第2話 お化け見えちゃった
は~あ、なんで僕がこんなことしなくちゃいけなんだ。
翌日、僕は昨日行った墓場に足を運んでいた。昨日僕が大声を出してしまったせいで稲垣たちが驚いて持ち物を落としてしまったのだ。
「深谷のせいでみんなの道具墓場に落っことしてしまったんだぞ。みんなの落としたもの取りに行けよな」
怖がりだと知れてしまったし、本当にお化けがいたことを言ってもみんな信じてくれないし、あのはたきも落としてしまって散々だよ。
お化けが怖いからもちろん夜でなく昼間に回収しにいったけど、残暑の太陽がギラギラ照り付けてすっごく暑い。墓場に木がほとんどないから影で日が直で当たる。お墓の影で日よけするのはお化けが出るかもしれないからまっぴらごめんだ。
首筋や腕がヒリヒリと焼かれながら、昨日の粗大ごみが置いてあった場所の近くにまでたどり着く。けどどこにもおじいちゃんのはたきや稲垣たちのグローブは見当たらなかった。
おかしいな。ここまで一本道だったからこの辺に落ちていると思ったのに。
するとお墓から伸びた影に一つ人影が現れた。
他にお墓参りに来ている人はいないし、そんなに大きくない墓石から人の姿も見えていない。も、も、もしかして……
ジリッと後ずさりすると靴の裏についていた小石を鳴らしてしまい、向こうにいた奴に気付かれ影が一段にゅっと伸びてきた。
「……深谷君? 何しに来たの?」
お墓からひょっこり出てきたのは御子神だった。ああ、なんだよおどかさないでよ。あと数秒出てくるのが遅れていたら、御子神をお化けだと勘違いしてビビッて逃げてしまうところだった。
御子神の着ていたのはおとなしめの水色のシャツと紺のスカートだ。制服でスカートは見慣れていたけど、普段着での姿は目新しい。しかしなんで御子神がここにいるんだろう。
「御子神こそ。神社は隣でしょ」
「ここ私の家の敷地だから」
「お墓なのに?」
「神社にも神道のお墓があるんだけど境内に入れちゃいけないから、少し離れたところにあるの。あとあれの片づけ」
御子神がチラッと不快そうに昨日見つけた粗大ごみをにらんでいた。夜の時は視界が悪くてあんまり見えていなかったけど、かなり無造作に捨ててあり墓石の上にまで置かれている。
「最近ウチの霊園に不法投棄しに来る人が多くて。掃除するのもごみ処理代も私の家が負担しないといけないくて頭にくる」
不法投棄のゴミって御子神の家が処分しないといけないのか! なんだよそれ、捨てられ損じゃないか。
「もしかして深谷君たちが肝試しのついでに捨てんじゃ」
ジトっと湿った御子神の視線が突き刺さった。もしかして僕が犯人だと疑われている? たしかに昨日の夜にここに入ったけど、僕たちそんなことしていない。
それにおじいちゃんのお墓の近くで捨てるだなんて、三ヶ条其ノ二『物を粗末にしない、勝手に捨てない!』に触れてしまうから怖くてできないよ。絶対に化けて出てくる!
「ちがうちがう。昨日来たときにはもうそうなっていたんだよ。ほんとだって」
「じょうだん。深谷君、お墓参りの時いつもきれいに掃除してくれるからそんなことしないものね」
御子神が手を口元に当てくすりと笑った。いつもクールで素っ気ない感じなのに、笑うと女の子らしいくてかわいい。
日頃から清潔にしてよかったぁ。
けど、粗大ごみの山に向き直ると元のクールな御子神に戻った。
「このまま放置するのも景観的に悪いし。ウチの神様に罰が当たるから、お父さんと私で神社の宝物殿に運んでいるの。深谷君の道具もそこに置いてあるからこれを運ぶがてら案内してあげる」
御子神が回収していたのか、どうりで見かけないと思ったよ。
御子神はゴミを運ぶ前に、手を合わせてお祈りしていた。さすが神社の娘。何でもお祈りするんだな。
そして捨てられていたオーブントースターを手に取ろうとすると「あちっ」と手をひっこめた。鉄の部分が太陽の熱でものすごく熱くなっているんだ。でも御子神は諦めずに、トースターだけじゃなくその上に小さな本棚を乗せようとしている。
やっとこさ持ち上げると、やはり重たいのかふらふらとして危なっかしく落としそうだ。見かねて上に乗せていた本棚を取ってあげた。
「持ってもらわなくても私一人で持てるのに」
「途中で落としたら危ないから。僕たちの落とし物回収してくれたからこれぐらいさせてよ」
でも御子神は小さく耳元でありがとうと言ってくれてうれしかった。
***
御子神の家である上つなぎ神社は霊園と道路一つ挟んだ反対側にあった。霊園とは違い、木とかがいっぱいあるからか同じところにあったとは思えないほど涼しい。ゴミを置いておく場所の宝物殿は、手を洗う場所の奥の所にあった。
宝物殿は見た目は古そうな日本家屋みたいだけど、しっかりとした木で組まれている。これを趣があると言うのだろうか。
宝物殿前には粗大ごみがビニールシートに置かれて、順番待ちをしているようだ。
「この中に昨日落としたものが置いてあるから取ってきてもいいよ」
宝物殿の中をのぞくと、薄暗く、奥の方が見えない。周囲の棚は古い壺やら箱やらが並んでいてアレが出てきそうな感じがただよっている。なんでどこもかしこもお化けが出そうなものがあるんだよ。もっと照明増やしてよ。
「深谷君、もしかして怖い? 中は暗いだけで、中にあるのは古い道具だけだから心配することは」
「べ、別に怖いわけじゃないし。宝物殿って名前だから宝物でもあるんじゃないのかなって観察していただけだよ」
ここで御子神に暗いのが怖いなんて泣き言言ったら、僕なんて絶対に相手してもらえなくなる。怖くて震えるのを我慢して宝物殿の中に足を踏み入れた。
宝物殿は蔵みたいな造りで、明かりが少ない。物が日焼けするの防ぐためなんだろうけど、床が木張りだから歩くごとにギィギィと鳴るし、クーラーも入っていなくてじっとりと汗ばんでお化け屋敷みたいだ。こういうの一番苦手。
それにここほこりっぽい。少し息を吸っただけでむせてしまう。宝物殿というわりにはあまり掃除していないな。棚に置いてある道具たちをビニール袋や箱でカバーしているようだけど、積もったほこりのせいで外見が汚く見える。
こんなのおじいちゃんが見たら喝! の一文字が入るよ。
でもここでのんきに掃除している暇もない。どうせだったら御子神に入ってもらいたかったけど、女の子がいる手前でお化けや暗いところが苦手だなんて言えなかったし、もう早く落とし物取って帰ろう。
タンスやらハンガーラックが道を狭めていた間を通り抜けると、昨日捨てられたテレビの上にあのはたきが置かれてた。隣には稲垣たちの持ち物であるグローブやバッドもある。
よかった、これでおじいちゃんが化けて怒られてずにすむ。
やっと人心地つき、はたきを手に持った。
『ち……して……くれ』
ガタガタとテレビから震えながらうめき声を上げた。
……うそ。やっぱり出るじゃんここ。御子神の嘘つき、目の前のテレビお化けがとりついてるじゃんか!!
逃げようと後ろに下がろうとしたけど、ハンガーラックに運悪く当たってしまい逃げ道を塞いでしまった。一方でテレビはジリジリと床を引きずりながら迫ってきた。
やだやだ、来ないで来ないで。このあと「呪い殺してやるー!!」なんて言わないでください。
そしてブンッとコンセントもケーブルも刺さっていないのに電源が入り砂嵐の画面が映し出されてると、二つの猫のような眼が僕を見た。
『地デジ化してくれ!!!!』
「ギャー!! ……って地デジ化?」
「そうだよ! 地デジ化してくれよ。あんたあたしを地デジ化させて使っておくれよ。お願いだからさ、こんなほこり臭いところから出しておくれよ」
ザーザーとテレビの砂嵐が声を上げると共にノイズが耳につんざいてくる。
状況が飲み込めないのと、お化けがみょうに親し気にせがんでくるからどうすればいいのか困惑している。
「おい新参者、ぎゃーぎゃー騒ぐのはやめろ。まだ夏の間はゆっくり寝てたいんだ」
「おおう、捨てられていた物も目覚めたのか。年季が短いから目覚めないと思っていたのじゃが。以外と早いのう」
首をねじってハンガーラックを見ると、バタバタとビニール袋を被ったコートとぴょんと壁から降りてきた柱時計が僕の方に目を向けていた。
なに? なにこれ? なんで次々と物が喋っているの?
「お主、御子神の家の者でないな。誰じゃ?」
長針と短針が八と四の所で止まってひげのように見える柱時計がぐいっと迫ってきた。
「
「深山? 聞いたとこがないな、しかしわしらが見えるということは……」
柱時計が何か言いたげに中の振り子をコッチコッチと鳴らして考え込んでいるとさっきのテレビが間に割り込んできた。
「御子神でも深山でもみそ汁でもいいからあたしをここから出しておくれよ。まだ捨てられるのは嫌なんだよ」
「なんだよここが嫌だってのかよ。勝手に来て寝床占領しやがって」
コートが宝物殿のことを馬鹿にされて怒っているすきに、稲垣たちの道具をこっそり取ると振り返って――猛ダッシュ!!
走るとほこりが舞い上がって息苦しいのを我慢して、入り口にへと全力疾走で戻っていく。
外に出られた。ぜいぜいと体に溜まっていたほこりだらけの空気を外の空気と入れ替えていると、御子神が心配して僕の顔をのぞきこむ。
「深谷君、顔色悪いよ。もしかして熱中症!?」
「……お、お化けが。テレビが地デジ化してくれとか頼まれて、コートやボンボン時計が話しかけてきて」
宝物殿の中で起きたことをとにかく頭の中で思い出しながら手あたり次第口に出すと、御子神の大きな目がより大きく僕を見ていた。
しまった。御子神にも変な人だと思われてしまう。
「深山君まさか、つくも神様たちが見えるの?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます