや掃除をしてくれているけど」
「じゃなくて。みみみ、霊和とあんま話したことなかったのにけっこう親し気に話しているから。週末の休みに何かあったのかって友人として気になったの」
美少女探偵大山は急に変化した僕との関係について、御子神に根掘り葉掘り聞きだそうとする。しかし御子神は、別にやなんでもないとのらりくらりとかわしている。
まさか僕と御子神が親戚で、しかもつくも神が見える間柄だなんて言っても信じてくれないと思う。そもそも一緒のクラスのはずなのに、急に親戚だとわかったなんて目の前の大山探偵みたいにクラスのみんなに色々聞きだされると困るだろうしな。
キーンコーンカーンコーンとチャイムが鳴った。予鈴のチャイムだ。うちの先生はこれの五分後のチャイムに入ってくるので、五分の間に席に戻って授業の準備をする。
大山が席に戻る際に「とりあえず今は深く聞かないでおくから、またね」と何か意味深な声を残していった。
「じゃあまた」
「また昼休みにね」
御子神が素っ気なく返した。あれで親し気……なのかな。いつもと変わらないと思うけど。友人の大山だからわかるのかも。僕はその領域には達していないという裏返しでもあるけど。
でも金曜日まではこうやって御子神と共同で何かしたり、またねとかできなかったよな。いつも遠くの席で御子神かわいいなと見ているだけで終わる日々だったのに、今の状況を金曜日の自分に見せてやりたい。
心がうきうきとはずみながら、自分の席に戻りまだ出してなかった教科書を出す。と、クシャと教科書の上に紙があった。変だな、昨日のプリントはランドセルの中に入れてなかったはずなのに。入っていた紙はノートのページを割いたもので、四つ折りにされていた。
先生に見つからないようにこっそりと教科書を壁にして開く。
『これ以上ぬいぐるみについてせんさくするな。ひどいめにあうぞ』
これって……きょうはく状!?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます